216 / 275
再会の朝
215
しおりを挟む
「シュゴ、シュゴ、シュゴ。」
受付の女性は異変を感じていた。
耳元でSF映画であるような特殊なガスマスクの呼吸音に似た息遣いが聴こえたからだ。
聴こえてくる妙な呼吸音の正体を知ろうと強張った顔で振り返った。
「キャー!」
背後にいる武装をしたソラに驚いてソファで泥のように眠るウミに前のめりになって飛びついた。
「痛っ!」
声をかけられても起きられずにいたウミだったが、受付の女性が体当たりしてきた事で全身の痛みで目を覚ました。
「す、すみません。」
「シュゴー、すみません。ではありません。
私の夫に抱きついて"すみません"では済まないですよ。」
ソラは腰に両手を当て、怒りを抑えながら言った。
受付の女性は深々と頭を下げて夫妻に謝罪をし、ウミがロビーのソファに長く居着いていた事を不審に思い声をかけたと説明した。
「シュゴー、ここはね公共の場よ。
ずっと寝ていたら注意されるに決まってるでしょ。」
ソラは注意する対象が受付の女性からウミに変わった。
「あのよ、ソラァ。俺がどんな思いでここまで辿り着いたのかを知らねえだろうから教えてやんよ。
危ねぇ奴らに危害を加えられて一度意識を失ってんだぜ。」
昨夜の破茶滅茶な件について、ウミは疲れで回らない頭を無理やり回転させ、握力でフルーツの果汁を一滴も残さず搾りだすかのように説明する。
「シュゴー、そんな事があったなんて…。
これも私が蒔いた種ね。ウミィ…ごめんなさい。」
ソラは咽び泣いてウミの胸に顔を寄せた。
「まだ言いてぇ事は山ほどあるが、ひとまずこのへんにしておくか…。」
「…でも私にとってウミはナイトだもん。きっと探し出してくれると信じていたよぉ。」
「…俺は自力でソラを探しだしたわけだし、もう不満はないよな?」
再会し涙ながらに抱きつかれても、こちらが考えつかない突拍子もない事を言い出すソラにウミは不安を払拭できずにいる。
「シュゴー、ねぇウミィ?私達はこうやって再会できた。
最後はここにいるみんなの前でナイトの務めを果たして欲しいなぁ。」
ソラを抱き寄せるウミは、この後の展開に嫌な予感を抱きはじめた。
武装で隠した顔でウミを見上げる。
ウミに委ねるようにソラは密着していた身体を後ろへ数歩下がり、黙って見つめた。
「みんなのまえでナイトの務め?今度はなんだってんだ?」
恐る恐るウミは妻に聞いた。
「シュゴー、みんなの前でナイトとして私に忠誠を誓ってほしいの。」
「ばっきゃろぉ!なんで俺がそこまでしなきゃならねぇんだ?
茶番劇はもういい加減にしてくれよ!俺は死にかけたんだぞ!少しは夫を労わりやがれ!」
今まで姿を消して囚われのお姫様を演じたソラに不満を抑えていたウミだったが、怒りの言葉を封じる事は無理だった。
ウミの発言にショックを受け、力が抜けたソラはヘナヘナ床に座り込んだ。
「ウミィ…。確かにウミが私を探す旅路の中で、とっても悲惨な思いをさせてしまった事は心の底から申し訳なかったと反省しているわ。
でも…でも、私だって辛かったんだから。
家出をした理由は、結婚しているのにウミが私を放って独身貴族かのように生活したのがいけないのよぉ!シュゴー。」
ソラは立ち上がりビジネスホテルの出入り口まで行き、またも逃走を図った。
「そうはさせねぇぞソラァ!」
扉の把手を握るソラの腕を掴んだ。
ウミは鬼気迫る表情だ。
「シュゴー、離してぇ。私達、ここまできたのに分かり合えてないじゃない!」
「ソラ。おまえがもう2度と俺の前から姿を消さない…家出をしないって約束するならおまえに従ってやる。
この俺がここまで譲歩してんだ。おまえも誠意を示せよ。」
「はい。勇敢なナイト様。愛しき旦那様。」
あっけない程にソラはウミの言葉を受け入れて、逃走を企てるのを止めた。
出入り口から2人は受付付近まで歩く。
「マジだぞ?約束は必ず守れよな!」
「うん!」
これから始まる幸福な時間ーーーー離れ離れになった時間を埋めるように愛を確かめ合うことができる。
期待に心躍らせているソラは内股になり、胸元に手を組んで頷いた。
「シュゴ、シュゴ、シュゴ、シュゴ。」
受付の女性は異変を感じていた。
耳元でSF映画であるような特殊なガスマスクの呼吸音に似た息遣いが聴こえたからだ。
聴こえてくる妙な呼吸音の正体を知ろうと強張った顔で振り返った。
「キャー!」
背後にいる武装をしたソラに驚いてソファで泥のように眠るウミに前のめりになって飛びついた。
「痛っ!」
声をかけられても起きられずにいたウミだったが、受付の女性が体当たりしてきた事で全身の痛みで目を覚ました。
「す、すみません。」
「シュゴー、すみません。ではありません。
私の夫に抱きついて"すみません"では済まないですよ。」
ソラは腰に両手を当て、怒りを抑えながら言った。
受付の女性は深々と頭を下げて夫妻に謝罪をし、ウミがロビーのソファに長く居着いていた事を不審に思い声をかけたと説明した。
「シュゴー、ここはね公共の場よ。
ずっと寝ていたら注意されるに決まってるでしょ。」
ソラは注意する対象が受付の女性からウミに変わった。
「あのよ、ソラァ。俺がどんな思いでここまで辿り着いたのかを知らねえだろうから教えてやんよ。
危ねぇ奴らに危害を加えられて一度意識を失ってんだぜ。」
昨夜の破茶滅茶な件について、ウミは疲れで回らない頭を無理やり回転させ、握力でフルーツの果汁を一滴も残さず搾りだすかのように説明する。
「シュゴー、そんな事があったなんて…。
これも私が蒔いた種ね。ウミィ…ごめんなさい。」
ソラは咽び泣いてウミの胸に顔を寄せた。
「まだ言いてぇ事は山ほどあるが、ひとまずこのへんにしておくか…。」
「…でも私にとってウミはナイトだもん。きっと探し出してくれると信じていたよぉ。」
「…俺は自力でソラを探しだしたわけだし、もう不満はないよな?」
再会し涙ながらに抱きつかれても、こちらが考えつかない突拍子もない事を言い出すソラにウミは不安を払拭できずにいる。
「シュゴー、ねぇウミィ?私達はこうやって再会できた。
最後はここにいるみんなの前でナイトの務めを果たして欲しいなぁ。」
ソラを抱き寄せるウミは、この後の展開に嫌な予感を抱きはじめた。
武装で隠した顔でウミを見上げる。
ウミに委ねるようにソラは密着していた身体を後ろへ数歩下がり、黙って見つめた。
「みんなのまえでナイトの務め?今度はなんだってんだ?」
恐る恐るウミは妻に聞いた。
「シュゴー、みんなの前でナイトとして私に忠誠を誓ってほしいの。」
「ばっきゃろぉ!なんで俺がそこまでしなきゃならねぇんだ?
茶番劇はもういい加減にしてくれよ!俺は死にかけたんだぞ!少しは夫を労わりやがれ!」
今まで姿を消して囚われのお姫様を演じたソラに不満を抑えていたウミだったが、怒りの言葉を封じる事は無理だった。
ウミの発言にショックを受け、力が抜けたソラはヘナヘナ床に座り込んだ。
「ウミィ…。確かにウミが私を探す旅路の中で、とっても悲惨な思いをさせてしまった事は心の底から申し訳なかったと反省しているわ。
でも…でも、私だって辛かったんだから。
家出をした理由は、結婚しているのにウミが私を放って独身貴族かのように生活したのがいけないのよぉ!シュゴー。」
ソラは立ち上がりビジネスホテルの出入り口まで行き、またも逃走を図った。
「そうはさせねぇぞソラァ!」
扉の把手を握るソラの腕を掴んだ。
ウミは鬼気迫る表情だ。
「シュゴー、離してぇ。私達、ここまできたのに分かり合えてないじゃない!」
「ソラ。おまえがもう2度と俺の前から姿を消さない…家出をしないって約束するならおまえに従ってやる。
この俺がここまで譲歩してんだ。おまえも誠意を示せよ。」
「はい。勇敢なナイト様。愛しき旦那様。」
あっけない程にソラはウミの言葉を受け入れて、逃走を企てるのを止めた。
出入り口から2人は受付付近まで歩く。
「マジだぞ?約束は必ず守れよな!」
「うん!」
これから始まる幸福な時間ーーーー離れ離れになった時間を埋めるように愛を確かめ合うことができる。
期待に心躍らせているソラは内股になり、胸元に手を組んで頷いた。
「シュゴ、シュゴ、シュゴ、シュゴ。」
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。
四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。
自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。
彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。
そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。
大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる