186 / 275
懐かしき来訪者
185
しおりを挟む
「さっきからうっせえな!このタコ助!」
ウミは音を立ててカチカチ秒針を刻む目覚まし時計に八つ当たりをしている。
木曜日に張り込みを始めてから早2日が経過していた。
部屋の壁に貼られているカレンダーの日付は青色になっている。
「あーあ。野郎は姿を現さねぇ。もはやアパートには戻って来る気がねえのかもな。」
ソラが近所の100円ショップで購入した安物の時計が12時を差した直後、玄関のチャイムがなった。
ピンポン
「えっ!?ソラか!」
ウミはミカミを探る為、集音器がわりにコップを壁に当てていたが、すぐさまそれをやめて一目散に玄関へ向かって行った。
「いってぇぇ!」
その際、慌てていたせいもありギタースタンドに足の小指をぶつけた。
痛みで片足を上げてピョンピョン跳ねている。
壁にもたれながら掌で、ぶつけた指をギュッと強く押さえる事しかできなかった。
ピンポン
再度、昭和の時代から使われている安物のチャイムが鳴った。
「ちょいと待ってくれ!今すぐ開けるからよ!」
少し痛みが和らいだ足をひきづって玄関先へ向かい、ドアの向こうにいる人物を見ようと額がつくほど身体をへばりつけドアスコープで覗き込んだ。
片耳のもみあげだけ耳にかけたショートカットの優しい表情をした若い娘が立っている。
娘は白いワンピース姿で被っていた麦わら帽子を脱ぎ、ドアが開くのを胸を高鳴らせて待っていた。
ウミはぶっきらぼうに"はい"とだけ言って応対した。
「あ、あの大嵐ソラさんのお宅ですか?
ワタクシ、姫君学院時代にお世話になった砂城院かつらと申します。」
畏まった挨拶をしたのは、宗成の妹のかつらだった。
「かつらメーカーのセールスかい?かつらは俺にゃ無縁だよ。帰んな。」
青い髪をかき上げてウミは冷たく言い放つ。
「ワ、ワタクシはかつらメーカーのセールスではなく、大嵐ソラさんと同級生の砂城院かつらです。
1年4組で同じクラスでしたのよ。担任は花見さんでしたわ。」
「同じクラスの砂城院…?あっ!あん時の!」
ウミは玄関ドアを勢い良く開けた。
「懐かしいなぁ!お前元気だったか?でもなんだってここに?」
「か、神園くんですわね、お久しぶりだわ。思い出してもらえて良かった。
ワタクシ、大嵐さんに、ううん、ご結婚された神園ソラさんにどうしても会いたくて、奥様のご実家にご連絡をさせて頂いたのよ。
奥様のお母様が、快くご住所を教えてくださったわ。」
緊張しつつも、丁寧な口調で優しくウミに話した。
「そっか、ソラのお母さんから聞いたんだな。」
かつらは花柄のハンカチで額の汗を拭ったあと、コクリと首を縦に振った。
「すぐに開けてやらなくて悪かったな。
暑いだろ?散らかってるけど、良かったら入って行けよ。」
「ハッ…。」
かつらはかつて姫君学院時代、恋焦がれていた想い人から部屋へ招かれるというシチュエーションに当時の恋心が再燃しかけている。
「ワタクシは命の恩人である大嵐さんに会いたくて来たのに、かつて憧れた神園くんにトキメクなんてどこまで悪い女なのかしら…。
神園くんは今や大嵐さんの素敵な旦那様。
ワタクシは不純な関係なんて望んでいない。
“失楽園"だとか"昼顔"だとかそんなものは全て軽蔑しているわ。
ヘソから下のお付き合いをする不埒な男女関係なんて最低だわ。
そう、ワタクシは生まれ変わったのよ。
もっと心の清らかな優しい娘になって大嵐さんに認められ信頼される親友になりたいのだから。」
独りでブツブツ話すかつらにウミは姿勢を下げて、かつらの顔を覗きこんで言った。
「俺が話しているってのに背を向けやがって生意気な女だな。部屋に入る気ねぇなら閉めんぞ。」
「キャッ!」
かつらはウミの顔が突然目の前に現れた事で、咄嗟に赤くなった頬を両手で隠す恥じらいを見せた。
「おめぇ何やってんだ?入るなら早く入りやがれ。」
「神園くん。お待ちになって。ちょっとワタクシ、自分の心と葛藤していたのよ。」
ウミは音を立ててカチカチ秒針を刻む目覚まし時計に八つ当たりをしている。
木曜日に張り込みを始めてから早2日が経過していた。
部屋の壁に貼られているカレンダーの日付は青色になっている。
「あーあ。野郎は姿を現さねぇ。もはやアパートには戻って来る気がねえのかもな。」
ソラが近所の100円ショップで購入した安物の時計が12時を差した直後、玄関のチャイムがなった。
