上 下
154 / 275
オオニシの苦悩、ソラの決心

153

しおりを挟む
「ごめん、部屋が散らかっているから女性を招き入れる事はできねえや。
変な事を言ってすまなかったねぇ。」

オオニシはしどろもどろになって発言を無理やり撤回した。

「そんな事ないですよ!ウチ、とっても嬉しかったんですから。」

午前中のさわやかな青空をバックにヒロコが笑顔になるのを見て、オオニシはドキッとしている。

「オオニシさんのお部屋、散らかっているんですよね。
助けて頂いたお礼に片付けさせてくれませんか?
ウチ、このくらいしかできないですから。」

「いやいや!お姉さんが想像している以上の散らかりようなんだ。
あんな部屋にお姉さんが入ったら、病気になってしまうかってくらいにな。」

オオニシはまさかの展開に動揺しているが、内心は嬉しかったのだ。

「ウチ、兄が2人いる男兄弟で育ちました。
だから男性のお部屋に抵抗はないですよ。」

ヒロコの目の前には、そびえ立つほど長身であるオオニシが玄関に立ち塞がっている為、部屋の様子が見えない。
背伸びをしたり、キョロキョロ顔を動かして横から部屋を見ようとしている。

「しかしだな、おっさんである俺の汚い部屋をうら若き乙女にやらせるなんて、そんな事は許されないよ。」

ヒロコは口に手を当てて笑い出した。

「ごめんなさい!我慢しなきゃと思ったんですが笑いが込み上げちゃって!」

なぜヒロコが笑い出したかわからずオオニシはキョトンとしている。

「"うら若き乙女"だなんて言葉をリアルで言った人はウチの29年の人生の中で初めてなんです。
だからつい我慢できなくって。」

そう言うとヒロコは声を出してまた笑い始めた。

「そうだったのかい?何はともあれ笑ってくれて良かったよ。
お姉さんが笑ってると俺みてぇな、おっさんは嬉しいものなんだ。」

「うら若き乙女だからですか?」

ヒロコはパチパチと手を叩きながら笑いを止められるずにいる。

涙を流してはいるが先程のような恐怖体験からくる涙ではなく笑いからくる涙であった。
オオニシの人柄にヒロコは親近感を抱いている。

玄関先でひとしきり笑ったヒロコは再度、オオニシに尋ねた。

「オオニシさんのお部屋を掃除させてください。
ウチ、男の人が思うほど抵抗はないんですよ。」

「あぁ、嬉しいけど、やめておくよ。」

「そうですか。わかりました。」

「本当にありがとう。ではまた。」

逃げるように部屋に入ったオオニシは玄関ドアを閉めた。

パタン

あっさりドアを閉められたヒロコは寂しげな表情を浮かべた後、無理やり笑顔を作り玄関ドアに一礼をした。
踵を返し道路を挟んだ向かい側にある自分が住むマンションへ向かおうとした時だ。

カチャ

オオニシはドアを勢いよく開けた。

「お姉さん!お、俺、年末の大掃除みたく部屋を綺麗にするよ。
その時、部屋に上がってくれないか?
もちろん、嫌ならいいんだ。」




























しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

偽りの結婚生活 スピンオフ(短編集)

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
前作のヒロイン、朱莉を取り巻く彼らのその後の物語 <偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡> これはヒロイン朱莉に関わった人々のその後を追った物語。朱莉に失恋した航、翔、京極、蓮・・彼らはその後どうなったのか―? ※ カクヨムにも掲載しています

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

処理中です...