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4.愚者の思い込み

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後ろを振り返ると、遅ればせながら、ザバラスカーナの王太子ことフランソワ王太子殿下に義弟のアベル、そしてルイ様のお母様ことマーガレット側妃殿下が駆けつけた。

んもう、良いところだったのに!

一応、隣国の王太子と側妃殿下はここにいる貴族の中で1番位の高い要人なので、集まっていた貴族が一斉に礼をした。

勢いが削がれてしまった。

…まあ、いいわ。

フランソワ王太子の前でエリザベートの断罪をすれば、同盟のために結んだとはいえ、婚約破棄必然よ。

他の公爵家には妙齢の令嬢がいないから、繰り上がりであたくしがフランソワ王太子と婚約することになるはず。

あたくしの最終目標はフランソワ王太子なのだし、むしろちょうど良かったわ。

ああ、それにしても、ルイ様もイケメンだけれども、フランソワ王太子はその比ではないわね。

太陽の光をたっぷり浴びせたような淡い金の柔らかい髪に、星空のような蒼の涼やかな瞳。

麗しいわ…。

ぼうっ見惚れていると。

「それで、俺の婚約者を取り囲んで何をしていたのかな?」

フランソワ王太子があたくし達を見回しながら、聞いた。

「義妹とルイ王太子殿下にありもしない嫌疑をかけられ、たった今身分剥奪、社交会追放を宣告されましたの。ついでにアベルも」

見惚れてたから返答が遅れたわ。

せっかくのお話しするチャンスだったのに。

エリザベートがそう言うと、フランソワ王太子は

「へえ、なにそれ面白いね。」

と笑ったわ。

あら、もしかしてフランソワ王太子って…

「それで、彼女はどんな罪を犯したことになっているんだい?」

とあたくしの方を見て話しかけてくださいましたわ。

やっぱり笑って楽しそうに。

もしかして、本当はフランソワ王太子も元平民なんかよりも、高貴な血筋のあたくしと婚約したかったのかしら?

それならば、婚約者が責められてても笑ってるのに納得いきますわ!

そう思うと俄然、演技にもやる気が出る。

あたくしは、さっきのルイ様に演技した時よりさらに力を入れてエリザベートの罪をフランソワ王太子に伝えたわ。

「フランソワ王太子殿下、あたくし本当に怖かったんですぅ」

と必殺の上目遣いと涙目うるうるを披露しちゃいましたわ。

それを見て、フランソワ王太子はすぐにふいっとあたくしから視線を逸らした。

あたくしが美しいからってそんなに照れなくてもよろしのに。

「なるほどね。それって今日どうしても騒ぐ必要があったの?今日の主役はエリザベートなのに」

と今度はルイ様に話しかけた。

どうしてフランソワ王太子もエリザベートと同じ事を言うのかしら?

「悪を公正に裁くのに、主役もなにも関係ないではないか。」

ルイ様がそう答えると、

「それもそうかもしれないね。」

と、これまた楽しそうに笑うフランソワ王太子。

「じゃあ、さ。これだけ騒いでるんだ。もちろん、これらの証拠の他にも調査は済んでいるんだよね?」

続いて問いかけられた質問に、ルイ様とお仲間の貴族が一瞬息を呑んだのがわかった。

…調査?

証拠があるんだから、調査なんて必要ないでしょう?

フランソワ王太子はなにを言っているのかしら?

「こ、これだけの証拠を抑えているんだ!調査など必要ないだろう!」

ルイ様が力一杯反論してくれた。

調査なんてしても意味ないのはあたくしが1番よく知っているので、内心ほっとした。

でも、それに追い討ちをかけるようにフランソワ王太子は続ける。

「実際にエリザベートがいつどこにいたのか、誰といたのか。それらのきちんとした裏付けがないようだとこれはただの状況証拠に過ぎないよ。」

当時誰といたか、なんて。

裏付けなんて。

そんなの、取れるわけないじゃない。

「でも!この画像はエリザベートの部屋の絨毯ですし、この映像はばっちりエリザベートが映ってますのよ!?この証拠が偽物だというの!?」

思わず、か弱いふりをするのも忘れて捲し立てたあたくしに。

「ええ、偽物ね。」

エリザベートはきっぱりと否定してみせた。

忌々しいまでに、堂々と。

そこに少しでも不安とかそういった負の感情が浮かび上がっていれば、まだ良かったのに。

「そこまできっぱり言い切るなら、客観的な根拠があるんだろうな!?」

ルイ様の必死な問いかけに。

「もちろんですわ。これからご覧に入れましょう。」

エリザベートは自信満々にそう言って笑ってみせた。

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