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第1部 新婚生活はボロアパートで!
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しおりを挟む「こんなクソ暑い夏場に引っ越しなんざするもんじゃねーな。暑くてどうにかなりそうだぜ。」
「仕方ないじゃない。ウミはバンドに夢中で高校を卒業しても就職せず働く気がなかったから結婚を反対されていたのを忘れたの?」
「はいはい!全部、俺が悪いです!新婚生活が遅れたのも俺の責任です!スイマセーン!」
「はぁ?なあに、その謝り方?ちっとも反省してないじゃない…ってちゃんと力を入れて持ちなさいよぉ!男の子でしょ?」
「コイツは冷蔵庫だぞ!男にだって限界ってもんがあるんだってんだ!お前こそもっと力を入れろよな。」
一台の白い軽トラックの荷台に積まれた最低限の生活必需品を2人がかりで部屋へ運び出している。
築40年も経つオンボロアパートで新婚生活をスタートさせた2人だが、干からびてしまうくらいの酷暑と重い荷物のせいで、口喧嘩を始めてしまった。
「だいたいよぉ、こういうのって引っ越し業者に任せるんもんじゃないのか?」
ウミは後ろ向きになって自室の玄関に入った。
「だ、か、ら!それもウミがバンド活動に夢中で働かな…。」
「わかった、わかったって!引越し費用もないのは俺のせいだ!」
「まだ私がお話をしてるでしょ!」
「お前の説教なんて聞いてる場合じゃねえ!がぁぁ、痛てて!!」
ウミは元から備え付けられていたドアスキッパーに足の指をぶつけてしまった。
「キャハハ、ウミに罰が当たったんだー!」
「旦那の不幸を笑うとはなんて最低な女なんだ!まったく!…ぐぅぅ、痛えなあ。」
新婚夫婦が口喧嘩をしている最中、そのやかましさに眠りから覚めた男がいた。
2人がこれから住む部屋の隣で生活する男は、目を擦りながら全開にしている部屋の窓から顔を覗かせた。
「なんだ、あいつら?うるせえなあ。肉体労働で疲れきった俺には貴重な日曜日なんだぞ。
若い女の声も聴こえたがガキのカップルか?
けっ、ガキンチョのくせして良いご身分だこと。」
男はそう心の中で呟きながら、汗だくのまま再び床についた。
****
「ふぅ~。ようやく片付いたな。」
ウミは6畳一間の畳に座り込んでペットボトルのコーラを飲んでいる。
「キンキンに冷えたコーラがいつもより美味いぜ!ソラ、お前の分もあるよ。飲むか?」
ソラはウミに背を向けてベランダから夕焼け空を眺めていた。
夕陽に当たった黒髪と白い肌は赤く染まり、大きな瞳も赤く輝いている。
「ソラ?聞いているのか?」
「私ね、新婚生活はパパが用意してくれた高級マンションよりこっちで良かったと本当に思っているんだよ。」
ソラは振り返って優しくウミに微笑んだ。
「…。」
胡座をかいていたウミは立ち上がり黙ってソラを見つめていた。
言葉にしたくてウズウズしていたが、なんて答えればいいかわからなかったからだ。
「ウミがパパに歯向かって、"俺がソラを食わせていきます"って啖呵をきったでしょ。私、あの時どんなに嬉しかった事か。」
「あぁ、あれね。色々言われてマジになっちゃってさ…。でもソラの親父さん、俺、けっこう好きだぜ。」
ソラは正面を向きウミの側へいった。
ソラの着ている白いTシャツは汗でびっしょり濡れて胸にピッタリ張り付いている。
「ねぇ、コーラあるんでしょ?私にもちょうだい?」
ソラは両手をピンと伸ばして歯並びの良い白い歯を見せた。
「おう。」
ウミはまだペットボトルのキャップを空けていない新品のコーラを手渡した。
「私の欲しいのはコレじゃない~!こっち!」
ソラはウミが口をつけた飲みかけのコーラをウミから奪い、両手で持って勢いよく飲み始めた。
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