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第5部 追う人、逃げる人、悪い人。

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出張中のビジネスマンやバックパッカーの外国人観光客で賑わっているなか、場に相応しくない青年が苛立ちを口にしている。

「あっけなく居所がわかったってのに、ここで足止めかい。社会は色々とめんどっちぃ事ばかりだな。ったく…。」

ソラが宿泊しているビジネスホテルの受付でセキュリティ上の理由から呼び出しを断られてしまい、渋々ロビーにてソラを待つ事にした。

「アイツの事だ。ドラマチックな再会とはほど遠いから出直せとか言い出しそうだ。
またどこかへ行かれたら困るし連絡はよした方がいいかな。」

スマホを手にしたが着信はせず、新横浜のビジネスホテルで乾いた眼を擦っている。

「眠い…。」


****


「ネットで見た時よりオシャレな家がいっぱい!
ゾンビ街なんてゆわれてる新富福町とは正反対だよ。」

閑静な住宅街の一角でモモは男の腕を引っ張ってはしゃいでいる。

「ぐっ、いてぇな。モモ。」

「キャハハごめんね。ケンスケ。でもワクワクしない?
これから始まるパーティを考えるとさ。」

「実家に本人がいるとは限らないだろう?」

ギブスで固定した肘を撫でながらケンスケは言った。

「かもね。まだあの界隈でいるかもしんない。
でも本人がいなくても愉快な遊びにはなるんじゃない?
あの金髪黒ギャルを泣かすには、これが1番よ。」

ケンスケは無表情のまま目だけを動かしてモモを見た。

「あんさ、手に入れたいんでしょ?あの黒ギャルを。
ケンスケは油断さえしなければものにできたはず。喧嘩や格闘技が素人のモモにもそんくらいわかるよ。」

「今まで見た中で1番良い女だよな。」

「腕をなんとかヒシガタメ?で折られても恨むどころか、更に惚れるって変態だよ。」

ケンスケは眉毛を吊り上げてモモを見た。

「モモも人の事言えないよ。ケンスケにボコらてもこうして一緒にいるんだから。
DV男に惚れる健気な娘ね。」

「モモ、このままどこへ俺を連れて行くつもりだ?」

「あちゃー方向音痴だから迷子になっちゃった。」

「おまえ…。」

「そんな怖い顔しないでよ。モモだって頑張って探してるんだから。この辺りのはずなんだけどなあ~。」

「ランララランランラン~。」

美しい北欧風の一戸建ての庭先で花壇に水をまいている清楚な女性がモモの目に入った。

「あのセレブなマダムに聞いてみよっ!生活に余裕があるから、きっと丁寧に教えてくれるよ。
ちょっと道を聞いてくるね。」

ケンスケを置いてモモは足早に庭先にいるマダムに近づいて行った。

「こんちわ!美しい花ですね。モモ、見惚れちゃった。」

「あら。こんにちわ。お嬢さん。あなたもお花が好きかしら?」

ホースで庭に水を撒くマダムはニッコリ微笑んだ。

「うん。モモは花の名前はよくわかんないけど好きだよ。
おばさんのお家に咲く綺麗な花はなんていう花なの?」

マダムは黒く艶やかなロングヘアを今までも数えきれないほど靡かせたであろう経験から、誰かを意識したわけでもなく自然と優雅に黒髪を首元から背中へ流した。

「この白とピンクのお花はね。アンゲロニアよ。日本の高温多湿の環境でも美しく咲いてくれるわ。
あそこの丸い鉢で咲いた青みのある花はサンク・エール。虫がつきにくいし夏の日差しに強いのよ。
どの子もみんな可愛いお花よ。」

「ウフフ。モモね、花を見ていてウットリしちゃった。」

「あなたのお名前はモモって言うのね。
良かったらモモちゃんが気に入ったお花があれば差し上げようかしら?」

「うっそー!良いんですか?ありがとうございます!」

「…あのアバズレは何をしてやがる。」

ケンスケが少し離れた所で睨みを効かせたのに気づいたようで、世間話を切り上げモモはマダムに尋ねた。

「そうそう、あんさ?ちょっと聞きたい事があってね。大嵐セラさんのお宅はどちらかわかりますか?
Google MAPではこの近辺なのですけど。」

「あら?セラのお友達?
セラなら今はここにはいないのよ。」

姉妹の母は笑顔で蛇口を捻り、ホースから出る水を止めた。




















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