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目が覚めると、見慣れた天井が見えた。
「アスメリア様!?」
「皇女殿下が目を覚まされました!!」
「早く医者を!」
「ああ、皇弟殿下にもお伝えしなければ!」
…私、何していたんだっけ。
ぼんやりとしていると、私のベッドの周りがやけに騒がしいのだけはわかった。
えっと、たしか皇后のお茶会に行って…そうだ。
しつけと称した暴力を振るわれて、そのまま気を失ったんだっけ。
徐々に意識が覚醒して、状況を思い出してきた。
あれからどのくらい時間が経っているのかしら?
状況を確認するために起き上がろうとすると、背中から腰に掛けて鈍い痛みが走った。
頭も重いし、痛い…。最悪。
それでも何とかゆっくり起き上がろうとしていると、慌てた様子の声が聞こえた。
「メリア様、まだ起き上がらないでくださいまし!」
そのまま遠慮なく天蓋の中に入ってきてベッドに押し込められたが、毛先にすこしウェーブがかかっているプラチナブロンドの綺麗な髪が視界に入った途端、
「え…」
うそ、本当に…?
思わず息が止まった。
期待を込めて顔を見ると、思った通り。
私とおなじアイスブルーの瞳が心配そうに揺れていた。
会いたかった、会いたくて会いたくて、どんなに恋しかったか。
「シル…」
私の親友にして、従妹でもある同い年のシルヴァーナ。
愛称はシル。
ベッド脇の椅子に座り、シルヴァーナさんが横たわる私の手を握ってくれた。
その手が、温かくて…
シルに最後にお会いした時、彼女はボロボロの姿で牢屋に繋がれていた。
そのとき鉄格子越しに握った手は、冷たくて。
その手が、今は綺麗な状態で温かくて。
思わず両手でシルの手を握りしめた。
「ちょっ、メリア様!?なんで泣いて……やはりまだ傷が痛みますか?」
おろおろしながらも、片手で近くにあったハンカチを使ってあふれ出た涙を拭いてくださるシル。
涙をぬぐわれて、初めて私は涙が流れていることに気が付いた。
「やはりまだ痛いですわよね…あれだけ酷い傷を負わされたのですから」
「いや、痛いことは痛いのだけれど…あなたに会えたことが嬉しくて。もう…会えないと思っていたから。」
「そっ、そんな悲しいこと言わないでくださいまし!生きている限り、わたくしはいつでも参りますわ。」
「ありがとう…シル。」
安心させようと、私はシルに笑って見せた。
「メリア!」
バンっと勢いよく扉が開いた。
「ちょっと、お父様!レディーのお部屋に入るときはノックをしてくださいまし!」
「ああ、すまん。かわいい姪が無事に目を覚ましたと聞いて、居ても立っても居られなくてな。」
シルのお父様…皇弟にして私の叔父様がいらっしゃったみたいね。
叔父様も、最後に見たときはシルと同様にボロボロの痛々しい姿だった。
「叔父様」
声をかけるとき、また泣きそうになったけれどぐっと堪える。
これから、頼みごとをしなければいけないのだから。
「おお、メリア。目が覚めて本当に良かった。本っ当に、あの女狐は酷いことをしてくれる。」
ベッドのそばまで来て、私の姿を見た叔父様は、悲しそうに笑った。
眉毛がハの時に下がっている。
私と同じシルバーブロンドの髪の毛は急いで駆けつけてくれたのか、少し乱れていた。
私が皇后にさんざん殴られた後はいつもそうだった。
「なあ、メリア。前から言っているけど、我が家に避難しないか?これでは、おまえの身が持たない。古い傷が治っても、また新たに傷をつけられるの繰り返しだ。かわいい姪がそのような目にあっていると思うとみていられない。」
「そうよ、メリア様。我が家においでませ!このままではメリア様があの極悪女に殺されてしまいますわ。」
これも、皇后に殴られたのを見た後いつも言われていた。
いつも、いつも。
家族の中で唯一、叔父様たち一家は私の身をいつも案じてくれていた。
私は皇后に歯向かうことが怖くて、いつも彼らの優しさを突っぱねていた。
でも、今は違う。
「叔父様、私からもお願いしようと思っておりましたの。ご迷惑だとは重々承知しておりますが、どうか。私を叔父様の家で匿ってくれませんか。」
私からそうお願いすると、叔父様は目を丸くした。
また断られると思っていたのでしょうね。
「メリア…おまえ…。」
「とうとう、決心してくださいましたのね!」
シルは嬉しそうに、安心したように声を弾ませた。
今まで、私はどれほどこの人たちに心労をかけてしまっていたのか。
「散々心配かけてしまって、ごめんなさい。そして、ありがとうございます。…って、叔父様?」
叔父様…泣いてる。
まさか、嫌だったのかしら。
不安になりそうになったところで、叔父様はシルの手の上から私の手を握り呟いた。
「神よ、姪を救ってくれたことに感謝致します。」
…変に勘ぐってしまい、ごめんなさい叔父様。
静かに泣いている叔父様をよそに、シルは私の手を放してすっと立ち上がった。
「もう、お父様。泣いていないで、善は急げというわ。すぐに屋敷に戻って用意しなければ。」
叔父様も、その言葉にハッとして私の手を放して涙を拭いた。
「そうだな、あとは兄さんにもメリアの外泊許可をもらわなければ。」
背筋を伸ばして、颯爽と部屋を出て行く叔父様は、とても頼もしく見えた。
…これでまずは一歩。
未来は、確実に変わり始める。
「アスメリア様!?」
「皇女殿下が目を覚まされました!!」
「早く医者を!」
「ああ、皇弟殿下にもお伝えしなければ!」
…私、何していたんだっけ。
ぼんやりとしていると、私のベッドの周りがやけに騒がしいのだけはわかった。
えっと、たしか皇后のお茶会に行って…そうだ。
しつけと称した暴力を振るわれて、そのまま気を失ったんだっけ。
徐々に意識が覚醒して、状況を思い出してきた。
あれからどのくらい時間が経っているのかしら?
状況を確認するために起き上がろうとすると、背中から腰に掛けて鈍い痛みが走った。
頭も重いし、痛い…。最悪。
それでも何とかゆっくり起き上がろうとしていると、慌てた様子の声が聞こえた。
「メリア様、まだ起き上がらないでくださいまし!」
そのまま遠慮なく天蓋の中に入ってきてベッドに押し込められたが、毛先にすこしウェーブがかかっているプラチナブロンドの綺麗な髪が視界に入った途端、
「え…」
うそ、本当に…?
思わず息が止まった。
期待を込めて顔を見ると、思った通り。
私とおなじアイスブルーの瞳が心配そうに揺れていた。
会いたかった、会いたくて会いたくて、どんなに恋しかったか。
「シル…」
私の親友にして、従妹でもある同い年のシルヴァーナ。
愛称はシル。
ベッド脇の椅子に座り、シルヴァーナさんが横たわる私の手を握ってくれた。
その手が、温かくて…
シルに最後にお会いした時、彼女はボロボロの姿で牢屋に繋がれていた。
そのとき鉄格子越しに握った手は、冷たくて。
その手が、今は綺麗な状態で温かくて。
思わず両手でシルの手を握りしめた。
「ちょっ、メリア様!?なんで泣いて……やはりまだ傷が痛みますか?」
おろおろしながらも、片手で近くにあったハンカチを使ってあふれ出た涙を拭いてくださるシル。
涙をぬぐわれて、初めて私は涙が流れていることに気が付いた。
「やはりまだ痛いですわよね…あれだけ酷い傷を負わされたのですから」
「いや、痛いことは痛いのだけれど…あなたに会えたことが嬉しくて。もう…会えないと思っていたから。」
「そっ、そんな悲しいこと言わないでくださいまし!生きている限り、わたくしはいつでも参りますわ。」
「ありがとう…シル。」
安心させようと、私はシルに笑って見せた。
「メリア!」
バンっと勢いよく扉が開いた。
「ちょっと、お父様!レディーのお部屋に入るときはノックをしてくださいまし!」
「ああ、すまん。かわいい姪が無事に目を覚ましたと聞いて、居ても立っても居られなくてな。」
シルのお父様…皇弟にして私の叔父様がいらっしゃったみたいね。
叔父様も、最後に見たときはシルと同様にボロボロの痛々しい姿だった。
「叔父様」
声をかけるとき、また泣きそうになったけれどぐっと堪える。
これから、頼みごとをしなければいけないのだから。
「おお、メリア。目が覚めて本当に良かった。本っ当に、あの女狐は酷いことをしてくれる。」
ベッドのそばまで来て、私の姿を見た叔父様は、悲しそうに笑った。
眉毛がハの時に下がっている。
私と同じシルバーブロンドの髪の毛は急いで駆けつけてくれたのか、少し乱れていた。
私が皇后にさんざん殴られた後はいつもそうだった。
「なあ、メリア。前から言っているけど、我が家に避難しないか?これでは、おまえの身が持たない。古い傷が治っても、また新たに傷をつけられるの繰り返しだ。かわいい姪がそのような目にあっていると思うとみていられない。」
「そうよ、メリア様。我が家においでませ!このままではメリア様があの極悪女に殺されてしまいますわ。」
これも、皇后に殴られたのを見た後いつも言われていた。
いつも、いつも。
家族の中で唯一、叔父様たち一家は私の身をいつも案じてくれていた。
私は皇后に歯向かうことが怖くて、いつも彼らの優しさを突っぱねていた。
でも、今は違う。
「叔父様、私からもお願いしようと思っておりましたの。ご迷惑だとは重々承知しておりますが、どうか。私を叔父様の家で匿ってくれませんか。」
私からそうお願いすると、叔父様は目を丸くした。
また断られると思っていたのでしょうね。
「メリア…おまえ…。」
「とうとう、決心してくださいましたのね!」
シルは嬉しそうに、安心したように声を弾ませた。
今まで、私はどれほどこの人たちに心労をかけてしまっていたのか。
「散々心配かけてしまって、ごめんなさい。そして、ありがとうございます。…って、叔父様?」
叔父様…泣いてる。
まさか、嫌だったのかしら。
不安になりそうになったところで、叔父様はシルの手の上から私の手を握り呟いた。
「神よ、姪を救ってくれたことに感謝致します。」
…変に勘ぐってしまい、ごめんなさい叔父様。
静かに泣いている叔父様をよそに、シルは私の手を放してすっと立ち上がった。
「もう、お父様。泣いていないで、善は急げというわ。すぐに屋敷に戻って用意しなければ。」
叔父様も、その言葉にハッとして私の手を放して涙を拭いた。
「そうだな、あとは兄さんにもメリアの外泊許可をもらわなければ。」
背筋を伸ばして、颯爽と部屋を出て行く叔父様は、とても頼もしく見えた。
…これでまずは一歩。
未来は、確実に変わり始める。
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