上 下
49 / 275
ソラが女子高校生だった頃。標的にされたソラ

48

しおりを挟む
ソラは誰もいなくなった教室で急いで着替を済ませ体育館まで走った。

「今朝から私は走ってばっかり…。」

自分の置かれた境遇に辟易へきえきしている。

体育館に着くと体育館用シューズに履き替えて、皆が集まっているステージ付近に駆け寄って行った。

女教師は大きな声でハキハキ出席をとっている。

「大嵐さん!…大嵐さんている?」

皆が辺りをキョロキョロ見渡している時、「はい!シュゴ、シュゴ、シュゴ。」と息苦しそうに走りながら返事をした。

ギリギリ間に合ったソラは遅刻せずに済んで安堵している。

「チッ!」
砂城院は舌打ちをした。

でも、体育の授業で顔を隠したまま運動することなど許されるはずがない。
これで大嵐も素顔を晒さなければならないはずだ。
砂城院はほくそ笑んだ。

「どれだけスタイルがよくて豊満なバストの持ち主であろうと、この気品に溢れ美しい顔をしたワタクシに叶うはずがない。
さぁ、早く醜悪しゅうあくな顔をワタクシ達の前で晒しなさい。
そしてワタクシが、みんなの前で外見で人を差別してはいけないわ、大嵐さんだってよく見ればなかなかチャーミングなお顔をしているじゃないって嫌味たらしく言ってあげるのだから。
あんたはワタクシとの超えられない顔面偏差を知り絶望して泣き崩れるの。
あぁん。はやくぅ、はやくぅ、その時がこないかしら。
ワタクシは愉快なオモチャを見つけたのよ。しっかり調教をしたあとは壊すだけのオモチャを。
おまえ大嵐は壊れたって誰も悲しまない、みんなに蔑まれるブサイクなオモチャ!」

砂城院は人の自尊心を傷つけてエクスタシーを感じるという異常な性癖の持ち主であった。


出席をとった後、女教師を含む生徒達は簡単な自己紹介を済ませた。
体育教師は、グループ分けをするとバスケットボールを行う準備をソラや他の女子生徒に手伝わせていた。

ソラが顔を隠している事について女教師は一切触れず、何事もないかのようにソラに試合を行わせ、ホイッスルを口に咥えながら生徒達と一緒に盛り上がっている。

「信じられない。なぜ大嵐の風貌をこれっぽっちも触れないのよ。これが名門、姫君学院の授業なの?もはや自由な校風だとかそんな次元じゃないわ。
一般常識から大きくかけ離れている!」

砂城院は面食らって、体育を教えている女教師にソラの武装について非難する事が出来なくなっていた。


体育の授業が終わり、次のクラスが使うとの理由でボール以外片付けをせずに済んだソラは体育の授業を受ける前と同様に、駆け足で体育館を飛び出し教室から制服を持って女子トイレの個室に駆け込んだ。

砂城院による妨害を恐れたが、意外な事に何もなかった。




6限の数1の授業がほどなくして終わると、下校の準備をしているソラに砂城院は声をかけた。

「ちょっと大嵐さんと話したい事があるの。
放課後、体育館裏まで来てくれる?」

「えっ?私と何の話をするの?」

「別に大嵐さんを引っ叩くとかそんな乱暴なまねをするつもりは毛頭ないわ。
ただ、なぜテロリストのような酷い格好で顔を隠すか知りたいのよ。
アタクシ、自他ともに認める"しつこい性格"なの。
今日、ここで断ってもまた明日、貴女の顔の秘密を探るわ。」                 

武装の下、ソラはヘビのように執念深い砂城院の発言で青ざめている。

ソラは思った。
このまま全てを明かしてしまおう。その方がきっと楽になれる。
砂城院だって、きっと理解をしてくれて仲良しの友人になれるかもしれない。

一瞬、そのような考えが頭を過ったが直感的に砂城院に心を許してはいけないと強く感じていた。
着替えを妨害してくるような砂城院に一度でも譲歩じょうほしてしまえば主従しゅじゅう関係が出来上がり、ずっと言いなりにならなければならない。

このピンチを切り抜く為にはどうすればいいか頭を悩ませていた時、ふと、妹のセラを思い出した。

セラ!アンタが私と同じ立場ならどうする?
実家から遠く離れた全寮制の女子校に通うセラに聞こえるはずもない助言を求めた。

(!!)

えっ?

セラ?セラの声が聞こえた…?

「黙ってないで答えなさい!貴女、ワタクシを小馬鹿にしているの?」

砂城院の声が聞こえた瞬間、ソラはカバンを抱えて走り出した。

「あっ!?逃げるのね!待ちなさい!」

ソラは妹のセラのような高い身体能力はない。
それでもソラは今、自分ができる精一杯の力で走った。

「シュゴ!シュゴ!シュゴ!シュゴ!」

「待ちなさい!止まりなさい!」

しつこい性格と自認するだけあり、砂城院はソラを追いかけていく。

階段を降り、昇降口で上履きからローファーに履き替えたソラに追いつくと左足の甲を強く踏みつけた。

「キャッ!痛い!」

ソラは絶叫に近い声をあげた。左足の甲に強烈な痛みが走る。

「逃げる貴女が悪いのよ!ちゃんと反省しなさい!さぁ、早くこの場で脱いで顔を見せないな!」


バコッ

砂城院はソラのサングラスに手をかけようとしたが、ソラの背負っていたカバンが砂城院の顔面にクリーンヒットした。

決して狙って行ったカウンター攻撃ではなく、砂城院にサングラスを取られまいと身体をクルッと回転させた時、偶然当たっただけだ。

「うわぁぁぁぁぁん!」

号泣するソラは昇降口を出て、校門をくぐり走って行く。

ボタ…ボタ…

「あのデカパイ女、ワタクシは絶対に許さないから。」

鼻血を止める為、ティッシュで鼻を押さえながら、泣きながら逃げて行くソラを見送った。





































しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

処理中です...