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ソラが女子高校生だった頃。旧校舎の音楽室で…
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雨に濡れないよう壁づたいで屋根のある体育館裏を通り、コンクリートがない石ころがばかりが転がっている中庭に出た。
ちょうどそこに旧校舎の一部があった音楽室が見えてくる。
取り巻き達はソラを連れて鍵の壊れたドアを半分ほど開けた。
当然換気はされておらずカビ臭くてホコリが舞っている場所だ。
「お、おい。本当に入るのか?」
「呼びとめないでよ。マツダイラ?あんた緊張してんの?」
「う、うるせぇ!」
マツダイラはソラの身体を見て、ニヤけた顔を隠しきれずにいる。
半開きのドアからベートーべウェンやモーツァルト等、いかにも音楽室を連想させるポスターが貼られていたのが見えた。
(セラ、助けて!セラ!)
腹に力を入れて心の中で絶叫した。
(姉貴、逃げて!石で殴りつけてもいい!絶対に部屋に入るな!)
セラの声がはっきり聞こえた。
聞こえた気がしたのだ。
ソラはやぶれかぶれになっており、セラの指示に従いマツダイラと取り巻き達を近くにある石ころで頭をかち割ってやろうか本気で考えはじめた。
しかし、いくら自分が被害者とはいえ、相手を殺してしまったら…。
殺人者になってしまえば家族に迷惑がかかる。
ソラは両親や妹のセラに別れを告げる覚悟だった。
「こんにちわ。」
マツダイラと取り巻きが驚いて半開きのドアを閉め、後ろを振り返ると砂城院の兄が傘を差して立っていた。
「僕はいつも折りたたみの傘を持ち歩いているからね。天気予報なんて当てにしてないのさ。」
ニコッと爽やかな笑みを浮かべた。
「君達は一年生だろ?こんなところで何をしていたんだい?」
砂城院の兄は取り巻き達に尋ねた。
「えっと、たまたま立ち寄っていたら雨が降ってしまって雨宿りをしようと思ったんです。」
ツインテールの女子生徒は、嘘をついてなんとかその場を取り繕うとした。
「見え透いた嘘はつくもんじゃないなあ。
だって、君らがここに来る理由なんてないはずだよ。
念の為だ説明しておこう。
僕はボランティアでこの辺をパトロールしているのさ。
なぜならこの学校には悪しき伝統があってね。
口にだすのも憚られる伝統さ。」
取り巻き達もマツダイラも黙ってしまった。
「ん?なぜ君らは2人してその見た目がソラの両腕をしっかり握っているんだ?
僕には彼女を拘束しているようにしか見えないのだけど…。
あぁ、もしや…僕には状況がわかったぞ!」
砂城院の兄は取り巻き達とマツダイラを睨んだ。
「君らはこの変わった格好をしている女の子を廃墟に連れ込んでどうにかするつもりだったんだろう?違うか?
