10 / 13
9
しおりを挟む
レインは項垂れながらも言葉をつづけた。
『異世界の君を巻き込んでしまったことは、本当に申し訳ないと思っている。でも、このままでは土地が荒廃し戦争が勃発する。』
戦争…。
前世の聞きかじった知識と前時間枠でもたらした結果しかわからないけど。
人が人の人智をつくして本気で潰しあうと凄惨な結果をもたらすことは明らかだ。
現に、前世の日本では終戦から70年以上経った今でも禍根を残しているのだから。
レインは座っていた椅子を立ち上がり、私に深くお辞儀をした。
『本当は時間逆行はしない想定での魂派遣だった。でも、僕の手違いで2度も君を巻き込んでしまった。勝手なお願いだと自覚している。ごめんなさい。でも、どうしても戦争を回避して土地を守りたい。どうか、僕に力を貸してくれないだろうか。』
幼い見た目のレインが頭を下げる姿は、見ていて痛々しいものがあった。
誠意がひしひしと伝わってくるから余計に私の心にくるものがある。
でも。
「ねえ、レイン。私の前世で住んでいた日本ではね。本当に誠意を見せてお願いや謝罪をするとき、地面でひざを折り、頭を下げるのよ。土下座というのだけれど。」
さんざん振り回されているのだから少しくらい、意地悪してもいいわよね。
見た目は幼い子供だけれど、中身は神様。
お願いされている内容もかなり重いし、勝手に私の人生振り回されてるし「お願いします」と言われて「はい、わかりました。」と二つ返事で協力するほど、私は人間出来ていないわ。
「土下座してくれたら、協力するわ。」
そう言ってにっこり笑って見せた。
『わかった。』
少しは渋るかと思ったらあっさりレインは土下座した。
土下座している姿を見て、少しは溜飲が下がったわ。
「まあ、私も前時間枠でシナリオ通りとはいえ自分がやらかしたことに思うところはあるわ。民への償いの意味も含めて協力するわ。」
『っ、ありがとう!!恩に着ます!』
頭を勢いよくガバッと上げて、レインは満面の笑みを浮かべた。
「ねえ、レイン。私…皇帝になるわ。この国を根こそぎ変えるのであれば、それしか道はない。」
女が皇位を手に入れることができないのが、現状だけれども。
まだ、今の時間枠では私は10歳。
原作の皇后になるまでにはまだまだ時間がある。
その間に私自身の権力を底上げし、最終的には…
『うん、僕もそれが一番いいと思っていたんだ。でも…』
レインが言葉を切って心配そうな顔を私に向けた。
言いたいことはわかるわ。
「そうね。いろいろ、お掃除が必要になるわね。」
皇帝、皇后と摂政一派を一掃する必要がある。
正直、皇后と対峙するのは怖いわ。
権力でも、物理的な力でも敵わないことはわかっている。
…でもそれをしなければ、内政を立て直すことは不可能。
『大変な役回りを押し付けて、面目ない。』
「いえ、これは私の意思よ。あなたに頼まれたからではなく、私のために皇帝になるの。」
そう。これは、私自身の戦い。
抗わなければまた民を無意味に殺し、結局私もまた殺される。
私は私を救うために皇帝になるわ。
『僕から一つ助言を。皇帝になるならば、皇弟を味方につけるといい。』
皇弟、か。
そうか、今の時間枠ではまだ生きているのね。
「ありがとう、そうするわ。…あら?」
ふと、私の手を見るとうっすらと透けていた。
『…そろそろ、時間だ。』
「私の本体の意識が覚醒しかけているってこと?」
『そうだよ。察しがよくて、助かる。』
そう言ってレインは私に手を差し出した。
私もレインに手を差し出す。
そうして、握手した。
『僕は君の味方だよ。』
「当り前じゃない、味方じゃなかったらぶっ飛ばすわよ。」
『こっわ。』
そう言っている間にも、私の体はどんどん透けていく。
「『またね。』」
二人でそう言って、笑いあって。
『行っちゃったか…。』
レインは残っているティーセットを見て切なげに微笑んだ。
視線の先にはさっきまでアスメリアが座っていた席。
約1500年ぶりに人と話して楽しかったからか、思わず再会の挨拶をしてしまった。
ここに呼ぶと、力を大量に使うから疲れるんだけど。
「…でも、僕の力が復活してからもう一回。」
今度は突然連れてくるのではなく、事前にお誘いして。
茶葉もお茶菓子もとっておきのものを用意しておこう。
一人ぼっちの空間の中。
夜空の星の一つが少し、明るさを増した。
