私、家出するけどちゃんと探してよね!

スーパー・ストロング・マカロン

文字の大きさ
上 下
218 / 275
再会の朝

217

しおりを挟む
「ソラよどうする?まさかまだこの茶番劇を続けるつもりか?」

「ウ、ウミはどうするつもり?」

茶番劇と言われてムッとはしたものの、恐怖に支配されたソラは自分で決められず質問を質問で返した。

「コイツらの内、何名かの奴らは必ずおまえを襲うだろうな。
そんで、俺はおまえを守る為にまた喧嘩だ。」

これ見よがしに盛大なため息をしようと思ったが、妻のオロオロしている顔を見て咄嗟に夫はため息を殺した。

「私、ウミにはもう喧嘩とかさせたくない。」

「そんならもう答えがでてるじゃねぇか。」

上目遣いでウミを見つめるソラと、ソラに飛びかかろうとする輩に睨みを効かせるウミ。
夫婦の間で言葉に出さずとも意見が一致した。
そうと決まれば実行が早く、熱狂的なソラファンを自認する男女に包囲された夫婦は覚悟を決めて飛び出した。

「ソラァ!手を離すなよ!」

「うん!私、どこまでも旦那様について行く!」

「オラオラオラ!」

ウミは妻の腕を掴みから抜け出す。
出入り口を塞ぎ行手を阻もうとする男達を蹴散らし、通り道を確保した夫婦は街中へ出た。


ソラはウミに手を引かれ必死に真後ろをひた走る。
ウミの鼓動を感じながら青く染まった短い襟足を見て、恐怖の中に身を置いていてもどこか喜びを噛みしめている。



夫婦はビジネスホテルを離れて、太陽にさえそっぽをむかれた新富福町の暗くて細い裏路地に身を隠した。

「ハァハァ、アイツら夢中になって反対方向へと向かって行ったぜ。
ひとまず大丈夫かな?ハァハァ。」

ソラは黙ってウミを見ていた。

「ソラァ?さっきからなんも話してくんねぇけど、どうしたんだ?
また何か不満でもあるのか?」

ソラは無言で首を横に振った。

「追いかけられたのは怖かったけどね、嬉しかったの。ウミが私を助けてくれた事がね。
だから見惚れていたの。」

「あ、あぁ…。」

「このままずっと私を追い回す変な人達に襲われていれば、ウミは私を守ろうと手を引っ張って導いてくれる…。
逃げている最中、ずっとこのままもいいかなって思えてきちゃった。
無理やりホテルでウミにやらせた劇なんか不要だったんだ。
あんな事をしなくても現実のウミこそ、強くて優しいナイト様だものね。」

今度はウミが無口になった。
決して不快になったわけではないが、どうすればいいかわからなかったのだ。

「ウミィ?」

「聞いているよ。」

「今すぐキスして。断らないで。」

「まだ安全な場所にいるわけではないぞ。早く顔を隠せ、武装をしろよ。
タイミングを伺ってダッシュだ。
タクシーを捕まえて、ひとまずセラちゃん家に避難だな。」

ソラはウミの現実的な発言を無視した。
瞳を閉じてピンク色で柔らかみのある小さな唇をウミに向けた。

太陽の光が届かない暗黒の路地裏に風が通りぬける。
風は、抱き合ってくちづけをかわす2人を横目で見て、恥ずかしげに大通りへ吹き抜けて行った。











































しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】愛くるしい彼女。

たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。 2023.3.15 HOTランキング35位/24hランキング63位 ありがとうございました!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

処理中です...