私、家出するけどちゃんと探してよね!

スーパー・ストロング・マカロン

文字の大きさ
上 下
2 / 275
第1部 新婚生活はボロアパートで!

1

しおりを挟む

「こんなクソ暑い夏場に引っ越しなんざするもんじゃねーな。暑くてどうにかなりそうだぜ。」

「仕方ないじゃない。ウミはバンドに夢中で高校を卒業しても就職せず働く気がなかったから結婚を反対されていたのを忘れたの?」

「はいはい!全部、俺が悪いです!新婚生活が遅れたのも俺の責任です!スイマセーン!」

「はぁ?なあに、その謝り方?ちっとも反省してないじゃない…ってちゃんと力を入れて持ちなさいよぉ!男の子でしょ?」

「コイツは冷蔵庫だぞ!男にだって限界ってもんがあるんだってんだ!お前こそもっと力を入れろよな。」

一台の白い軽トラックの荷台に積まれた最低限の生活必需品を2人がかりで部屋へ運び出している。
築40年も経つオンボロアパートで新婚生活をスタートさせた2人だが、干からびてしまうくらいの酷暑と重い荷物のせいで、口喧嘩を始めてしまった。

「だいたいよぉ、こういうのって引っ越し業者に任せるんもんじゃないのか?」
ウミは後ろ向きになって自室の玄関に入った。

「だ、か、ら!それもウミがバンド活動に夢中で働かな…。」

「わかった、わかったって!引越し費用もないのは俺のせいだ!」

「まだ私がお話をしてるでしょ!」

「お前の説教なんて聞いてる場合じゃねえ!がぁぁ、痛てて!!」
ウミは元から備え付けられていたドアスキッパーに足の指をぶつけてしまった。

「キャハハ、ウミに罰が当たったんだー!」

「旦那の不幸を笑うとはなんて最低な女なんだ!まったく!…ぐぅぅ、痛えなあ。」


新婚夫婦が口喧嘩をしている最中、そのやかましさに眠りから覚めた男がいた。
2人がこれから住む部屋の隣で生活する男は、目を擦りながら全開にしている部屋の窓から顔を覗かせた。

「なんだ、あいつら?うるせえなあ。肉体労働で疲れきった俺には貴重な日曜日なんだぞ。
若い女の声も聴こえたがガキのカップルか?
けっ、ガキンチョのくせして良いご身分だこと。」

男はそう心の中で呟きながら、汗だくのまま再び床についた。



****


「ふぅ~。ようやく片付いたな。」
ウミは6畳一間の畳に座り込んでペットボトルのコーラを飲んでいる。

「キンキンに冷えたコーラがいつもより美味いぜ!ソラ、お前の分もあるよ。飲むか?」

ソラはウミに背を向けてベランダから夕焼け空を眺めていた。
夕陽に当たった黒髪と白い肌は赤く染まり、大きな瞳も赤く輝いている。

「ソラ?聞いているのか?」

「私ね、新婚生活はパパが用意してくれた高級マンションよりこっちで良かったと本当に思っているんだよ。」
ソラは振り返って優しくウミに微笑んだ。

「…。」
胡座をかいていたウミは立ち上がり黙ってソラを見つめていた。
言葉にしたくてウズウズしていたが、なんて答えればいいかわからなかったからだ。

「ウミがパパに歯向かって、"俺がソラを食わせていきます"って啖呵をきったでしょ。私、あの時どんなに嬉しかった事か。」

「あぁ、あれね。色々言われてマジになっちゃってさ…。でもソラの親父さん、俺、けっこう好きだぜ。」

ソラは正面を向きウミの側へいった。
ソラの着ている白いTシャツは汗でびっしょり濡れて胸にピッタリ張り付いている。

「ねぇ、コーラあるんでしょ?私にもちょうだい?」
ソラは両手をピンと伸ばして歯並びの良い白い歯を見せた。

「おう。」
ウミはまだペットボトルのキャップを空けていない新品のコーラを手渡した。

「私の欲しいのはコレじゃない~!こっち!」

ソラはウミが口をつけた飲みかけのコーラをウミから奪い、両手で持って勢いよく飲み始めた。




































しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】愛くるしい彼女。

たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。 2023.3.15 HOTランキング35位/24hランキング63位 ありがとうございました!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...