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ソラが女子高校生だった頃。鍵をかけて2人きり
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6限の英語が終了し、チャイムが鳴ると同時にウミはソラの腕を引っ張って走った。
「時間がもったいねぇ!早く走れ!」
「ちょっとぉ!腕が痛いぃぃ!」
教室のドアを乱暴に開けて、2人は風を切って走っていく。
「大嵐さん!抜け駆けするつもり?待ちなさーい!」
かつらが後に続く。
続いて鈍足のマツダイラが、かつらを追って必死の形相でドタバタ走っていく。
「待ってくれ!砂城院さん、俺は~俺は~、あなたの事が~!」
いつもなら同行している取り巻き達は冷ややかな目で一連の流れを見ていた。
「あれってさ、私達は関わらない方が良さそうよね。」
ボソッとツインテールが言う。
「うん。きっと砂城院さんにまた顎で使われて、惨めな思いをするだけよ。」
おかっぱが虚しい顔つきで言った。
「帰ろ!帰ろ!ウチらには関係ないよ。ねっ?」
ボブカットがみんなに同調を求めた。
取り巻き達はカバンを背負って教室を出た。
駅前の通い慣れたカフェか最近オープンしたハンバーガーショップのどちらへ行こうか、取り巻き達は盛り上がっている。
「シュゴ!シュゴ!シュゴ!シュゴ!」
限界を超えて走らされているソラはウミに腕を強く握られて離してもらえない。
「頑張れ!もう俺の音楽スタジオは目の前だ!」
「シュゴ、シュゴ、シュゴ、シュゴ、シュゴ。」
追っての2人が見えなくなるくらい、猛スピードでウミに連れられて忌々しい記憶がある旧校舎の音楽室に辿り着いた。
「ちょっと待ってな。今鍵を開けっから。」
「鍵?シュゴー、ここはシュゴー、鍵なんかシュゴー、なかった、はず。シュゴー。」
息が上がってヘトヘトのソラが、やっと口を開いた。
「俺はアンプとか大切なもんを持ち込んでるだろ?パクられたらたまったもんじゃねぇからな。だから頑丈な鍵を取り付けたんだよ。」
旧校舎の音楽室をウミは得意の日曜大工で修繕していたのだ。
鍵を慣れた手つきで開けてドアノブを回した。
カチャ
「OK!入りな。」
顔をクイッと音楽室側に向けてソラに入るよう促した。
「うわぁ!あんなにボロボロだったのに格好良いお部屋になっているぅ!」
ベートーヴェンやモーツァルトのポスターが剥がされ、変わりにジミ・ヘンドリックス、チャック・ベリー、レッド・ツェッペリン、クリーム、ヴァン・ヘイレン、マーク・ボラン、ジョナサン・リッチマン、リンク・レイ、MC5、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン等のポスターが所狭しと張られていた。
傷んだ床も改修が施されており、照明器具が搬入され、いらなくなった机や椅子は部屋からどかされてどこにも見当たらない。
廃墟だった音楽室を、たった半日でここまでリノベーションしたなんて、ソラに限らず誰もが信じられないだろう。
「神園君!これ、ほんとに1人でやったの!?」
「もちろん!ちょっとだけ、同じクラスのデブに運ぶのを手伝わせたけどな。」
そう言ってウミは顔を天井に向けて無邪気に笑った。
吐き気が込み上げるくらいカビ臭く、埃まみれでボロボロの音楽室を知っているだけに、ソラは嬉しくてまるでウサギのように飛び跳ねていた。
「テンション上がってんな!そうだ!それでいい!
湧き上がる感情が、いつの間にか身体を支配しちまうのさ!」
エレキギターを手にしたウミはチューニングをしながら言った。
「私、楽器の事、よくわからないけれど今、すごく楽しいよぉ!」
ソラは姫君学院に入学後、心の底から笑った事はなかった。
「おまえがそう言ってくれて俺も嬉しいぜ!」
ウミが演奏をしようとした時、かつらの後に遅れてマツダイラがやってきた。
2人はドアを開けようとするが、ウミが鍵をかけた為、中へは入れない。
「砂城院さんと、マツダイラ君だね…。」
「あんな奴ら、ほっとけ!
