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オオニシの苦悩、ソラの決心
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「バカだよな俺は。
堕落した生活を送っているくせによ…。」
テーブルのうえ一面に散乱している食器やカップ麺の容器と、一緒に置いてあった埃と指紋だらけの手鏡を手に取り顔を映した。
「この枯れっぷりがなんとも取り返しのつかないところまで来ちまったんだな。」
長年の蓄積した疲労と苦悩に満ちた表情がオオニシという男を如実に物語っている。
人並みの生活や人間関係を構築できないまま、50歳を目前にした男は生きる希望を見出せずその日暮らしが精一杯だった。
「一度は断ったくせにあんな事を口にしてしまうとはやっぱ寂しいんだな。
俺なんかが彼女に合っていい立場じゃねえよ。」
汚れた部屋で大柄な男はヒロコを誘った後悔の念を呟いた。
****
「本気なの?姉貴。」
「ウミにはああやって振る舞っているけれどね、私だって自力でミカミと戦う決意は持っているもん。」
「悪い事は言わないよ。単独行動はやめた方がいいって。
あたしからすればアイツ弱っちいけど、姉貴ではとっ捕まえる事はできないと思う。」
腕組みをしながら白い壁にもたれている妹が言った。
「セラ…そこをどいてよ。私はミカミと戦う覚悟を決めたとヒロコさんが襲われた日にも言ったはずだわ。」
「ふぅ。」
あたしが退くわけないじゃないといわんばかりに、壁にもたれかかっていたセラは通路に立ち塞がり通せんぼの姿勢をとり始めた。
「母校の後輩くん達も優しいオオニシさんも、そして大好きなヒロコさんにも私の事で迷惑かけちゃったんだもの…。
なにがなんでも仇をとりたいのよぉ。」
姉は立ち塞がる妹に接近していく。
「その気持ちは買うわ。
でもね、ミカミからすれば姉貴を襲う絶好のチャンスなんだ。
飛んで火に入る夏の虫ってやつ?
姉貴の身に取り返しのつかない事があれば、あたしだけでなくみんなが悲しむんだよ。
あたし、考えたくないもけどさ、もしも姉貴の身に最悪な事が起きたらだよ?
ミカミを殺すと思う。
お義兄さんもあたしと同じ気持ちじゃないかな?」
セラは瞬き一つせずソラを見つめながら言った。
「…でも、私は、私はもう決めたんだもん。何を言ったって無駄なんだからね。
そこを退いてよ!」
ソラの震える心は足元にも伝わっている。
ミカミに対しての恐怖というより、セラの弓から放たれた矢のような発言が感受性の強いソラの心に刺さった。
「姉貴、産まれたての仔馬みたい。」
「誤解しないで、これは武者震いよ。私は、私は、前に進むの。心変わりなんてしないんだから。」
涙を必死に堪え下唇を噛み締めるソラは震える足を前へ踏み出して、更にセラへ接近していく。
「狙われている姉貴を単独で行動させるわけにはいかないだろ。
あたしはそんな危険なまねは絶対に許さないよ。」
「セラ…。」
「なあに?」
「ムニムニ…。」
「はぁ、ムニムニィ?」
「私のオッパイとアンタのオッパイがムニムニって音がするくらい密着してる…。」
姉の場違いの発言に呆れたセラは目眩がした。
堕落した生活を送っているくせによ…。」
テーブルのうえ一面に散乱している食器やカップ麺の容器と、一緒に置いてあった埃と指紋だらけの手鏡を手に取り顔を映した。
「この枯れっぷりがなんとも取り返しのつかないところまで来ちまったんだな。」
長年の蓄積した疲労と苦悩に満ちた表情がオオニシという男を如実に物語っている。
人並みの生活や人間関係を構築できないまま、50歳を目前にした男は生きる希望を見出せずその日暮らしが精一杯だった。
「一度は断ったくせにあんな事を口にしてしまうとはやっぱ寂しいんだな。
俺なんかが彼女に合っていい立場じゃねえよ。」
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「本気なの?姉貴。」
「ウミにはああやって振る舞っているけれどね、私だって自力でミカミと戦う決意は持っているもん。」
「悪い事は言わないよ。単独行動はやめた方がいいって。
あたしからすればアイツ弱っちいけど、姉貴ではとっ捕まえる事はできないと思う。」
腕組みをしながら白い壁にもたれている妹が言った。
「セラ…そこをどいてよ。私はミカミと戦う覚悟を決めたとヒロコさんが襲われた日にも言ったはずだわ。」
「ふぅ。」
あたしが退くわけないじゃないといわんばかりに、壁にもたれかかっていたセラは通路に立ち塞がり通せんぼの姿勢をとり始めた。
「母校の後輩くん達も優しいオオニシさんも、そして大好きなヒロコさんにも私の事で迷惑かけちゃったんだもの…。
なにがなんでも仇をとりたいのよぉ。」
姉は立ち塞がる妹に接近していく。
「その気持ちは買うわ。
でもね、ミカミからすれば姉貴を襲う絶好のチャンスなんだ。
飛んで火に入る夏の虫ってやつ?
姉貴の身に取り返しのつかない事があれば、あたしだけでなくみんなが悲しむんだよ。
あたし、考えたくないもけどさ、もしも姉貴の身に最悪な事が起きたらだよ?
ミカミを殺すと思う。
お義兄さんもあたしと同じ気持ちじゃないかな?」
セラは瞬き一つせずソラを見つめながら言った。
「…でも、私は、私はもう決めたんだもん。何を言ったって無駄なんだからね。
そこを退いてよ!」
ソラの震える心は足元にも伝わっている。
ミカミに対しての恐怖というより、セラの弓から放たれた矢のような発言が感受性の強いソラの心に刺さった。
「姉貴、産まれたての仔馬みたい。」
「誤解しないで、これは武者震いよ。私は、私は、前に進むの。心変わりなんてしないんだから。」
涙を必死に堪え下唇を噛み締めるソラは震える足を前へ踏み出して、更にセラへ接近していく。
「狙われている姉貴を単独で行動させるわけにはいかないだろ。
あたしはそんな危険なまねは絶対に許さないよ。」
「セラ…。」
「なあに?」
「ムニムニ…。」
「はぁ、ムニムニィ?」
「私のオッパイとアンタのオッパイがムニムニって音がするくらい密着してる…。」
姉の場違いの発言に呆れたセラは目眩がした。
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