私、家出するけどちゃんと探してよね!

スーパー・ストロング・マカロン

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旦那様、帰宅はお早めに。

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「今夜も客の盛り上がり、頭からラストまでマジで凄まじかったな!」

「俺達の評価、うなぎ登りなんだってよ?」

「当然の結果さ。
演奏技術や楽曲の良さはもちろんのこと、ライブバンドとして着実に力をつけてきたんだ。
パフォーマンスはメジャーバンドだろうが海外のバンドだろうが、今の我々なら誰が相手でも負けない自信がある。
なぁ、ウミ?」

「おまえの言うとおりだ。
俺らの未来は明るいぜ。」

「奥さんにも良い報告ができそうだね。」

「そうだな。」

ウミは自信に満ちた表情で、ニコッと笑みを浮かべて3人のバンドメンバー一人ひとりと目線を合わせた。


「おい、おまえら?」

突然、肩をポンと叩かれて後ろを振り返ると対バンした先輩バンドのボーカルが話しかけてきた。

「この人がおまえらに用があるってよ。」

185センチあるガタイのいいボーカルの後ろで隠れている。
高さはないが横幅は見事にはみ出していた。

照れ臭そうに小さな声で「やぁ。」と言って、対バンしたボーカルの背後からひょっこり顔を出した。

「今夜のライブを見させて頂いたよ。
おかげで素晴らしい夜になったな。
ここまで噂通りのバンドも珍しい。
君らのライブパフォーマンスには定評があるからね。
前から観たかったんだ。」

「あんた、誰だよ?」

ウミは首を傾げて年齢が60代くらいの太った男に言った。

「あぁ、自己紹介が遅れてすまんね。
僕は君らを知っているが、君らは僕を知りもしない。
それは当然の事なんだ。
前に出て旗を振っている者と、人が振る旗の元で生きる者。
この違いさ。
もちろん君らは前者だよ。
つい、この業界に長くいると勘違いしてしまうな。
悪い癖だね。」

メンバーは、ぽかんと口を開けて男をただただ黙って見つめている。

ウミもエレキギターをケースにしまう手をずっと止めたままだ。

「すまん、自己紹介をすると言って余計な話をしてしまったな。
貰ってくれるよね?」

男は名刺を近くにいたドラマーに手渡すとドラマーの周りにウミ達が集まってきた。

「レディ・ゴーストレーベル?のニシ…さん。」
名刺を持っているドラマーが口にした。

ベーシストは俺は知らないと、名刺をくれた太った男に気づかれないようウミに目を合わせた。

ウミにも知らないレーベルだ。

「気を遣わなくていいよ。
知らなくていいんだ。
君らはスーツとネクタイに支配されたビジネスマンではない。
ましてや、知りすぎるとバンドのマジックは溶けてしまうから。
そもそもロックというものはだね…あぁ、まただ。
すまんね。ペラペラ余計な事ばかり話してしまって。」

自分語りに近い話をして気まずそうにしているレディ・ゴーストレーベルのニシにウミは躊躇わずに聞いた。

「俺らと契約したいって事っすか?」

「早い話はそういう事だね。
冒頭でも伝えたが、君らのライブは素晴らしい!
ずっと僕の中で"ロックバンド"がだったんだ。
隈なく探しても見つからない。
時効寸前の指名手配の犯人を血眼で探す刑事のような心境にまで陥った時期もあった。
だが、遂に本物を見つけた気がしたんだ。
いや君らは紛れもなく本物さ。
(小声で)今夜だって対バンしたバンドを見事に喰ってしまっていたよ。
君らだってそう感じただろう?
彼らを今更、フォローするわけではないが、活動当初は光るものがあったんだがね…。
腐った奴等にそそのかされてつまらん事務所に行ったのが間違いだった。
この話はすべきではないな。
そういや、MCでニューアルバムを制作するとオーディエンスに報告していたろう?」

「えっ?あぁ、もう幾つか楽曲は完成しているんだ。
まだライブではお披露目しちゃいないっすけどね。」
ウミはニシに言った。

「なるほど。
この際、ズバリ言わせてもらおう。
そのニューアルバムについてなんだが僕の元で作らないかね?
君らにとって、素晴らしいアルバムになるはずだ。
君らが日本のロックを変える力があると確信しているから誘っているんだ。
このメンバーなら間違いなく伝説を作れる。
今では君ら以外に相応しいバンドはもういない。
まだ話したい事は山ほどあるが君らも色々と忙しいだろう?
これで失礼するとしよう。
もちろん答えをすぐにくれとは言わないが…なるべく早い返事を待っているよ。
それも良い返事をね。
今日はありがとう。」

ニシは数歩歩いてから、振り返ってバンドに手を振った。

































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