3 / 8
2【無理な女】
しおりを挟む私を過剰評価してくれる、あまり親しくない友人ーー女子生徒がいた。
彼女を友人と呼んで良いのかすら怪しいほどの、淡い関係性の人間だった。
ーー淡い関係だからこそ。語り合った。
否定されない事を前提に。
彼女は漫画家を目指している事を気持ち良さそうに語り出したのだ。
それに感化されたのか。
私は深掘りされないだろうと安易な気持ちから、その場凌ぎの会話で話してしまった。
その後、『アナタと趣味が共通する友人がいるから紹介する』と言う。
お金の無い学生時代は携帯もガラケー時代。
パソコンでの無料通話での初対面だった。
ーーてっきり、来るのは女性だと思い込んでいた。
実際来たのは同い年の男子高校生2人だった。
私はすんなり参加したものの「騙された」とすぐに察した。
私が男性だと来ないのを察した友人は、その事実を隠して呼び出していた。
まんまと引っかかったのだ。
結局。
この会議通話において私は彼女引き立て役だったのか。
はたまた本当に紹介したかったのか。
真相は謎である。
ーー興味が無かったから追求しなかった?
ーー早く終わらせたかったから興味を持たなかった。
彼らが、私の声だけでどんな姿を想像していたのか。
「告白する」と意気込んでいた男子が1人。
頑張れ~、と応援していたもう1人の男子。
私は、後者のーー声が好きだった。
この時点では、恋する自分に酔っていたのだ。
付き合いたいとか、どうとかではない。
恋愛物語の登場人物になれて幸せだった。
何度でも言う。ーーとても変な人を好きになったのだ。
私の好きになった彼は、ある日突然。
友人だった他2人と絶交して、連絡を断った。
「君のことを『あの女は無理だわ』と笑う元友人を殴って、絶縁した」
「学校も辞めてきた」
「君以外の友達が居なくなった」
「僕と付き合って下さい」
「僕が凄く好きでいれば、君が僕のことを好きでなくてもデメリットって無いと思うんだ」
少女漫画の様にキュンと来るものは正直なかった。
超がつく自信に満ち溢れ、それにサイコパスが加わった様な。
ーーとても変な人だと思った。
でも。恋は盲目。
正常な感覚を狂わせる要素の塊が彼だった。
その時までに知り得た彼の全てが、私の好きなものでしかなかったのだ。
最初は声。
本名。字面。名前の呼び方。話し方。
実際に会った時に見た顔。触れた髪も、手も好みだった。
ーー今後彼は、私をひたすら狂わせ続ける。
『高校は辞めた』
『転校した』
『通信に通っている』
『辞めた』
『今はバイトをしている』
息をする様に嘘をつく。
それを責め無かったし、責められなかった。
私と彼との物理的な距離と心の距離がそうさせたし、成立させた。
私も沢山嘘をついた。
どれが本当でどれが嘘か、追求しなかった。
押し付け無い、問い詰めないのが良い女。
ーーそう思って疑わなかった。
気付いた時には、彼はバイトも辞めていた。
ーー高校を卒業して社会人になった私には、もう嘘を付かなくて良くなったから?
よく笑い、よく怒り、よくわからない人だった。
よく笑わせ、怒らせ、よく泣く人だった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる