私、家出するけどちゃんと探してよね!

スーパー・ストロング・マカロン

文字の大きさ
上 下
4 / 275
第1部 新婚生活はボロアパートで!

3

しおりを挟む
「やっとこさ、帰って来れた。今日もさんざんこき使われてクタクタだ。」

ミカミは街灯の少ない入り組んだ細い路地を歩き、幼児の背丈ほどある雑草が生い茂ったまま手入れのされていないアパートの入り口に到着すると、ため息混じりに呟いた。

「渇きを癒す為に今すぐビールか?
それとも耐えに耐えて風呂上がりのビールにすべきか?
俺よ。悩むな、悩むな。
なに、玄関開けたら今すぐ飲んで風呂上がりにまた飲めばいい。
我ながらナイスアイデア!」

もういっちょ、あとすぐ。
肉体労働で疲労困憊の身体に冷たいビールが待っている。
そう自分に言い聞かせながら最後の力を振り絞って玄関まで向かった。

「ジャンジャガ、ジャガジャガ、ジャンジャガ、ジャガジャガ!」

「な、なんだ?この音は?」

月明かりに照らされたミカミは謎の爆音に、事態を飲み込む事が出来ず茫然と立ち尽くした。

「デンデケデェー!デッデッデッデー!デンデケデェー!デッデェー!」

鋭く張り詰めたような音に我が耳を疑う。

「あ、あの野郎、こんな夜中にエレキギターなんざ弾いてやがる…。」

ミカミは昨日から隣に住む神園家の玄関のチャイムを鳴らさず、ドアをゲンコツでガンガン叩いた。

エレキギターの演奏は止まり、話し声が聞こえてくる。
それから数秒後、どこか申し訳なさそうなか細い声が玄関ドアを介して聞こえてきた。

「…どなた様でしょうか?」

声の主がソラだとわかるとミカミは疲れ切った表情を消しさり、精一杯の凛々しい顔と余裕のあるジェントルマンぶった声で話した。

「ゴホン、あぁこんばんわ。私は隣に住むミカミです。ちょっといいかな?」

玄関の向こうで、コソコソ、だから言ったでしょ?練習なんだからしょうがねえだろう、といった内容の会話が漏れ伝わってくる。

ソラは意を消したように、ゆっくりドアを開いた。

(ぐぬぬぬぬ!なんて可愛いフェイスだ!
今、まさに俺は美しき妖精と同じ空間で会話が出来るとはこの上なき幸せ!)

「あ、あのぉ?」

ソラは目を見開き瞬きさえしないミカミを不審に思い、ミカミの顔面付近に手を上下にかざした。

「んあっ、これは申し訳ない。ちょっと疲れていてボッーとしてました。」

「ブッ!コイツ、玄関を激しく叩いたかと思えば、今度は石みてぇに固まってやがった。」

白いエレキギターを持ったウミがからかう。

「ウミ!あの、ここに来た理由は私の旦那様のコレが原因ですよね…?」

ソラは背後にいるウミのギターに指を差した。

(ピンクのクマがイラストされた可愛いTシャツが、世界でこれほどまでに似合う娘がいるのか!!
…だめだ!このままでは可憐な貴女の虜になって、先程のように思考停止してしまう。)

「俺のギターの格好良さにビビってここへ来たんだろ?」

青い髪を掻き上げウミがポーズをキメて自己陶酔している。

「バッカヤロー!貴様のようなガキンチョのヘタクソな演奏なんぞに感動するか!この青ニ才め!」

「なっ!テメェ!もっぺん言ってみやがれ!このクソジジイ!」

「ジジイだと!?27歳の青年だぞ!」

顔を真っ赤にして怒鳴り合う二人の男の間に挟まれたソラは必死に喧嘩を止める。

「お願いだから落ち着いてください!ウミもだよ!」

「女神さま、ゴホン。奥様がそういうなら、今日のところは引き下がります…。」

「おう!とっととけぇーれ!けぇーれ!」

ウミは唇を尖らして怒鳴りつけた。

「ダメよ!夜中にギターを掻き鳴らしたあんたがそんな言い方していい立場じゃないわ!
あ、あのもし良かったら、ウチに上がってもらえますか?
仲直りできたらいいかなって思いまして…。」

「何考えてやがんだよ?こんな野郎を部屋に招くのか!」

「いいじゃん!私達が悪かったんだよ?ちゃんと謝りたいの!いかがですか?」

「奥様がそこまでおっしゃるなら、お、お邪魔させて頂こうかな。あはっあはは。」

(嗚呼、貴女は美しいだけではない。なんと慈悲深く聡明なのだろう。)

ミカミは目を細め、天国の階段を登るかの如く、自分の部屋と同じ作りであるオンボロアパートの玄関に入った。

「勝手にしやがれ!」

「ウフフ、どうぞ上がってくださぁい。」

呆れ顔のウミとは反対にキラキラした笑顔のソラが手招きをして迎えいれた。


















































しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。

Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。 政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。 しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。 「承知致しました」 夫は二つ返事で承諾した。 私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…! 貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。 私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――… ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】愛くるしい彼女。

たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。 2023.3.15 HOTランキング35位/24hランキング63位 ありがとうございました!

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

犬とスローライフを送ってたら黒い噂のある公爵に突然求婚された令嬢

烏守正來
恋愛
マリエラはのんびりした性格の伯爵令嬢。美人で華やかな姉や優秀な弟とは違い、自他ともに認める凡人。社交も特にせず、そのうち田舎貴族にでも嫁ぐ予定で、飼い犬のエルディと悠々暮らしていた。 ある雨の日、商談に来ていた客人に大変な無礼を働いてしまったマリエラとエルディだが、なぜかその直後に客人から結婚を申し込まれる。 客人は若くして公爵位を継いだ美貌の青年だが、周りで不審死が相次いだせいで「血塗れの公爵」の二つ名を持つ何かと黒い噂の多い人物。 意図がわからず戸惑うマリエラはその求婚をお断りしようとするが。 ________________ ※完結しました! 執筆状態を「完結」にするともう話を追加できないのを知らず、何のコメントもないまま普通に終わらせてしまいましたが、読んでくださった方、応援してくださった方ありがとうございました!

処理中です...