私、家出するけどちゃんと探してよね!

スーパー・ストロング・マカロン

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帰国した妹はお姉ちゃんと瓜二つ

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「さっきはごめんね。大切な本を汚しちゃって。」

「もう気にしてないわ。」

仰向けに寝ていたセラは、身体を横にして寝返りをうつとソラの耳があり、そこから流れるようなサラサラのストレートヘアが鼻にあたった。

「いい香り。」

「アンタも私が使っているシャンプーと同じよ。」

「でも姉貴みたいな香りはしないよ。」

ソラも寝返りをうってセラと向かい合わせになる。
タオルケットから細い腕を伸ばして短くカットした金髪を摘んだ。

「んしょっ、髪が短いから届かないや。
ちょっとごめんね。」

セラに覆い被さるように髪の匂いを嗅ぐ。

「セラの髪も深呼吸したいくらいいい香りがするよ。」

「…姉貴のマシュマロに顔を潰されそう。」

セラの顔面にソラの柔らかみのある乳房がこぼれていた。

「あら、顔に当たってた?でも顔を潰せるほど私のマシュマロは重くないわよ。」

姉妹は屈託のない瞬間を楽しんでいる。

「こうやってさ、姉貴と一人分の布団に枕を並べて寝るのは、いつぶりか覚えている?小学生の頃まで一緒のベッドで寝ていたんだよ。」

「そうね。昔はよくこうして一緒に寝てたっけ。懐かしいわぁ。
子どもの頃はいつも一緒だった…。
いつの間にか私の知らないうちに格闘家を志してタイにまで行って約半年ものあいだ武者修行をしているんだもの。
アンタもウミと同じで思いついたら迷わず突き進む。」


消灯した後の暗い部屋で妹の成長を姉として喜びつつも、希薄な関係になったとまでは言わないがライフワークがガラリと変わり幼少の頃のような、いつも行動をともにする関係とはいかなくなっていった。

いつか、もっと年齢を重ねていくうちに大切な双子の妹が自分の意思とは別に遠くへ離れてしまうのではないかと寂しさを感じている。

「ごめんね。これからは何も言わずいなくなったりしない。姉貴には必ず伝えるよ。」

セラは自分よりはるかに感受性の強い姉である事は知っている。
その姉がウミの件もあって、今まで以上に傷心していた。
ソラが短い言葉ではあったがぽつりぽつりと思いを口にした事で、妹のセラは胸が締め付けられる。

「姉貴は昔から優しいよね。夕食の時の心遣いというか、配慮してくれてんの気づいていたよ。」

「え?私の心遣い?あのお夕食の時間になんかあったかな?」

「うん。」
セラはコクリと頷いて話した。

「そう。いただきますをする直前に気付いたんだ。あのハンバーグの大きさに。
あたしとお義兄さんのハンバーグと姉貴のハンバーグとでは、大きさが違ったよ。
きっとあたしが格闘技をやっているから栄養面を気遣ってくれたんだとすぐ気付いた。」

感謝の念を伝えたセラは少し声がうわずり、ソラの二の腕に顔をくっつけて照れくさそうに甘えた。

「あぁ~あれくらいは当然よぉ。
最近、お腹周りが気になるからダイエット中だし。
変わりに食べてもらおうと思って。」

ソラも褒められた事でちょっと照れくさくなり、足の指をもぞもぞ動かしている。

「こんなに細いのにダイエット中?それは嘘だな。」

「ダイエット中と言ったらダイエット中なの。」

セラと向かい合わせで寝ていたソラはプイッと背を向けた。

「姉貴も強情なところがあるから認めないもんね。」

セラはせきを切ったように話し始めた。

「ねぇ、覚えてるかな?
今、このタイミングだから言うけどさ。
中学生の頃、大嫌いな学校のテストで酷い点数を取った時、お母さんに呼び出されて言われたんだ。
全ての教科で100点を取れとは言わない。
でもちゃんと勉強をして次の期末テストで70点、いや60点でもいいから取りなさい。
もしそれができないなら、遊びに出かけるのも禁止。お小遣いも禁止よ。
スポーツに熱心なのは良いけれど、セラはもっと真剣にお勉強もしなきゃダメよって。
あまりのショックでお母さんに言われた事、いまだに一語一句忘れてないわ。
あはは…。
それであたしは頭を抱えるほどの大ピンチに陥っていた。
あたしじゃ机に向き合ってペンを持ったところでわかりっこないんだから、勉強したって意味なんかないよってね。
勉強に自信がなく、八方塞がりのあたしに姉貴はあたしの成績アップに付き合ってくれた。

お父さんは毎日のように残業続きで帰りが遅い日、家の近くを通りがかると、いつも子供部屋に電気がついていて2人が勉強をしているのを見て感心したって言ってたのを姉貴も覚えてるかな?

その時知ったんだ。
頑張れば見ていてくれる人がいるんだなって。
それがわかってからやる気が増して、あたしはバカなりに必死で勉強をしたよ。
バカなりにね。
正直、机に向かうのが嫌になって投げ出したくなった時もあったけれど付きっきりで勉強を教えてくれた姉貴のおかげで徐々に授業中も先生の言っている事がわかるようになったんだ。
置物ではなくなった時、クラスメイトのあたしを見る目が変わりすごく嬉しかったんだから。
これなら、お母さんが提示した60点はおろか高得点を狙えるかもって希望が持てたんだよ。」

仰向けになり自分の胸に手を当てて、話を続けた。

「期末テストが近づいたある日。
いつものように姉貴はあたしに勉強を教えてくれていた。
いつもは勉強疲れでグッスリ眠っているあたしは、トイレに行きたくなって目を覚ますと、二段ベットの下で寝ているはずの姉貴の姿はなかった。
初めはあたしと同じでトイレにでも行ったかなと思ったんだけどトイレにもいない。

不安が押し寄せてきた時、客間から少し明かりが漏れていたんだよね。
あたし、そっと客間のドアを覗くと姉貴は簡易式のテーブルに教科書や参考書を置いて勉強をしていたんだ…。」

ソラの背中をずっと見つめている。
あの頃と変わらない、優しくて、寂しげな背中だ。

「勉強を教わっている時、隣で悪戦苦闘するあたしに気遣ってあくびをするのを我慢しているのを見ていたから、ようやくその意味がわかってさ…あたし…。」

声を殺し時折、喉を詰まらせている。

「それを知る前と後では、もう考え方が全然違うよね。
あたしはお小遣いや遊びに出かける事を禁止されたくない一心で、頑張って勉強をしていたけど、そんな理由よりも妹のあたしの為に自分を犠牲にしてまで、勉強を教えてくれた姉貴の為に期末テストを頑張ろうって思ったんだ。
結果は姉貴も知っての通り。
あれ?姉貴…寝ちゃったかな?」

セラはソラに気づかれないよう黙って涙を手で拭う。

「あたしの話が長かったもんな。」
冷房で冷えすぎないようソラにタオルケットをかけた。

大好きだよ。おやすみなさい。」

















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