ここは俺の音楽スタジオだ。誰を招くかは俺が決める。俺は好きな奴しか入れる気ねえよ。」
"好きな奴しか入れる気ねえよ"
この言葉を聞いたソラはドキッとしてウミを見つめた。
武装したソラの頬が赤く染まったのを誰も見る事はできない。
「時間がもったいねぇ!早く走れ!」
「ちょっとぉ!腕が痛いぃぃ!」
教室のドアを乱暴に開けて、2人は風を切って走っていく。
「大嵐さん!抜け駆けするつもり?待ちなさーい!」
かつらが後に続く。
続いて鈍足のマツダイラが、かつらを追って必死の形相でドタバタ走っていく。
「待ってくれ!砂城院さん、俺は~俺は~、あなたの事が~!」
いつもなら同行している取り巻き達は冷ややかな目で一連の流れを見ていた。
「あれってさ、私達は関わらない方が良さそうよね。」
ボソッとツインテールが言う。
「うん。きっと砂城院さんにまた顎で使われて、惨めな思いをするだけよ。」
おかっぱが虚しい顔つきで言った。
「帰ろ!帰ろ!ウチらには関係ないよ。ねっ?」
ボブカットがみんなに同調を求めた。
取り巻き達はカバンを背負って教室を出た。
駅前の通い慣れたカフェか最近オープンしたハンバーガーショップのどちらへ行こうか、取り巻き達は盛り上がっている。
「シュゴ!シュゴ!シュゴ!シュゴ!」
限界を超えて走らされているソラはウミに腕を強く握られて離してもらえない。
「頑張れ!もう俺の音楽スタジオは目の前だ!」
「シュゴ、シュゴ、シュゴ、シュゴ、シュゴ。」
追っての2人が見えなくなるくらい、猛スピードでウミに連れられて忌々しい記憶がある旧校舎の音楽室に辿り着いた。
「ちょっと待ってな。今鍵を開けっから。」
「鍵?シュゴー、ここはシュゴー、鍵なんかシュゴー、なかった、はず。シュゴー。」
息が上がってヘトヘトのソラが、やっと口を開いた。
「俺はアンプとか大切なもんを持ち込んでるだろ?パクられたらたまったもんじゃねぇからな。だから頑丈な鍵を取り付けたんだよ。」
旧校舎の音楽室をウミは得意の日曜大工で修繕していたのだ。
鍵を慣れた手つきで開けてドアノブを回した。
カチャ
「OK!入りな。」
顔をクイッと音楽室側に向けてソラに入るよう促した。
「うわぁ!あんなにボロボロだったのに格好良いお部屋になっているぅ!」
ベートーヴェンやモーツァルトのポスターが剥がされ、変わりにジミ・ヘンドリックス、チャック・ベリー、レッド・ツェッペリン、クリーム、ヴァン・ヘイレン、マーク・ボラン、ジョナサン・リッチマン、リンク・レイ、MC5、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン等のポスターが所狭しと張られていた。
傷んだ床も改修が施されており、照明器具が搬入され、いらなくなった机や椅子は部屋からどかされてどこにも見当たらない。
廃墟だった音楽室を、たった半日でここまでリノベーションしたなんて、ソラに限らず誰もが信じられないだろう。
「神園君!これ、ほんとに1人でやったの!?」
「もちろん!ちょっとだけ、同じクラスのデブに運ぶのを手伝わせたけどな。」
そう言ってウミは顔を天井に向けて無邪気に笑った。
吐き気が込み上げるくらいカビ臭く、埃まみれでボロボロの音楽室を知っているだけに、ソラは嬉しくてまるでウサギのように飛び跳ねていた。
「テンション上がってんな!そうだ!それでいい!
湧き上がる感情が、いつの間にか身体を支配しちまうのさ!」
エレキギターを手にしたウミはチューニングをしながら言った。
「私、楽器の事、よくわからないけれど今、すごく楽しいよぉ!」
ソラは姫君学院に入学後、心の底から笑った事はなかった。
「おまえがそう言ってくれて俺も嬉しいぜ!」
ウミが演奏をしようとした時、かつらの後に遅れてマツダイラがやってきた。
2人はドアを開けようとするが、ウミが鍵をかけた為、中へは入れない。
「砂城院さんと、マツダイラ君だね…。」
「あんな奴ら、ほっとけ!
ここは俺の音楽スタジオだ。誰を招くかは俺が決める。俺は好きな奴しか入れる気ねえよ。」
"好きな奴しか入れる気ねえよ"
この言葉を聞いたソラはドキッとしてウミを見つめた。
武装したソラの頬が赤く染まったのを誰も見る事はできない。
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