もしもそれが事実なら君らのやろうとした事は犯罪だよ!」
砂城院の兄は続けた。
「今回の件は先生方に伝えておこう。そしてこのような悪しき伝統をいつまでも残しておいてはいけない。
僕からは以上だ。君達はその子を解放しろ。早く彼女から離れてくれ、さぁ早く!」
マツダイラと取り巻き達は青ざめた顔で校門側へ向かって行った。
砂城院の兄はマツダイラや取り巻き達が見えなくなるまで見送ると、ソラに近づき自分の傘にソラを入れてあげた。
「大丈夫だったかい?精神的にもかなりヘヴィだったはずだ。
奴らはひとでなしだよ。
ただ、先生方には伝えるとは話したけど、僕は彼らに更生してもらいたんだ。
今日の事を報告すれば退学処分になるだろう。
でもそれをする事が正しいとは到底僕には思えない。
難しい判断ではあるけれどね。」
恋愛感情のない相合傘をしながら話し合っているうち、いつの間にやら雷雨は止んで空が明るくなってきた。
「良かった。雨が止んだよ。太陽が出てきたね。」
「あ、あの。」
「ん?」
「助けてくださってどうもありがとうございました…。」
心身ともに疲れきっているソラはお礼を言うだけで精一杯だった。
「お礼なんていらないよ。もしもまた何かあったら、僕に相談してくれ。
僕は3年1組の砂城院宗成さ。
君は?」
「私は1年4組の大嵐ソラです。」
「1年4組だって?てことは、妹のかつらと同じクラスか。」
宗成は目を見開いた。
「まぁ…。はい。」
かつら、という名前を聞いてソラは頭が痛くなってきた。
「妹は高飛車な性格でね。トラブルメイカーなんだ。
大嵐さんは同じクラスだから、かつらには充分気をつけてね。」
「あっ!待って。別れ際に聞いていいかい?」と宗成が尋ねてきた。
「大嵐さんはどうして顔を隠しているんだい?」
顔を隠す理由を家族以外の誰にも教えたくないソラは何も言わずに黙っていた。
「…もしかしら、色々な事情があるのかもしれないな。詮索するのはやめておくよ。ごめんね。大嵐さん。」
「すいません…。」
「ハハッ、謝らないで。僕にも聞かれたくない事はあるからさ。気持ちがわかるんだ。
僕はこれで帰るとしよう。
晴れてきたから旧校舎の音楽室は誰も利用しないはずだ。
大嵐さん、ではまた。」
宗成と別れたソラは取り巻きが待ち伏せしているかもしれないと思い、用心しながら裏門から出て行った。
砂城院宗成は廃墟と化した音楽室のドアを開けた。
「おい宗ちゃんか?」
部屋の奥から男子の声が聞こえてくる。
「そうだ。」
「ビビったぜ!せっかくおまえのおこぼれを頂こうとしていたところに、1年生がドアを開けるんだもんよ。」
「俺が見張りをしていなきゃ、バレてたな。で?結局どうだったんだ?」
「あの娘ならとっくに帰ったよ。ジュースを飲んで天気の話をしただけで終わった。指一本触れてない。」
「情けない奴…。」
宗成を宗ちゃんと呼ぶ同級生の男子が旧校舎の音楽室から出てきた。
「さっきの土砂降りが嘘みたいだな。」
太陽が樹々の葉に付いた雨水や水溜まりを美しく反射させている。
「初めてだよ。」
宗成が言った。
「あっ?なにが?」
「素顔を隠した下級生。」
「俺だって顔を隠して学校に来る女は初めて見たぞ。
しかもほっせー身体なのに乳がデカくて驚いたよ。」
「顔を隠しても俺にはわかる。#今まで嗅いだことのないすごく甘いメスの匂いがしたんだ_・__#。他の男達に絶対に手出ししないように言っておけよ。
手を出したら、砂城院宗成が殺すと言っていたとな。」
ちょうどそこに旧校舎の一部があった音楽室が見えてくる。
取り巻き達はソラを連れて鍵の壊れたドアを半分ほど開けた。
当然換気はされておらずカビ臭くてホコリが舞っている場所だ。
「お、おい。本当に入るのか?」
「呼びとめないでよ。マツダイラ?あんた緊張してんの?」
「う、うるせぇ!」
マツダイラはソラの身体を見て、ニヤけた顔を隠しきれずにいる。
半開きのドアからベートーべウェンやモーツァルト等、いかにも音楽室を連想させるポスターが貼られていたのが見えた。
(セラ、助けて!セラ!)
腹に力を入れて心の中で絶叫した。
(姉貴、逃げて!石で殴りつけてもいい!絶対に部屋に入るな!)
セラの声がはっきり聞こえた。
聞こえた気がしたのだ。
ソラはやぶれかぶれになっており、セラの指示に従いマツダイラと取り巻き達を近くにある石ころで頭をかち割ってやろうか本気で考えはじめた。
しかし、いくら自分が被害者とはいえ、相手を殺してしまったら…。
殺人者になってしまえば家族に迷惑がかかる。
ソラは両親や妹のセラに別れを告げる覚悟だった。
「こんにちわ。」
マツダイラと取り巻きが驚いて半開きのドアを閉め、後ろを振り返ると砂城院の兄が傘を差して立っていた。
「僕はいつも折りたたみの傘を持ち歩いているからね。天気予報なんて当てにしてないのさ。」
ニコッと爽やかな笑みを浮かべた。
「君達は一年生だろ?こんなところで何をしていたんだい?」
砂城院の兄は取り巻き達に尋ねた。
「えっと、たまたま立ち寄っていたら雨が降ってしまって雨宿りをしようと思ったんです。」
ツインテールの女子生徒は、嘘をついてなんとかその場を取り繕うとした。
「見え透いた嘘はつくもんじゃないなあ。
だって、君らがここに来る理由なんてないはずだよ。
念の為だ説明しておこう。
僕はボランティアでこの辺をパトロールしているのさ。
なぜならこの学校には悪しき伝統があってね。
口にだすのも憚られる伝統さ。」
取り巻き達もマツダイラも黙ってしまった。
「ん?なぜ君らは2人してその見た目がソラの両腕をしっかり握っているんだ?
僕には彼女を拘束しているようにしか見えないのだけど…。
あぁ、もしや…僕には状況がわかったぞ!」
砂城院の兄は取り巻き達とマツダイラを睨んだ。
「君らはこの変わった格好をしている女の子を廃墟に連れ込んでどうにかするつもりだったんだろう?違うか?
もしもそれが事実なら君らのやろうとした事は犯罪だよ!」
砂城院の兄は続けた。
「今回の件は先生方に伝えておこう。そしてこのような悪しき伝統をいつまでも残しておいてはいけない。
僕からは以上だ。君達はその子を解放しろ。早く彼女から離れてくれ、さぁ早く!」
マツダイラと取り巻き達は青ざめた顔で校門側へ向かって行った。
砂城院の兄はマツダイラや取り巻き達が見えなくなるまで見送ると、ソラに近づき自分の傘にソラを入れてあげた。
「大丈夫だったかい?精神的にもかなりヘヴィだったはずだ。
奴らはひとでなしだよ。
ただ、先生方には伝えるとは話したけど、僕は彼らに更生してもらいたんだ。
今日の事を報告すれば退学処分になるだろう。
でもそれをする事が正しいとは到底僕には思えない。
難しい判断ではあるけれどね。」
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「良かった。雨が止んだよ。太陽が出てきたね。」
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「ん?」
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君は?」
「私は1年4組の大嵐ソラです。」
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宗成は目を見開いた。
「まぁ…。はい。」
かつら、という名前を聞いてソラは頭が痛くなってきた。
「妹は高飛車な性格でね。トラブルメイカーなんだ。
大嵐さんは同じクラスだから、かつらには充分気をつけてね。」
「あっ!待って。別れ際に聞いていいかい?」と宗成が尋ねてきた。
「大嵐さんはどうして顔を隠しているんだい?」
顔を隠す理由を家族以外の誰にも教えたくないソラは何も言わずに黙っていた。
「…もしかしら、色々な事情があるのかもしれないな。詮索するのはやめておくよ。ごめんね。大嵐さん。」
「すいません…。」
「ハハッ、謝らないで。僕にも聞かれたくない事はあるからさ。気持ちがわかるんだ。
僕はこれで帰るとしよう。
晴れてきたから旧校舎の音楽室は誰も利用しないはずだ。
大嵐さん、ではまた。」
宗成と別れたソラは取り巻きが待ち伏せしているかもしれないと思い、用心しながら裏門から出て行った。
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「おい宗ちゃんか?」
部屋の奥から男子の声が聞こえてくる。
「そうだ。」
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