転生した悪徳皇后はこの国が嫌いなので、悪役らしく頑張ってみることにした

まかだみあ

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レインは項垂れながらも言葉をつづけた。


『異世界の君を巻き込んでしまったことは、本当に申し訳ないと思っている。でも、このままでは土地が荒廃し戦争が勃発する。』

戦争…。

前世の聞きかじった知識と前時間枠でもたらした結果しかわからないけど。

人が人の人智をつくして本気で潰しあうと凄惨な結果をもたらすことは明らかだ。

現に、前世の日本では終戦から70年以上経った今でも禍根を残しているのだから。

レインは座っていた椅子を立ち上がり、私に深くお辞儀をした。

『本当は時間逆行はしない想定での魂派遣だった。でも、僕の手違いで2度も君を巻き込んでしまった。勝手なお願いだと自覚している。ごめんなさい。でも、どうしても戦争を回避して土地を守りたい。どうか、僕に力を貸してくれないだろうか。』

幼い見た目のレインが頭を下げる姿は、見ていて痛々しいものがあった。

誠意がひしひしと伝わってくるから余計に私の心にくるものがある。

でも。

「ねえ、レイン。私の前世で住んでいた日本ではね。本当に誠意を見せてお願いや謝罪をするとき、地面でひざを折り、頭を下げるのよ。土下座というのだけれど。」

さんざん振り回されているのだから少しくらい、意地悪してもいいわよね。

見た目は幼い子供だけれど、中身は神様。

お願いされている内容もかなり重いし、勝手に私の人生振り回されてるし「お願いします」と言われて「はい、わかりました。」と二つ返事で協力するほど、私は人間出来ていないわ。

「土下座してくれたら、協力するわ。」

そう言ってにっこり笑って見せた。

『わかった。』

少しは渋るかと思ったらあっさりレインは土下座した。

土下座している姿を見て、少しは溜飲が下がったわ。

「まあ、私も前時間枠でシナリオ通りとはいえ自分がやらかしたことに思うところはあるわ。民への償いの意味も含めて協力するわ。」

『っ、ありがとう!!恩に着ます!』

頭を勢いよくガバッと上げて、レインは満面の笑みを浮かべた。

「ねえ、レイン。私…皇帝になるわ。この国を根こそぎ変えるのであれば、それしか道はない。」

女が皇位を手に入れることができないのが、現状だけれども。

まだ、今の時間枠では私は10歳。

原作の皇后になるまでにはまだまだ時間がある。

その間に私自身の権力を底上げし、最終的には…

『うん、僕もそれが一番いいと思っていたんだ。でも…』

レインが言葉を切って心配そうな顔を私に向けた。

言いたいことはわかるわ。

「そうね。いろいろ、お掃除が必要になるわね。」

皇帝、皇后と摂政一派を一掃する必要がある。

正直、皇后と対峙するのは怖いわ。

権力でも、物理的な力でも敵わないことはわかっている。

…でもそれをしなければ、内政を立て直すことは不可能。

『大変な役回りを押し付けて、面目ない。』

「いえ、これは私の意思よ。あなたに頼まれたからではなく、私のために皇帝になるの。」

そう。これは、私自身の戦い。

抗わなければまた民を無意味に殺し、結局私もまた殺される。

私は私を救うために皇帝になるわ。

『僕から一つ助言を。皇帝になるならば、皇弟を味方につけるといい。』

皇弟、か。

そうか、今の時間枠ではまだ生きているのね。

「ありがとう、そうするわ。…あら?」

ふと、私の手を見るとうっすらと透けていた。

『…そろそろ、時間だ。』

「私の本体の意識が覚醒しかけているってこと?」

『そうだよ。察しがよくて、助かる。』

そう言ってレインは私に手を差し出した。

私もレインに手を差し出す。

そうして、握手した。

『僕は君の味方だよ。』

「当り前じゃない、味方じゃなかったらぶっ飛ばすわよ。」

『こっわ。』

そう言っている間にも、私の体はどんどん透けていく。

「『またね。』」

二人でそう言って、笑いあって。





『行っちゃったか…。』

レインは残っているティーセットを見て切なげに微笑んだ。

視線の先にはさっきまでアスメリアが座っていた席。

約1500年ぶりに人と話して楽しかったからか、思わず再会の挨拶をしてしまった。

ここに呼ぶと、力を大量に使うから疲れるんだけど。

「…でも、僕の力が復活してからもう一回。」

今度は突然連れてくるのではなく、事前にお誘いして。

茶葉もお茶菓子もとっておきのものを用意しておこう。

一人ぼっちの空間の中。

夜空の星の一つが少し、明るさを増した。




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