私、家出するけどちゃんと探してよね!

スーパー・ストロング・マカロン

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第5部 追う人、逃げる人、悪い人。

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疲労困憊ひろうこんぱいてのはこの事よ。」

くたびれたウミは部屋に入るなり劣化して色褪せた畳に寝転がった。

ぐぅぅ。

昼食を食べたきり何も口にしていなかった。
夕飯の準備はおろか身体を起こすことすらままならなかった。

そんななか呼吸をするだけで精一杯のウミのスマホが鳴った。

「ソラ!」

作業用ズボンのポケットに入っていたスマホを取り出して上体を起こし着信を切らしてはなるまいと急いででた。
ウミはまだ体力が残っていた事に自分でも驚いたが、理由が妻であるソラからの着信だからだと気付くと照れた。

「もしもし。ウミィ?」

「おう、もしもしソラ?今はどこにいるんだ?」

ソラは呆れたようにため息を吐きながら言った。

「私は家出をしているのよ。私が自分で居場所を教えるのは変でしょ。
ウミが頑張って私を探さなきゃならないの!
何度も言わせないでよね。」

「でもよ探せつったって、おまえがどこにいるんだかちっともわからないのが現状だぜ?」

「んー。まぁそれはそうね。」

ソラはスマホをスピーカーに切り替えた。

「まだおまえは新富福町あの町にいるのか?」

「私は…新富福町にはいないよぉ。もちろんセラとも昨日から会ってない。
スマホにはバンバン着信履歴があるけどね。」

疲れていたウミではあるが少しでも居場所を把握する為に、ソラに悟られないよう質問をする事を思いついた。

「なぁ、ソラ?随分静かだけど今はホテルにでもいるのか?」

一瞬スマホの向こうでソラが言い当てられてドキッとしている感覚をウミは見逃さなかった。

「もしもホテルやネットカフェにいるんだったらよ?金は大丈夫か?ちゃんと持っているのか?」

「うん。私はヒロコさんとこで働いたお給料があるから…。」

ウミは短い会話のなかでもソラの心理状態を察した。
ソラが寂しくて甘えたい時の声であった。

「ソラ…どこにいようと俺が必ず見つけ出してやるよ。俺、おまえがいないとダメみたいでさ。」

「あぅぅ。ウミィ、私もだよ。ここはウミとの切ない想い出がある場所。
あの頃を想い出して寂しくなっちゃった…。
ねぇ、ウミィ?私達、なんでこうなってしまったのかな?」

想い出の場所?
口にしそうだったが勘づかれては全てが水の泡になる。
ウミは"想い出の場所"がどこかは聞かず口を塞いだ。

「おまえは何も悪くない。悪りぃのは俺なんだ。
おまえを蔑ろにしちまったからな。
そのツケを払ってんのさ。」

ウミは着信を切られたくない気持ちだけでなく、ソラに対する自責の念は嘘ではなかった。

「ウミィ。私、もっと良いお嫁さんになるから絶対に…その、離婚だけは…。」

「バッカ、離婚なんかする気はねぇよ。
だからこうしておまえを探してんじゃんかよ。
すぐにソラを探し出して…。」

「探し出してぇ?」

「…またあの頃みたいに暮らそう。ソ、ソラ?ゴホン…あ、あ、愛しているよ。」

ウミは恥ずかしくなり青い髪が生える地肌に爪を立てた。

「私もよ。誰よりも愛しているわ。早く私を見つけ出して抱きしめてね。」

ウミにはソラが泣いているのが手に取るようにわかった。

「ああ。すぐ探し出すから、それまで待っていてくれよな。」


通話が終わるとすぐ様疲労が身体中を覆ってくる感覚があった。
ウミは大の字になって消す事のできない天井の染みを見ながら思った。
世界広しと言えど、こんなバカな夫婦はいないだろうなと。

























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