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不器用な男

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「いや、なんでもねえさ。俺の家の目の前でお嬢さんが吐いていたから気になっただけだ。
もう大丈夫そうだし俺はこれで…。」


男は自分のアパートを指差しながら、姉妹に伝えた後、すぐ立ち去った。

「なんて良い娘達だ。どちらも可愛いが俺は吐いていた方だな…。ってあの娘は若過ぎる。
下手すると自分に子供がいたらあの娘くらいの年齢だ。
俺は49歳のおっさんだぞ。馬鹿な考えは捨てろ。

男は世代が違い過ぎる歳下の女に好意を持った自分を戒めた。



翌朝、男はゴミ袋を持ってアパートの目の前にあるゴミ置き場へゴミを捨てに来ていた。

「青空は好きだが、朝からこんなに暑いとやってらんねえな。
ザァーザァー雨が降ったっていいんだぜ。」

連日のうだるような暑さで、タフな男もさすがに弱っていた。
自宅を出て間もなく額から汗が滲んでいる。

「おはようございます。」

「たぶん気づいてないんじゃない?」

「…せーの、おはようございます!」

2回目の挨拶は2人で声を合わせた。双子の姉妹の声は見事なユニゾンだ。

男は2回目で振り向いた。
最初の挨拶で気付かなかったわけではない。
この殺伐とした地域に住み始めて3年以上経つが近所住民とは付き合いどころか挨拶を交わした事さえなく、希薄な人間関係であった。
その為、男は自分に挨拶をしてくれたとは思わなかったのだ。

「あっ振り向いてくれた!昨日はありがとうございました!」

セラは体育会系らしさ全開で大きな声で男に挨拶をした。
続いてソラもゴミ袋を抱えながら挨拶を交わす。

「おはようございます。ご自宅付近で嘔吐をしてすいませんでした。その上、お水まで頂いちゃって。」

ソラは深々とお辞儀をした。
ソラはセラの家に住むようになってから、ゴミ出しをしているのだが早朝であれば、ほぼ人とすれ違う事がないとわかり武装はしないようにしていた。

「お、おはよう、ご、ごぜぇます!」

右手を後頭部に添えて照れくさそうに姉妹に挨拶をした。

「確かあちらのアパートに住んでいらっしゃるのですよねぇ?私達はその向かいのマンションに住んでいるんです。」

「えぇ?そうだったのか。でも俺は3年以上ここに住んでいるけど、お嬢さん達の事は見た事ないな。」

「実は私はまだ来て間もないのですぅ。妹は…。」

「あたしも、タイから帰国してきたばかりだから長くないよ。」

姉妹の顔に朝陽が当たり、キラキラしている。
こんな掃き溜めのような街になぜ天使が2人もいるのか不思議になったのと同時に男は2人の見た目がそっくりな事も気づいた。

「もしかしてお嬢さん達は双子かい?」

「そうです!」
「そうですぅ。」

タイプは違えどそっくりだな。男は思った。

「いけない。もう、こんな時間だわ。」

腕時計を見て少し焦りだす。

「お、本当だ。今日は出張撮影だから早く準備しなきゃね。おじさんまたね!」

「あぁ、また。」

姉妹はゴミを捨てるとマンションへ戻り、職場である写真スタジオ・ヒロコへ向かって行った。

「見れば見るほどタイプだな…。なんちゅうか、守ってあげたくなるような、けがしたくない娘なんだよ…。」

男は俺は何を考えてんだ。歳の差を考えろといわんばかりに、首を横にブンブン振って頭からソラを消し去ろうとした。

「俺もこうしてる場合じゃねぇ。仕事に向かわねえと。」

















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