私、家出するけどちゃんと探してよね!

スーパー・ストロング・マカロン

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再会の朝

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「シュゴ、シュゴ、シュゴ。」

受付の女性は異変を感じていた。
耳元でSF映画であるような特殊なガスマスクの呼吸音に似た息遣いが聴こえたからだ。
聴こえてくる妙な呼吸音の正体を知ろうと強張った顔で振り返った。

「キャー!」

背後にいる武装をしたソラに驚いてソファで泥のように眠るウミに前のめりになって飛びついた。

「痛っ!」

声をかけられても起きられずにいたウミだったが、受付の女性が体当たりしてきた事で全身の痛みで目を覚ました。

「す、すみません。」

「シュゴー、すみません。ではありません。
私の夫に抱きついて"すみません"では済まないですよ。」

ソラは腰に両手を当て、怒りを抑えながら言った。

受付の女性は深々と頭を下げて夫妻に謝罪をし、ウミがロビーのソファに長く居着いていた事を不審に思い声をかけたと説明した。

「シュゴー、ここはね公共の場よ。
ずっと寝ていたら注意されるに決まってるでしょ。」

ソラは注意する対象が受付の女性からウミに変わった。

「あのよ、ソラァ。俺がどんな思いでここまで辿り着いたのかを知らねえだろうから教えてやんよ。
危ねぇ奴らに危害を加えられて一度意識を失ってんだぜ。」

昨夜の破茶滅茶な件について、ウミは疲れで回らない頭を無理やり回転させ、握力でフルーツの果汁を一滴も残さず搾りだすかのように説明する。




「シュゴー、そんな事があったなんて…。
これも私が蒔いた種ね。ウミィ…ごめんなさい。」

ソラは咽び泣いてウミの胸に顔を寄せた。

「まだ言いてぇ事は山ほどあるが、ひとまずこのへんにしておくか…。」

「…でも私にとってウミはナイトだもん。きっと探し出してくれると信じていたよぉ。」

「…俺は自力でソラを探しだしたわけだし、もう不満はないよな?」

再会し涙ながらに抱きつかれても、こちらが考えつかない突拍子もない事を言い出すソラにウミは不安を払拭できずにいる。

「シュゴー、ねぇウミィ?私達はこうやって再会できた。
最後はここにいるみんなの前でナイトの務めを果たして欲しいなぁ。」

ソラを抱き寄せるウミは、この後の展開に嫌な予感を抱きはじめた。

武装で隠した顔でウミを見上げる。
ウミに委ねるようにソラは密着していた身体を後ろへ数歩下がり、黙って見つめた。

「みんなのまえでナイトの務め?今度はなんだってんだ?」

恐る恐るウミは妻に聞いた。

「シュゴー、みんなの前でナイトとして私に忠誠を誓ってほしいの。」

「ばっきゃろぉ!なんで俺がそこまでしなきゃならねぇんだ?
茶番劇はもういい加減にしてくれよ!俺は死にかけたんだぞ!少しは夫を労わりやがれ!」

今まで姿を消して囚われのお姫様を演じたソラに不満を抑えていたウミだったが、怒りの言葉を封じる事は無理だった。

ウミの発言にショックを受け、力が抜けたソラはヘナヘナ床に座り込んだ。

「ウミィ…。確かにウミが私をの中で、とっても悲惨な思いをさせてしまった事は心の底から申し訳なかったと反省しているわ。
でも…でも、私だって辛かったんだから。
家出をした理由は、結婚しているのにウミが私を放って独身貴族かのように生活したのがいけないのよぉ!シュゴー。」

ソラは立ち上がりビジネスホテルの出入り口まで行き、またも逃走を図った。

「そうはさせねぇぞソラァ!」

扉の把手を握るソラの腕を掴んだ。
ウミは鬼気迫る表情だ。

「シュゴー、離してぇ。私達、ここまできたのに分かり合えてないじゃない!」

「ソラ。おまえがもう2度と俺の前から姿を消さない…家出をしないって約束するならおまえに従ってやる。
この俺がここまで譲歩してんだ。おまえも誠意を示せよ。」

「はい。勇敢なナイト様。愛しき旦那様。」

あっけない程にソラはウミの言葉を受け入れて、逃走を企てるのを止めた。

出入り口から2人は受付付近まで歩く。

「マジだぞ?約束は必ず守れよな!」

「うん!」

これから始まる幸福な時間ーーーー離れ離れになった時間を埋めるように愛を確かめ合うことができる。
期待に心躍らせているソラは内股になり、胸元に手を組んで頷いた。

「シュゴ、シュゴ、シュゴ、シュゴ。」




















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