204 / 275
第5部 追う人、逃げる人、悪い人。
203
しおりを挟む
大嵐家を後にしたウミは妻が宿泊するビジネスホテルへ再びやってきた。
「ソラはここにまだいるかな?チェックアウトしてなきゃいいけど…。」
ソラが部屋から出てきた所を捕まえようと画策するウミはコーラを片手に待機している。
「ソラは劇的な再会を希望しているはずだ。
ただ、ロビーでバッタリじゃあ納得してくれないだろう。
どっかの玩具店で血糊でも買って顔に塗りたぐろうかな?
おまえを探すのに命懸けだったとアピールすりゃ泣いて喜ぶかもしれねぇ。」
テッテケテテ
「おっと。今度こそソラだ。」
はやる気持を抑え、1度深呼吸をしてからスマホを取った。
「もしもし。ソラ?」
「もしもし、ウミィ…。ウッウッウッ。」
「おいおい。どうしたんだ?泣いているのか?
夫である俺に泣いているわけを話してごらんよ。」
ウミはソラに今までで1番優しく接している事を自覚している。
「ねぇ?ウミィ。私ね独りでいるのがさみしいの。」
「さみしいんだな。それならこの俺が迎えに行くよ。場所はどこだい?」
さりげなくソラが口を滑らせて居場所を言うのを狙って聞いた。
「それは言えない。でなきゃウミが私を探す意味がなくなるって以前も言ったじゃん。
ウミは私の騎士様なんだもん。
どんな難題もきっと自力で解決するわ。」
ウミは"ふざけんな馬鹿野郎"と叫びたいのをグッと耐え忍び、慎重に言葉を選び通話を続けた。
「お、俺はさ、お姫様を見つける為のナイトだ。頑張ってソラを探すよ。」
「ウミの口から私をお姫様だなんて…。」
ソラは今までにない声で泣き叫んだ。
「あん、ばやぐぅわだぢをみちゅけでよぉ。(早く私を見つけてよぉ)」
「ああ、任せろや!すぐ見つけ出してやらぁ。」
ウミはいつものように気合いが入り語気が強くなった。
「…ウミ?さっきの優しいナイト様はどこへいったのよぉ?
乱暴な口調になってる…ウミがナイト様でなくなっちゃったぁぁ。
もう生きていられないわぁぁ。」
「ひ、姫様。つい興奮してしまったのだ。
ぼ、僕は姫様を救う為ならどんな試練でも耐えてみせる。
必ず美しい姫様をこの腕で抱きしめるのだから。」
「ありがとう…ウミィ。ウミは私の愛しき旦那様であり、勇敢な騎士様だわ。
その言葉を聞いて今夜は独りでも眠れそうよぉ。そろそろ私は…。」
ウミは何のヒントもないまま通話を切られてしまうのを恐れて会話を続けた。
「姫様?ディナーはどちらで?」
「私はウミと高校時代に泊まった新横のビジネスホテルを出て、ロイヤルホステスで食べたのよぉ。ウミが隣にいればもっと美味しかったはずだわ。」
ロイヤルホステスは新横浜にはない。
生まれも育ちもハマっ子のウミは知っている。
「僕も姫様の隣で食べたかったなぁ。ロイヤルホステスの近辺には他にどんな店があるのかな?」
「どんな店?えっとね。」
ソラは寝ていたベッドから立ち上がり殺風景な部屋から窓を見た。
母譲りの形の良い大きな乳房が、パジャマの上着の中でパツンパツンに張りとても窮屈そうだ。
「…エッチな男の人が行くお店がある。」
これでウミは、ある程度ソラがいる地域を絞れた。
「だって他は宿泊料が高いのだもの。
ホテル住まいじゃ給料だってそのうち底をついちゃうし…こんな場所に長く留まりたくないよぉ。
早く迎えにきて。」
「わかった!今すぐ行ってみっけてやるぜ!」
「アレ?」
「あっ、姫様?夏もそろそろ終わりです。
身体を冷やして風邪などひかぬよう気をつけるのですよ。」
「身体を冷やすで思い出した。
それがね、私、寒い国でオーロラを見ながら全裸でカキ氷を食べた夢を見たの。
冷房をつけっぱで寝ちゃったせいかもね。
その時、ウミが私にもっと脚を広げて俺に見せろなんて言ったんだよぉ。
ウミを愛しているから隅々までたっぷり見せちゃった。
興奮しているウミを見れて夢とはいえ嬉しかったわ。」
ソラは包紙の中でベトベトになって溶けたミルクキャンディのようにネットリした声で言った。
「そ、そうか。愛しているよソラ。じゃなかった姫様。
僕が姫様の為に必ず見つけ出しますよ。
では良い夢を。」
いつものウミなら声を荒げたであろうソラの発言だったが、今回ばかりはそういうわけにもいかない。
腹正しさを抑えて電話を半ば一方的に切った。
「なんてイカれた夢を見てんだ?
俺がそんな気持ち悪りぃ事を求めるわけねえだろ。
頭おかしいんじゃねえか?俺の妻は。」
パチパチパチパチパチ
ウミはロビーを見渡した。
老若男女問わず宿泊している客がウミとソラの通話を聴いており、笑顔で拍手している。
燃え盛る炎のように顔が真っ赤になったウミはあまりの恥ずかしさに耐え切れず、新横浜のビジネスホテルを逃げるように出て行った。
ウミはヘトヘトになるまで走り続け街灯がない路地裏で体力の限界を感じ足を止めた。
「はぁはぁはぁ。」
呼吸が整っていないまま大嵐家で飲んだ麦茶のように無謀にもコーラを一気飲みした。
その結果さすがのウミの喉も炭酸にはかなわず、案の定、口から噴き出してしまった。
「ゴホッゴホッ、ゴヘェッ!」
咳き込みながらウミは思った。
見つけ出したらソラをギャフンといわせてやろうと。
「ソラはここにまだいるかな?チェックアウトしてなきゃいいけど…。」
ソラが部屋から出てきた所を捕まえようと画策するウミはコーラを片手に待機している。
「ソラは劇的な再会を希望しているはずだ。
ただ、ロビーでバッタリじゃあ納得してくれないだろう。
どっかの玩具店で血糊でも買って顔に塗りたぐろうかな?
おまえを探すのに命懸けだったとアピールすりゃ泣いて喜ぶかもしれねぇ。」
テッテケテテ
「おっと。今度こそソラだ。」
はやる気持を抑え、1度深呼吸をしてからスマホを取った。
「もしもし。ソラ?」
「もしもし、ウミィ…。ウッウッウッ。」
「おいおい。どうしたんだ?泣いているのか?
夫である俺に泣いているわけを話してごらんよ。」
ウミはソラに今までで1番優しく接している事を自覚している。
「ねぇ?ウミィ。私ね独りでいるのがさみしいの。」
「さみしいんだな。それならこの俺が迎えに行くよ。場所はどこだい?」
さりげなくソラが口を滑らせて居場所を言うのを狙って聞いた。
「それは言えない。でなきゃウミが私を探す意味がなくなるって以前も言ったじゃん。
ウミは私の騎士様なんだもん。
どんな難題もきっと自力で解決するわ。」
ウミは"ふざけんな馬鹿野郎"と叫びたいのをグッと耐え忍び、慎重に言葉を選び通話を続けた。
「お、俺はさ、お姫様を見つける為のナイトだ。頑張ってソラを探すよ。」
「ウミの口から私をお姫様だなんて…。」
ソラは今までにない声で泣き叫んだ。
「あん、ばやぐぅわだぢをみちゅけでよぉ。(早く私を見つけてよぉ)」
「ああ、任せろや!すぐ見つけ出してやらぁ。」
ウミはいつものように気合いが入り語気が強くなった。
「…ウミ?さっきの優しいナイト様はどこへいったのよぉ?