ピンポン
「えっ!?ソラか!」
ウミはミカミを探る為、集音器がわりにコップを壁に当てていたが、すぐさまそれをやめて一目散に玄関へ向かって行った。
「いってぇぇ!」
その際、慌てていたせいもありギタースタンドに足の小指をぶつけた。
痛みで片足を上げてピョンピョン跳ねている。
壁にもたれながら掌で、ぶつけた指をギュッと強く押さえる事しかできなかった。
ピンポン
再度、昭和の時代から使われている安物のチャイムが鳴った。
「ちょいと待ってくれ!今すぐ開けるからよ!」
少し痛みが和らいだ足をひきづって玄関先へ向かい、ドアの向こうにいる人物を見ようと額がつくほど身体をへばりつけドアスコープで覗き込んだ。
片耳のもみあげだけ耳にかけたショートカットの優しい表情をした若い娘が立っている。
娘は白いワンピース姿で被っていた麦わら帽子を脱ぎ、ドアが開くのを胸を高鳴らせて待っていた。
ウミはぶっきらぼうに"はい"とだけ言って応対した。
「あ、あの大嵐ソラさんのお宅ですか?
ワタクシ、姫君学院時代にお世話になった砂城院かつらと申します。」
畏まった挨拶をしたのは、宗成の妹のかつらだった。
「かつらメーカーのセールスかい?かつらは俺にゃ無縁だよ。帰んな。」
青い髪をかき上げてウミは冷たく言い放つ。
「ワ、ワタクシはかつらメーカーのセールスではなく、大嵐ソラさんと同級生の砂城院かつらです。
1年4組で同じクラスでしたのよ。担任は花見さんでしたわ。」
「同じクラスの砂城院…?あっ!あん時の!」
ウミは玄関ドアを勢い良く開けた。
「懐かしいなぁ!お前元気だったか?でもなんだってここに?」
「か、神園くんですわね、お久しぶりだわ。思い出してもらえて良かった。
ワタクシ、大嵐さんに、ううん、ご結婚された神園ソラさんにどうしても会いたくて、奥様のご実家にご連絡をさせて頂いたのよ。
奥様のお母様が、快くご住所を教えてくださったわ。」
緊張しつつも、丁寧な口調で優しくウミに話した。
「そっか、ソラのお母さんから聞いたんだな。」
かつらは花柄のハンカチで額の汗を拭ったあと、コクリと首を縦に振った。
「すぐに開けてやらなくて悪かったな。
暑いだろ?散らかってるけど、良かったら入って行けよ。」
「ハッ…。」
かつらはかつて姫君学院時代、恋焦がれていた想い人から部屋へ招かれるというシチュエーションに当時の恋心が再燃しかけている。
「ワタクシは命の恩人である大嵐さんに会いたくて来たのに、かつて憧れた神園くんにトキメクなんてどこまで悪い女なのかしら…。
神園くんは今や大嵐さんの素敵な旦那様。
ワタクシは不純な関係なんて望んでいない。
“失楽園"だとか"昼顔"だとかそんなものは全て軽蔑しているわ。
ヘソから下のお付き合いをする不埒な男女関係なんて最低だわ。
そう、ワタクシは生まれ変わったのよ。
もっと心の清らかな優しい娘になって大嵐さんに認められ信頼される親友になりたいのだから。」
独りでブツブツ話すかつらにウミは姿勢を下げて、かつらの顔を覗きこんで言った。
「俺が話しているってのに背を向けやがって生意気な女だな。部屋に入る気ねぇなら閉めんぞ。」
「キャッ!」
かつらはウミの顔が突然目の前に現れた事で、咄嗟に赤くなった頬を両手で隠す恥じらいを見せた。
「おめぇ何やってんだ?入るなら早く入りやがれ。」
「神園くん。お待ちになって。ちょっとワタクシ、自分の心と葛藤していたのよ。」
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

わたしを捨てた騎士様の末路
夜桜
恋愛
令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。
ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。
※連載

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】愛くるしい彼女。
たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。
2023.3.15
HOTランキング35位/24hランキング63位
ありがとうございました!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる