199 / 275
第5部 追う人、逃げる人、悪い人。
198
しおりを挟む
出張中のビジネスマンやバックパッカーの外国人観光客で賑わっているなか、場に相応しくない青年が苛立ちを口にしている。
「あっけなく居所がわかったってのに、ここで足止めかい。社会は色々とめんどっちぃ事ばかりだな。ったく…。」
ソラが宿泊しているビジネスホテルの受付でセキュリティ上の理由から呼び出しを断られてしまい、渋々ロビーにてソラを待つ事にした。
「アイツの事だ。ドラマチックな再会とはほど遠いから出直せとか言い出しそうだ。
またどこかへ行かれたら困るし連絡はよした方がいいかな。」
スマホを手にしたが着信はせず、想い出の地新横浜のビジネスホテルで乾いた眼を擦っている。
「眠い…。」
****
「ネットで見た時よりオシャレな家がいっぱい!
ゾンビ街なんてゆわれてる新富福町とは正反対だよ。」
閑静な住宅街の一角でモモは男の腕を引っ張ってはしゃいでいる。
「ぐっ、いてぇな。モモ。」
「キャハハごめんね。ケンスケ。でもワクワクしない?
これから始まるパーティを考えるとさ。」
「実家に本人がいるとは限らないだろう?」
ギブスで固定した肘を撫でながらケンスケは言った。
「かもね。まだあの界隈でいるかもしんない。
でも本人がいなくても愉快な遊びにはなるんじゃない?
あの金髪黒ギャルを泣かすには、これが1番よ。」
ケンスケは無表情のまま目だけを動かしてモモを見た。
「あんさ、手に入れたいんでしょ?あの黒ギャルを。
ケンスケは油断さえしなければものにできたはず。喧嘩や格闘技が素人のモモにもそんくらいわかるよ。」
「今まで見た中で1番良い女だよな。」
「腕をなんとかヒシガタメ?で折られても恨むどころか、更に惚れるって変態だよ。」
ケンスケは眉毛を吊り上げてモモを見た。
「モモも人の事言えないよ。ケンスケにボコらてもこうして一緒にいるんだから。
DV男に惚れる健気な娘ね。」
「モモ、このままどこへ俺を連れて行くつもりだ?」
「あちゃー方向音痴だから迷子になっちゃった。」
「おまえ…。」
「そんな怖い顔しないでよ。モモだって頑張って探してるんだから。この辺りのはずなんだけどなあ~。」
「ランララランランラン~。」
美しい北欧風の一戸建ての庭先で花壇に水をまいている清楚な女性がモモの目に入った。
「あのセレブなマダムに聞いてみよっ!生活に余裕があるから、きっと丁寧に教えてくれるよ。
ちょっと道を聞いてくるね。」
ケンスケを置いてモモは足早に庭先にいるマダムに近づいて行った。
「こんちわ!美しい花ですね。モモ、見惚れちゃった。」
「あら。こんにちわ。お嬢さん。あなたもお花が好きかしら?」
ホースで庭に水を撒くマダムはニッコリ微笑んだ。
「うん。モモは花の名前はよくわかんないけど好きだよ。
おばさんのお家に咲く綺麗な花はなんていう花なの?」
マダムは黒く艶やかなロングヘアを今までも数えきれないほど靡かせたであろう経験から、誰かを意識したわけでもなく自然と優雅に黒髪を首元から背中へ流した。
「この白とピンクのお花はね。アンゲロニアよ。日本の高温多湿の環境でも美しく咲いてくれるわ。
あそこの丸い鉢で咲いた青みのある花はサンク・エール。虫がつきにくいし夏の日差しに強いのよ。
どの子もみんな可愛いお花よ。」
「ウフフ。モモね、花を見ていてウットリしちゃった。」
「あなたのお名前はモモって言うのね。
良かったらモモちゃんが気に入ったお花があれば差し上げようかしら?」
「うっそー!良いんですか?ありがとうございます!」
「…あのアバズレは何をしてやがる。」
ケンスケが少し離れた所で睨みを効かせたのに気づいたようで、世間話を切り上げモモはマダムに尋ねた。
「そうそう、あんさ?ちょっと聞きたい事があってね。大嵐セラさんのお宅はどちらかわかりますか?
Google MAPではこの近辺なのですけど。」
「あら?セラのお友達?
セラなら今はここにはいないのよ。」
姉妹の母は笑顔で蛇口を捻り、ホースから出る水を止めた。
「あっけなく居所がわかったってのに、ここで足止めかい。社会は色々とめんどっちぃ事ばかりだな。ったく…。」
ソラが宿泊しているビジネスホテルの受付でセキュリティ上の理由から呼び出しを断られてしまい、渋々ロビーにてソラを待つ事にした。
「アイツの事だ。ドラマチックな再会とはほど遠いから出直せとか言い出しそうだ。
またどこかへ行かれたら困るし連絡はよした方がいいかな。」
スマホを手にしたが着信はせず、想い出の地新横浜のビジネスホテルで乾いた眼を擦っている。
「眠い…。」
****
「ネットで見た時よりオシャレな家がいっぱい!
ゾンビ街なんてゆわれてる新富福町とは正反対だよ。」
閑静な住宅街の一角でモモは男の腕を引っ張ってはしゃいでいる。
「ぐっ、いてぇな。モモ。」
「キャハハごめんね。ケンスケ。でもワクワクしない?
これから始まるパーティを考えるとさ。」
「実家に本人がいるとは限らないだろう?」
ギブスで固定した肘を撫でながらケンスケは言った。
「かもね。まだあの界隈でいるかもしんない。
でも本人がいなくても愉快な遊びにはなるんじゃない?
あの金髪黒ギャルを泣かすには、これが1番よ。」
ケンスケは無表情のまま目だけを動かしてモモを見た。
「あんさ、手に入れたいんでしょ?あの黒ギャルを。
ケンスケは油断さえしなければものにできたはず。喧嘩や格闘技が素人のモモにもそんくらいわかるよ。」
「今まで見た中で1番良い女だよな。」
「腕をなんとかヒシガタメ?で折られても恨むどころか、更に惚れるって変態だよ。」
ケンスケは眉毛を吊り上げてモモを見た。
「モモも人の事言えないよ。ケンスケにボコらてもこうして一緒にいるんだから。
DV男に惚れる健気な娘ね。」
「モモ、このままどこへ俺を連れて行くつもりだ?」
「あちゃー方向音痴だから迷子になっちゃった。」
「おまえ…。」
「そんな怖い顔しないでよ。モモだって頑張って探してるんだから。この辺りのはずなんだけどなあ~。」
「ランララランランラン~。」
美しい北欧風の一戸建ての庭先で花壇に水をまいている清楚な女性がモモの目に入った。
「あのセレブなマダムに聞いてみよっ!生活に余裕があるから、きっと丁寧に教えてくれるよ。
ちょっと道を聞いてくるね。」
ケンスケを置いてモモは足早に庭先にいるマダムに近づいて行った。
「こんちわ!美しい花ですね。モモ、見惚れちゃった。」
「あら。こんにちわ。お嬢さん。あなたもお花が好きかしら?」
ホースで庭に水を撒くマダムはニッコリ微笑んだ。
「うん。モモは花の名前はよくわかんないけど好きだよ。
おばさんのお家に咲く綺麗な花はなんていう花なの?」
マダムは黒く艶やかなロングヘアを今までも数えきれないほど靡かせたであろう経験から、誰かを意識したわけでもなく自然と優雅に黒髪を首元から背中へ流した。
「この白とピンクのお花はね。アンゲロニアよ。日本の高温多湿の環境でも美しく咲いてくれるわ。
あそこの丸い鉢で咲いた青みのある花はサンク・エール。虫がつきにくいし夏の日差しに強いのよ。
どの子もみんな可愛いお花よ。」
「ウフフ。モモね、花を見ていてウットリしちゃった。」
「あなたのお名前はモモって言うのね。
良かったらモモちゃんが気に入ったお花があれば差し上げようかしら?」
「うっそー!良いんですか?ありがとうございます!」
「…あのアバズレは何をしてやがる。」
ケンスケが少し離れた所で睨みを効かせたのに気づいたようで、世間話を切り上げモモはマダムに尋ねた。
「そうそう、あんさ?ちょっと聞きたい事があってね。大嵐セラさんのお宅はどちらかわかりますか?
Google MAPではこの近辺なのですけど。」
「あら?セラのお友達?
セラなら今はここにはいないのよ。」
姉妹の母は笑顔で蛇口を捻り、ホースから出る水を止めた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
偽りの結婚生活 スピンオフ(短編集)
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
前作のヒロイン、朱莉を取り巻く彼らのその後の物語
<偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡>
これはヒロイン朱莉に関わった人々のその後を追った物語。朱莉に失恋した航、翔、京極、蓮・・彼らはその後どうなったのか―?
※ カクヨムにも掲載しています
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
なにひとつ、まちがっていない。
いぬい たすく
恋愛
若くして王となるレジナルドは従妹でもある公爵令嬢エレノーラとの婚約を解消した。
それにかわる恋人との結婚に胸を躍らせる彼には見えなかった。
――なにもかもを間違えた。
そう後悔する自分の将来の姿が。
Q この世界の、この国の技術レベルってどのくらい?政治体制はどんな感じなの?
A 作者もそこまで考えていません。
どうぞ頭のネジを二三本緩めてからお読みください。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる