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再会の朝
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「ソラよどうする?まさかまだこの茶番劇を続けるつもりか?」
「ウ、ウミはどうするつもり?」
茶番劇と言われてムッとはしたものの、恐怖に支配されたソラは自分で決められず質問を質問で返した。
「コイツらの内、何名かの奴らは必ずおまえを襲うだろうな。
そんで、俺はおまえを守る為にまた喧嘩だ。」
これ見よがしに盛大なため息をしようと思ったが、妻のオロオロしている顔を見て咄嗟に夫はため息を殺した。
「私、ウミにはもう喧嘩とかさせたくない。」
「そんならもう答えがでてるじゃねぇか。」
上目遣いでウミを見つめるソラと、ソラに飛びかかろうとする輩に睨みを効かせるウミ。
夫婦の間で言葉に出さずとも意見が一致した。
そうと決まれば実行が早く、熱狂的なソラファンを自認する男女に包囲された夫婦は覚悟を決めて飛び出した。
「ソラァ!手を離すなよ!」
「うん!私、どこまでも旦那様について行く!」
「オラオラオラ!」
ウミは妻の腕を掴み新富福城から抜け出す。
出入り口を塞ぎ行手を阻もうとする男達を蹴散らし、通り道を確保した夫婦は街中へ出た。
ソラはウミに手を引かれ必死に真後ろをひた走る。
ウミの鼓動を感じながら青く染まった短い襟足を見て、恐怖の中に身を置いていてもどこか喜びを噛みしめている。
夫婦はビジネスホテルを離れて、太陽にさえそっぽをむかれた新富福町の暗くて細い裏路地に身を隠した。
「ハァハァ、アイツら夢中になって反対方向へと向かって行ったぜ。
ひとまず大丈夫かな?ハァハァ。」
ソラは黙ってウミを見ていた。
「ソラァ?さっきからなんも話してくんねぇけど、どうしたんだ?
また何か不満でもあるのか?」
ソラは無言で首を横に振った。
「追いかけられたのは怖かったけどね、嬉しかったの。ウミが私を助けてくれた事がね。
だから見惚れていたの。」
「あ、あぁ…。」
「このままずっと私を追い回す変な人達に襲われていれば、ウミは私を守ろうと手を引っ張って導いてくれる…。
逃げている最中、ずっとこのままもいいかなって思えてきちゃった。
無理やりホテルでウミにやらせた劇なんか不要だったんだ。
あんな事をしなくても現実のウミこそ、強くて優しいナイト様だものね。」
今度はウミが無口になった。
決して不快になったわけではないが、どうすればいいかわからなかったのだ。
「ウミィ?」
「聞いているよ。」
「今すぐキスして。断らないで。」
「まだ安全な場所にいるわけではないぞ。早く顔を隠せ、武装をしろよ。
タイミングを伺ってダッシュだ。
タクシーを捕まえて、ひとまずセラちゃん家に避難だな。」
ソラはウミの現実的な発言を無視した。
瞳を閉じてピンク色で柔らかみのある小さな唇をウミに向けた。
太陽の光が届かない暗黒の路地裏に風が通りぬける。
風は、抱き合ってくちづけをかわす2人を横目で見て、恥ずかしげに大通りへ吹き抜けて行った。
「ウ、ウミはどうするつもり?」
茶番劇と言われてムッとはしたものの、恐怖に支配されたソラは自分で決められず質問を質問で返した。
「コイツらの内、何名かの奴らは必ずおまえを襲うだろうな。
そんで、俺はおまえを守る為にまた喧嘩だ。」
これ見よがしに盛大なため息をしようと思ったが、妻のオロオロしている顔を見て咄嗟に夫はため息を殺した。
「私、ウミにはもう喧嘩とかさせたくない。」
「そんならもう答えがでてるじゃねぇか。」
上目遣いでウミを見つめるソラと、ソラに飛びかかろうとする輩に睨みを効かせるウミ。
夫婦の間で言葉に出さずとも意見が一致した。
そうと決まれば実行が早く、熱狂的なソラファンを自認する男女に包囲された夫婦は覚悟を決めて飛び出した。
「ソラァ!手を離すなよ!」
「うん!私、どこまでも旦那様について行く!」
「オラオラオラ!」
ウミは妻の腕を掴み新富福城から抜け出す。
出入り口を塞ぎ行手を阻もうとする男達を蹴散らし、通り道を確保した夫婦は街中へ出た。
ソラはウミに手を引かれ必死に真後ろをひた走る。
ウミの鼓動を感じながら青く染まった短い襟足を見て、恐怖の中に身を置いていてもどこか喜びを噛みしめている。
夫婦はビジネスホテルを離れて、太陽にさえそっぽをむかれた新富福町の暗くて細い裏路地に身を隠した。
「ハァハァ、アイツら夢中になって反対方向へと向かって行ったぜ。
ひとまず大丈夫かな?ハァハァ。」
ソラは黙ってウミを見ていた。
「ソラァ?さっきからなんも話してくんねぇけど、どうしたんだ?
また何か不満でもあるのか?」
ソラは無言で首を横に振った。
「追いかけられたのは怖かったけどね、嬉しかったの。ウミが私を助けてくれた事がね。
だから見惚れていたの。」
「あ、あぁ…。」
「このままずっと私を追い回す変な人達に襲われていれば、ウミは私を守ろうと手を引っ張って導いてくれる…。
逃げている最中、ずっとこのままもいいかなって思えてきちゃった。
無理やりホテルでウミにやらせた劇なんか不要だったんだ。
あんな事をしなくても現実のウミこそ、強くて優しいナイト様だものね。」
今度はウミが無口になった。
決して不快になったわけではないが、どうすればいいかわからなかったのだ。
「ウミィ?」
「聞いているよ。」
「今すぐキスして。断らないで。」
「まだ安全な場所にいるわけではないぞ。早く顔を隠せ、武装をしろよ。
タイミングを伺ってダッシュだ。
タクシーを捕まえて、ひとまずセラちゃん家に避難だな。」
ソラはウミの現実的な発言を無視した。
瞳を閉じてピンク色で柔らかみのある小さな唇をウミに向けた。
太陽の光が届かない暗黒の路地裏に風が通りぬける。
風は、抱き合ってくちづけをかわす2人を横目で見て、恥ずかしげに大通りへ吹き抜けて行った。
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