私、家出するけどちゃんと探してよね!

スーパー・ストロング・マカロン

文字の大きさ
上 下
74 / 275
ソラが女子高校生だった頃。鍵をかけて2人きり

73

しおりを挟む
6限の英語が終了し、チャイムが鳴ると同時にウミはソラの腕を引っ張って走った。

「時間がもったいねぇ!早く走れ!」

「ちょっとぉ!腕が痛いぃぃ!」

教室のドアを乱暴に開けて、2人は風を切って走っていく。

「大嵐さん!抜け駆けするつもり?待ちなさーい!」

かつらが後に続く。

続いて鈍足のマツダイラが、かつらを追って必死の形相でドタバタ走っていく。

「待ってくれ!砂城院さん、俺は~俺は~、あなたの事が~!」

いつもなら同行している取り巻き達は冷ややかな目で一連の流れを見ていた。

「あれってさ、私達は関わらない方が良さそうよね。」

ボソッとツインテールが言う。

「うん。きっと砂城院さんにまた顎で使われて、惨めな思いをするだけよ。」

おかっぱが虚しい顔つきで言った。

「帰ろ!帰ろ!ウチらには関係ないよ。ねっ?」

ボブカットがみんなに同調を求めた。

取り巻き達はカバンを背負って教室を出た。
駅前の通い慣れたカフェか最近オープンしたハンバーガーショップのどちらへ行こうか、取り巻き達は盛り上がっている。



「シュゴ!シュゴ!シュゴ!シュゴ!」

限界を超えて走らされているソラはウミに腕を強く握られて離してもらえない。

「頑張れ!もう俺の音楽スタジオは目の前だ!」

「シュゴ、シュゴ、シュゴ、シュゴ、シュゴ。」

追っての2人が見えなくなるくらい、猛スピードでウミに連れられて忌々しい記憶がある旧校舎の音楽室に辿り着いた。


「ちょっと待ってな。今鍵を開けっから。」

「鍵?シュゴー、ここはシュゴー、鍵なんかシュゴー、なかった、はず。シュゴー。」

息が上がってヘトヘトのソラが、やっと口を開いた。

「俺はアンプとか大切なもんを持ち込んでるだろ?パクられたらたまったもんじゃねぇからな。だから頑丈な鍵を取り付けたんだよ。」

旧校舎の音楽室をウミは得意の日曜大工で修繕していたのだ。


鍵を慣れた手つきで開けてドアノブを回した。

カチャ

「OK!入りな。」

顔をクイッと音楽室側に向けてソラに入るよう促した。

「うわぁ!あんなにボロボロだったのに格好良いお部屋になっているぅ!」

ベートーヴェンやモーツァルトのポスターが剥がされ、変わりにジミ・ヘンドリックス、チャック・ベリー、レッド・ツェッペリン、クリーム、ヴァン・ヘイレン、マーク・ボラン、ジョナサン・リッチマン、リンク・レイ、MC5、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン等のポスターが所狭しと張られていた。

傷んだ床も改修が施されており、照明器具が搬入され、いらなくなった机や椅子は部屋からどかされてどこにも見当たらない。

廃墟だった音楽室を、たった半日でここまでリノベーションしたなんて、ソラに限らず誰もが信じられないだろう。

「神園君!これ、ほんとに1人でやったの!?」

「もちろん!ちょっとだけ、同じクラスのデブに運ぶのを手伝わせたけどな。」

そう言ってウミは顔を天井に向けて無邪気に笑った。

吐き気が込み上げるくらいカビ臭く、埃まみれでボロボロの音楽室を知っているだけに、ソラは嬉しくてまるでウサギのように飛び跳ねていた。

「テンション上がってんな!そうだ!それでいい!
湧き上がる感情が、いつの間にか身体を支配しちまうのさ!」

エレキギターを手にしたウミはチューニングをしながら言った。

「私、楽器の事、よくわからないけれど今、すごく楽しいよぉ!」

ソラは姫君学院に入学後、心の底から笑った事はなかった。

「おまえがそう言ってくれて俺も嬉しいぜ!」

ウミが演奏をしようとした時、かつらの後に遅れてマツダイラがやってきた。
2人はドアを開けようとするが、ウミが鍵をかけた為、中へは入れない。

「砂城院さんと、マツダイラ君だね…。」

「あんな奴ら、ほっとけ!
ここは俺の音楽スタジオだ。誰を招くかは俺が決める。俺は好きな奴しか入れる気ねえよ。」

"好きな奴しか入れる気ねえよ"
この言葉を聞いたソラはドキッとしてウミを見つめた。

武装したソラの頬が赤く染まったのを誰も見る事はできない。




























しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

【完結】愛くるしい彼女。

たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。 2023.3.15 HOTランキング35位/24hランキング63位 ありがとうございました!

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

犬とスローライフを送ってたら黒い噂のある公爵に突然求婚された令嬢

烏守正來
恋愛
マリエラはのんびりした性格の伯爵令嬢。美人で華やかな姉や優秀な弟とは違い、自他ともに認める凡人。社交も特にせず、そのうち田舎貴族にでも嫁ぐ予定で、飼い犬のエルディと悠々暮らしていた。 ある雨の日、商談に来ていた客人に大変な無礼を働いてしまったマリエラとエルディだが、なぜかその直後に客人から結婚を申し込まれる。 客人は若くして公爵位を継いだ美貌の青年だが、周りで不審死が相次いだせいで「血塗れの公爵」の二つ名を持つ何かと黒い噂の多い人物。 意図がわからず戸惑うマリエラはその求婚をお断りしようとするが。 ________________ ※完結しました! 執筆状態を「完結」にするともう話を追加できないのを知らず、何のコメントもないまま普通に終わらせてしまいましたが、読んでくださった方、応援してくださった方ありがとうございました!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...