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第5部 追う人、逃げる人、悪い人。

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「ぐがぁぁぁ。」

ロビーの椅子にもたれたウミは大口を開けて眠っている。

テッテケッテテ

「うおっ?」

スマホに着信が入りすぐさま起きた。
どんなに眠くとも、スマホの着信音が鳴れば敏感に反応してしまうようになっていた。

「ソラ?…誰だてめえは?」

「神園ウミか。おまえに一つ忠告しておこう。
おまえの妻の実家に怪しい女が訪問した。
この女は菊入会の二次団体で若頭代行を務める男の情婦だ。」

「なんの話だ?そもそもおまえは…ハッ!その声はあん時、かつらといたグラサンのおっさんか?
ソラの実家がどうしたって?」

「私の話を聞いていなかったのか?
おまえの妻の実家が、ヤクザの女に襲撃を受けた可能性が高いと言っている。
我々はおまえの妻の行方を心配する、お嬢様の指示で実家をマークしていたのだ。」

「ヤクザの女!?この時間はソラのお母さんしかいないぞ。なんだってそんな奴がソラの家に行くんだよ?」

眠気は遠に失せ、椅子から立ち上がったウミは苛立ちながらスマホでオガタと話を続ける。

「理由は知らん。我々が調査した事実を述べただけだ。」

「あんたはどこに居んだよ?」

「私は砂城院家にいる。おまえの妻の実家付近には私の部下が配置されているが。」

「だったら、ソラんちに行ってソラのお母さんを助けてやってくれ!
ヤクザの女から助け出してくれよ!俺もすぐそっちへ行く!」

ウミが叫ぶとロビーで寛ぐ周囲の旅行者やビジネスマンが怪訝な表情で一斉にウミを見た。

「…よかろう。おまえには宗成の件がある。借りを返そうではないか。
早急に私の部下に指示を下し、妻の母を助け出す。
これでいいか?」

オガタは冷静な口調で伝えた。

「すまねえな。えっと…。」

「オガタだ。」

「ありがとよ!オガタのおっさん。」

ウミはソラが滞在しているビジネスホテルからソラの実家へ行き姉妹の母であるユラを助け出しに向かった。

「くっそー!ヤクザがいってぇー、ソラの家に何の用なんだよ!」

路上に飛び出すと、反対車線にタクシーが走っているのを目にした。
何の躊躇もなく飛び出して、アクション映画さながらにスピードをあげて走る自動車を見事にフットワーク良くかき分けて、タクシーの目の前で仁王立ちした。

「危ないだろー!」

急ブレーキでタクシーを止めた60代くらいのバーコードヘアを振り乱したドライバーが窓から叫んだ。

「おっさん悪いな!俺を乗っけてくれ頼むぜ!」

「誰がおめえなんざ乗せるか!他を当たれや!」

ウミはドライバー席の窓からバーコードを強引に引っ張りだそうとした。

「そんなら俺が運転すっから降りろ!」

「イテテテこのクソガキャ!バカな真似はよせっ!」

「じゃあ俺を目的地まで乗せるか?」

「乗せるわけねえだろうがい!」

「じゃあ降りろ!変われ!」

「イテェェェ!わかったわかった!もう止めろ!ど、どこまで行くんだ!?」






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