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第5部 追う人、逃げる人、悪い人。
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息を切らしてリビングへやってきたウミは相手のインゴールにボールを持ち込みトライを狙うラグビー選手のように、すぐユラの元へ駆け寄った。
「ウミくん?どうしてここへ?」
妻の母を心配しているウミは早口で事訳を話し始めた。
「ウミくん落ち着いて。私は大丈夫よ。
それよりウミくんは滝のような汗をかいちゃってるじゃない。
脱水症状をおこして倒れたら大変なんだから。」
ユラはスリッパをパタパタ鳴らして冷蔵庫から麦茶が入っているガラス製のピッチャーとウミ専用の、どでかいマグカップを持ってきた。
「ありがとうございます!」
ゴクゴク喉を鳴らして一気に飲み干した後、プハァーと息を吐き出した。
「良い飲みっぷりねぇ。でもゆっくり飲まなきゃ身体に悪いのよ。」
「早食い、早飲み、早寝、早弾きは得意なんで!」
豪快にサウスポースタイルのウミはエレキギターを弾く真似をした。
「なによそれ。ウフフ。」
笑うユラの目には可愛いわんぱく坊やのように映る。
「って、こんな話をしにきたんじゃないんだ。
ヤクザの女が家にやってきて危険な目に遭わされている可能性があるって聞かされてさ、大急ぎでここへきたんだ。」
部屋の隅で泣きべそをかくモモをウミは見た。
「あっ、コイツがヤクザの女ですか?
おまえ、ソラのお母さんに何しやがった!」
ウミは非常な剣幕で睨みつけた。
「うん。でもモモちゃんの件はこれでお終いよ。
私は警察に伝える気もないわ。」
「オガタのおっさんの話では"菊入組"とかって言っていたな。
てことはよぉ、おめえは新富福町界隈の人間だよな?」
「あら、暴力団だったの?そうは見えないけど。
モモちゃん。今すぐ足を洗いなさい。
おばさんと共に一緒に生きて行きましょうよ。」
美熟女のユラは着ているワンピースが盛り上がるほどの乳房を揺らしビシッと指をモモにさした。
「うるさぁぁい!」
モモは右腕で目元を隠しながら大嵐家を出て行った。
「待てよピンク!俺はおまえを許しちゃいねえんだぞ!」
ウミはモモを追いかけようとしたが、ユラに止められた。
「ウミくん!それ以上の深追いはしなくていいの。きっとあの子は変われるはずだわ。」
「そうかな?あんな女は死ぬまで変わらない気がする。
三つ子のうらめしいだっけ?古くから伝わる諺があるし。」
「私の目に狂いはないわ。きっとあの子は生まれ変われるはずよ。
それとね、ウミくん。
三つ子のうらめしいじゃなくて、三つ子の魂ね。」
「あは、そうだった。さすがの俺も東大は出てないもんでさ。」
「っんもぉ、お茶目さんねぇ。東大を出てなくてもわかると思うけど。」
間違えた事を恥ずかしそうに笑うウミは顔から汗が弾け飛んでいる。
「ウミくん、そのままでは気持ち悪いはずよ。すぐにシャワーを浴びてきなさい。」
ユラは庭に出て物干し竿に干してあるバスタオルを手渡した。
「はいどうぞ。お天気が良かったからタオルがふんわりして気持ち良いでしょ?」
「は、はい。確かにふんわりしてますね。ありがとうございます…。」
ユラを助けにきたはずが、なぜかシャワーを浴びる展開に少し戸惑っていた。
「お姉ちゃんとは毎日、一緒にお風呂入ってるの?いいわね~新婚夫婦って。」
「いや…。」
「私を守ろうとしてくれたお礼に、お姉ちゃんに代わって義母が可愛いウミくんの身体を流してあげようかしら?」
大人の妖艶な美しさを醸し出すユラはウインクしてウミを誘った。
「あ、そろそろ帰りますんでまた来ますです。はいです、はい。」
動揺するウミは急いで玄関を開けて大嵐家を飛び出した。
「あら、じきにパパも帰宅するから3人でお夕飯を食べたかったのに。
男の子ってわんぱくで落ち着きがないわね。」
「…あの、奥さん?」
「アナタ達、まだここに居たの?」
「見知らぬ人物を不用心に招いたりしてはなりませんよ。それから戸締りをするのを忘れずお過ごしください。」
オールバックの男が言った。
「そんな事くらいわかってるわよ。
なによ、アンタ達だって見知らぬ人じゃない。その分際で勝手に部屋へ入って来てよく言うわね。」
「私どもは奥様が襲われてしまうのを危惧して助けに参ったのですが…。」
オールバックの隣にいるセンター分けの男が言った。
ユラは2人の足元を見て怒鳴った。
「まぁ!!なんていうこと?私のお家でアナタ達は土足じゃないの!
出て行きなさい!今すぐに!」
「す、すみません…。」
砂城院家でボディガードを勤めている屈強な男達も、ユラにはタジタジだった。
「まったく。どんな教育を受けてきたのかしら?ご両親の顔を拝見したいわ。」
一方、肝心なソラはウミが居所を掴んだビジネスホテルのベッドでガンガンに効いた冷房のなか眠っていた。
「ウミィ…寒いよぉ。オーロラを見ながらオッパイとお尻を丸出しでカキ氷なんて食べられるわけないじゃん…。」
オーロラが輝く凍てつく世界で、ソラは全裸になってカキ氷を食す夢を見ていた。
更にソラの双子の妹であるセラはーーーー
「あはは。
違うってばオオニシさん、そうじゃないよ。さっきも言ったじゃん。」
「す、すまん。」
おおらかなセラは慣れない仕事で四苦八苦するオオニシの指導にあたっていた。
「2人とも休憩にしようよ!」
「ヒロコさん了解!」
「あ、はい!」
けっこう平和に仕事をしていた。
「ウミくん?どうしてここへ?」
妻の母を心配しているウミは早口で事訳を話し始めた。
「ウミくん落ち着いて。私は大丈夫よ。
それよりウミくんは滝のような汗をかいちゃってるじゃない。
脱水症状をおこして倒れたら大変なんだから。」
ユラはスリッパをパタパタ鳴らして冷蔵庫から麦茶が入っているガラス製のピッチャーとウミ専用の、どでかいマグカップを持ってきた。
「ありがとうございます!」
ゴクゴク喉を鳴らして一気に飲み干した後、プハァーと息を吐き出した。
「良い飲みっぷりねぇ。でもゆっくり飲まなきゃ身体に悪いのよ。」
「早食い、早飲み、早寝、早弾きは得意なんで!」
豪快にサウスポースタイルのウミはエレキギターを弾く真似をした。
「なによそれ。ウフフ。」
笑うユラの目には可愛いわんぱく坊やのように映る。
「って、こんな話をしにきたんじゃないんだ。
ヤクザの女が家にやってきて危険な目に遭わされている可能性があるって聞かされてさ、大急ぎでここへきたんだ。」
部屋の隅で泣きべそをかくモモをウミは見た。
「あっ、コイツがヤクザの女ですか?
おまえ、ソラのお母さんに何しやがった!」
ウミは非常な剣幕で睨みつけた。
「うん。でもモモちゃんの件はこれでお終いよ。
私は警察に伝える気もないわ。」
「オガタのおっさんの話では"菊入組"とかって言っていたな。
てことはよぉ、おめえは新富福町界隈の人間だよな?」
「あら、暴力団だったの?そうは見えないけど。
モモちゃん。今すぐ足を洗いなさい。
おばさんと共に一緒に生きて行きましょうよ。」
美熟女のユラは着ているワンピースが盛り上がるほどの乳房を揺らしビシッと指をモモにさした。
「うるさぁぁい!」
モモは右腕で目元を隠しながら大嵐家を出て行った。
「待てよピンク!俺はおまえを許しちゃいねえんだぞ!」
ウミはモモを追いかけようとしたが、ユラに止められた。
「ウミくん!それ以上の深追いはしなくていいの。きっとあの子は変われるはずだわ。」
「そうかな?あんな女は死ぬまで変わらない気がする。
三つ子のうらめしいだっけ?古くから伝わる諺があるし。」
「私の目に狂いはないわ。きっとあの子は生まれ変われるはずよ。
それとね、ウミくん。
三つ子のうらめしいじゃなくて、三つ子の魂ね。」
「あは、そうだった。さすがの俺も東大は出てないもんでさ。」
「っんもぉ、お茶目さんねぇ。東大を出てなくてもわかると思うけど。」
間違えた事を恥ずかしそうに笑うウミは顔から汗が弾け飛んでいる。
「ウミくん、そのままでは気持ち悪いはずよ。すぐにシャワーを浴びてきなさい。」
ユラは庭に出て物干し竿に干してあるバスタオルを手渡した。
「はいどうぞ。お天気が良かったからタオルがふんわりして気持ち良いでしょ?」
「は、はい。確かにふんわりしてますね。ありがとうございます…。」
ユラを助けにきたはずが、なぜかシャワーを浴びる展開に少し戸惑っていた。
「お姉ちゃんとは毎日、一緒にお風呂入ってるの?いいわね~新婚夫婦って。」
「いや…。」
「私を守ろうとしてくれたお礼に、お姉ちゃんに代わって義母が可愛いウミくんの身体を流してあげようかしら?」
大人の妖艶な美しさを醸し出すユラはウインクしてウミを誘った。
「あ、そろそろ帰りますんでまた来ますです。はいです、はい。」
動揺するウミは急いで玄関を開けて大嵐家を飛び出した。
「あら、じきにパパも帰宅するから3人でお夕飯を食べたかったのに。
男の子ってわんぱくで落ち着きがないわね。」
「…あの、奥さん?」
「アナタ達、まだここに居たの?」
「見知らぬ人物を不用心に招いたりしてはなりませんよ。それから戸締りをするのを忘れずお過ごしください。」
オールバックの男が言った。
「そんな事くらいわかってるわよ。
なによ、アンタ達だって見知らぬ人じゃない。その分際で勝手に部屋へ入って来てよく言うわね。」
「私どもは奥様が襲われてしまうのを危惧して助けに参ったのですが…。」
オールバックの隣にいるセンター分けの男が言った。
ユラは2人の足元を見て怒鳴った。
「まぁ!!なんていうこと?私のお家でアナタ達は土足じゃないの!
出て行きなさい!今すぐに!」
「す、すみません…。」
砂城院家でボディガードを勤めている屈強な男達も、ユラにはタジタジだった。
「まったく。どんな教育を受けてきたのかしら?ご両親の顔を拝見したいわ。」
一方、肝心なソラはウミが居所を掴んだビジネスホテルのベッドでガンガンに効いた冷房のなか眠っていた。
「ウミィ…寒いよぉ。オーロラを見ながらオッパイとお尻を丸出しでカキ氷なんて食べられるわけないじゃん…。」
オーロラが輝く凍てつく世界で、ソラは全裸になってカキ氷を食す夢を見ていた。
更にソラの双子の妹であるセラはーーーー
「あはは。
違うってばオオニシさん、そうじゃないよ。さっきも言ったじゃん。」
「す、すまん。」
おおらかなセラは慣れない仕事で四苦八苦するオオニシの指導にあたっていた。
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「あ、はい!」
けっこう平和に仕事をしていた。
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