乱暴な口調になってる…ウミがナイト様でなくなっちゃったぁぁ。
もう生きていられないわぁぁ。」
「ひ、姫様。つい興奮してしまったのだ。
ぼ、僕は姫様を救う為ならどんな試練でも耐えてみせる。
必ず美しい姫様をこの腕で抱きしめるのだから。」
「ありがとう…ウミィ。ウミは私の愛しき旦那様であり、勇敢な騎士様だわ。
その言葉を聞いて今夜は独りでも眠れそうよぉ。そろそろ私は…。」
ウミは何のヒントもないまま通話を切られてしまうのを恐れて会話を続けた。
「姫様?ディナーはどちらで?」
「私はウミと高校時代に泊まった新横のビジネスホテルを出て、ロイヤルホステスで食べたのよぉ。ウミが隣にいればもっと美味しかったはずだわ。」
ロイヤルホステスは新横浜にはない。
生まれも育ちもハマっ子のウミは知っている。
「僕も姫様の隣で食べたかったなぁ。ロイヤルホステスの近辺には他にどんな店があるのかな?」
「どんな店?えっとね。」
ソラは寝ていたベッドから立ち上がり殺風景な部屋から窓を見た。
母譲りの形の良い大きな乳房が、パジャマの上着の中でパツンパツンに張りとても窮屈そうだ。
「…エッチな男の人が行くお店がある。」
これでウミは、ある程度ソラがいる地域を絞れた。
「だって他は宿泊料が高いのだもの。
ホテル住まいじゃ給料だってそのうち底をついちゃうし…こんな場所に長く留まりたくないよぉ。
早く迎えにきて。」
「わかった!今すぐ行ってみっけてやるぜ!」
「アレ?」
「あっ、姫様?夏もそろそろ終わりです。
身体を冷やして風邪などひかぬよう気をつけるのですよ。」
「身体を冷やすで思い出した。
それがね、私、寒い国でオーロラを見ながら全裸でカキ氷を食べた夢を見たの。
冷房をつけっぱで寝ちゃったせいかもね。
その時、ウミが私にもっと脚を広げて俺に見せろなんて言ったんだよぉ。
ウミを愛しているから隅々までたっぷり見せちゃった。
興奮しているウミを見れて夢とはいえ嬉しかったわ。」
ソラは包紙の中でベトベトになって溶けたミルクキャンディのようにネットリした声で言った。
「そ、そうか。愛しているよソラ。じゃなかった姫様。
僕が姫様の為に必ず見つけ出しますよ。
では良い夢を。」
いつものウミなら声を荒げたであろうソラの発言だったが、今回ばかりはそういうわけにもいかない。
腹正しさを抑えて電話を半ば一方的に切った。
「なんてイカれた夢を見てんだ?
俺がそんな気持ち悪りぃ事を求めるわけねえだろ。
頭おかしいんじゃねえか?俺の妻は。」
パチパチパチパチパチ
ウミはロビーを見渡した。
老若男女問わず宿泊している客がウミとソラの通話を聴いており、笑顔で拍手している。
燃え盛る炎のように顔が真っ赤になったウミはあまりの恥ずかしさに耐え切れず、新横浜のビジネスホテルを逃げるように出て行った。
ウミはヘトヘトになるまで走り続け街灯がない路地裏で体力の限界を感じ足を止めた。
「はぁはぁはぁ。」
呼吸が整っていないまま大嵐家で飲んだ麦茶のように無謀にもコーラを一気飲みした。
その結果さすがのウミの喉も炭酸にはかなわず、案の定、口から噴き出してしまった。
「ゴホッゴホッ、ゴヘェッ!」
咳き込みながらウミは思った。
見つけ出したらソラをギャフンといわせてやろうと。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。


溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる