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写真スタジオ・ヒロコ

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「なるほどね。そういう経緯いきさつがあったの?
もちろん、ウチとしては特に問題ないわ。
ソラさんの希望しているシフトとこちらの希望のシフトが合致しているしね。
後はやる気さえあれば未経験でも問題ないかな。」
 
履歴書を見ながらヒロコは頷きながら話した。

「それって姉貴は採用という事でいいですか?」

「ええもちろん。ソラさんが良かったら、是非!」

「やったね!姉貴!」

「あぅ、ありがとうございますぅ。」

ヒロコは2人を見てニコッと微笑んだ。

「一通り、説明したけど何か聞いておきたい事、わからない事はあるかな?」

「姉貴からなんかある?」

「と、特には、はい、大丈夫です。」

セラとヒロコは緊張しているソラの辿々しい話し方に笑った。

「全くの未経験の2人に初日から、いきなり仕事に関する難しい説明をするのは酷だと思ってね。
写真てどんなものか3人で楽しく撮影してみない?」

「面白そう!」

何ごとも興味を持ち積極的なセラは嬉しそうだ。

「お姉ちゃんはどうかな?」

ヒロコが聞く。

「はい。だ、大丈夫ですぅ。」

「緊張してガチガチね。ウフフ。よし、ここはウチの腕の見せ所だわ。
まずは美人姉妹のお姉ちゃんを撮影しようと思うんだけど、どう?」

「えっ、私はあの見学で…。」

ソラはオロオロしながらヒロコに言った。

「姉貴、せっかくなんだから撮ってもらいなよ。
昔の人みたいに写真を撮られたら魂が抜かれるなんて思っているわけないよね?」

「セラちゃん、その若さで明治時代の迷信をよくご存知で。」

ヒロコは笑いながら、すかさずツッコミを入れて上手くオチを作った。

ソラも若干、顔が緩んだ。

笑顔のヒロコに導かれ椅子に腰掛けた。

ソラは目新しい機材を不思議そうに見ている。

「あっこれはね。アンブレラっていうの。実際、こんなライティング用の機材を見る機会はないもんね。」

「なるほどぉ。」

緊張したソラが答えた。

ヒロコはストロボを使って写真を撮っていく。

「お姉ちゃんは妹のセラちゃんと仲良しさんだね。2人でお出掛けしたりするの?」

「最近はお出掛けしてないですが、中学生の頃はプラネタリウムに行ったり映画館に行ってました。」

「へぇー素敵!プラネタリウム!姉妹で行ったんだね。プラネタリウム。
良いなぁ。ウチには兄が2人いるんだけどね、プラネタリウムには連れて行ってもらえなかったから羨ましいわ。」

ヒロコは仲睦まじい姉妹の話をソラから聞いて更に笑顔になっていく。

「でも、セラは途中から飽きちゃったみたいで、私に眠いって言ったんです。
せっかく連れてきたのに腹が立って喧嘩しちゃいましたぁ。」

「あーあったあった!懐かしい!」

セラが元気よく笑う。

「今はね、寝ながらプラネタリウムを楽しむ施設も増えてきてるんだよ。」

「えーそうなのですか?知らなかったです。」

ソラは口に手のひらをかざした。

ソラの緊張が解けていくのをヒロコはシャッターを押しながら楽しんでいる。

"日本一可愛い美少女"の異名を持つソラは表情に笑顔が戻って、素の顔が露わになっていく。
ソラ自身もいつの間にか自然体でいる事に気付き、ヒロコに写真を撮られている事を喜んでいた。


「お姉ちゃんの写真けっこう撮ったよ。
すごく可愛いから撮っていて楽しかったわ。
今、撮影した写真、2人とも見たいでしょ?さっそく見てみよ?」

モデルを務めたソラはドキドキしながら、テザー撮影した写真をセラ、ヒロコと見た。

「姉貴、可愛い!笑顔が凄くいい!」

「これはプロカメラマンのヒロコさんが上手く撮ってくれたからよぉ。」

写真館での撮影はあるものの、ここまでプライベートな写真をプロのカメラマンに撮影されたのは初めての経験だった。

「褒めてくれるのは嬉しいけれど、被写体が素晴らしいからよ。
撮っていて、ウチは女だけど惚れちゃいそうになったもん!」

3人の弾むような笑い声が部屋を包んだ。










































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