『異世界の君を巻き込んでしまったことは、本当に申し訳ないと思っている。でも、このままでは土地が荒廃し戦争が勃発する。』
戦争…。
前世の聞きかじった知識と前時間枠でもたらした結果しかわからないけど。
人が人の人智をつくして本気で潰しあうと凄惨な結果をもたらすことは明らかだ。
現に、前世の日本では終戦から70年以上経った今でも禍根を残しているのだから。
レインは座っていた椅子を立ち上がり、私に深くお辞儀をした。
『本当は時間逆行はしない想定での魂派遣だった。でも、僕の手違いで2度も君を巻き込んでしまった。勝手なお願いだと自覚している。ごめんなさい。でも、どうしても戦争を回避して土地を守りたい。どうか、僕に力を貸してくれないだろうか。』
幼い見た目のレインが頭を下げる姿は、見ていて痛々しいものがあった。
誠意がひしひしと伝わってくるから余計に私の心にくるものがある。
でも。
「ねえ、レイン。私の前世で住んでいた日本ではね。本当に誠意を見せてお願いや謝罪をするとき、地面でひざを折り、頭を下げるのよ。土下座というのだけれど。」
さんざん振り回されているのだから少しくらい、意地悪してもいいわよね。
見た目は幼い子供だけれど、中身は神様。
お願いされている内容もかなり重いし、勝手に私の人生振り回されてるし「お願いします」と言われて「はい、わかりました。」と二つ返事で協力するほど、私は人間出来ていないわ。
「土下座してくれたら、協力するわ。」
そう言ってにっこり笑って見せた。
『わかった。』
少しは渋るかと思ったらあっさりレインは土下座した。
土下座している姿を見て、少しは溜飲が下がったわ。
「まあ、私も前時間枠でシナリオ通りとはいえ自分がやらかしたことに思うところはあるわ。民への償いの意味も含めて協力するわ。」
『っ、ありがとう!!恩に着ます!』
頭を勢いよくガバッと上げて、レインは満面の笑みを浮かべた。
「ねえ、レイン。私…皇帝になるわ。この国を根こそぎ変えるのであれば、それしか道はない。」
女が皇位を手に入れることができないのが、現状だけれども。
まだ、今の時間枠では私は10歳。
原作の皇后になるまでにはまだまだ時間がある。
その間に私自身の権力を底上げし、最終的には…
『うん、僕もそれが一番いいと思っていたんだ。でも…』
レインが言葉を切って心配そうな顔を私に向けた。
言いたいことはわかるわ。
「そうね。いろいろ、お掃除が必要になるわね。」
皇帝、皇后と摂政一派を一掃する必要がある。
正直、皇后と対峙するのは怖いわ。
権力でも、物理的な力でも敵わないことはわかっている。
…でもそれをしなければ、内政を立て直すことは不可能。
『大変な役回りを押し付けて、面目ない。』
「いえ、これは私の意思よ。あなたに頼まれたからではなく、私のために皇帝になるの。」
そう。これは、私自身の戦い。
抗わなければまた民を無意味に殺し、結局私もまた殺される。
私は私を救うために皇帝になるわ。
『僕から一つ助言を。皇帝になるならば、皇弟を味方につけるといい。』
皇弟、か。
そうか、今の時間枠ではまだ生きているのね。
「ありがとう、そうするわ。…あら?」
ふと、私の手を見るとうっすらと透けていた。
『…そろそろ、時間だ。』
「私の本体の意識が覚醒しかけているってこと?」
『そうだよ。察しがよくて、助かる。』
そう言ってレインは私に手を差し出した。
私もレインに手を差し出す。
そうして、握手した。
『僕は君の味方だよ。』
「当り前じゃない、味方じゃなかったらぶっ飛ばすわよ。」
『こっわ。』
そう言っている間にも、私の体はどんどん透けていく。
「『またね。』」
二人でそう言って、笑いあって。
『行っちゃったか…。』
レインは残っているティーセットを見て切なげに微笑んだ。
視線の先にはさっきまでアスメリアが座っていた席。
約1500年ぶりに人と話して楽しかったからか、思わず再会の挨拶をしてしまった。
ここに呼ぶと、力を大量に使うから疲れるんだけど。
「…でも、僕の力が復活してからもう一回。」
今度は突然連れてくるのではなく、事前にお誘いして。
茶葉もお茶菓子もとっておきのものを用意しておこう。
一人ぼっちの空間の中。
夜空の星の一つが少し、明るさを増した。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる