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男同士の恋愛事情
第341話:二人は親友
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オフィスに戻った黒井は「俺、出かける」と鞄を取り、告知イベントのために午前中を空けていた僕はとにもかくにもそれについていった。
地下通路を、めずらしく早足で歩く黒井。
怒っているわけじゃなさそうだけど、動揺、していた。
元々、誰かに見られてどうしようと騒ぎ立てるのが僕で、「だから?」と悠長に構えているのが黒井・・・だったはずなのに、今は逆だ。
僕が落ち着いているのは、見られたといっても相手は受付という独立業務の妹尾さん一人で、その反応も「びっくりした」以上のものはなさそうなこと、そして、黒井が抱き合っていた相手が僕ではない誰かに設定されてしまうという事態も回避できたからだろう。キスなんて見られたらもう終わりだというイメージと、特に何事も起こらない現在とのギャップで、「なーんだ」とさえ思ってしまいそうな自分もいる。
そうしてやや気持ちが大きくなっている僕と対照的に、やや歩調を落として「・・・あのさ」と硬い声。
「うん?」
「俺、・・・その」
「うん」
「・・・妹尾さんに、悪いことした」
「・・・」
「妹尾さんは悪くないのに、俺、・・・困らせた」
もちろん、確かに妹尾さんは困っていた。でも、黒井だったら「むしろ面白かったんじゃない?」とか何とか言いそうだと思ったけど・・・。
「それは、まあそうだけど」
「何か、こんな風なの、俺、考えてなかった。その、『俺のせいにして』って言ったけどさ、それって、何ていうか、批判っていうか、批難?・・・そういうの、俺のせいでいいって思ったけど・・・」
「・・・うん」
「こういうの、違うよ。嫌なやつに言われたら何でも言い返すけど、・・・こういうのじゃない。俺が、軽率だった」
・・・黒井の口から「軽率」などという言葉が出るなんて。
少し、驚いた。
「そ、その、もちろん妹尾さんには悪いことしちゃったけど・・・、でも、まあ、彼女の業務を邪魔したとか、・・・い、いや邪魔はしたけど、そのせいで実害が出たとか、あるいは彼女の心を傷つけたとか、そ、そういうわけじゃなかったんじゃないかな。もちろん、言い訳だけど・・・」
「う、ん・・・」
「・・・いや、それでいえば俺だって、軽率、だったよ。・・・ぜ、全然そういうの、さっきは何も考えてなくて、社内なのに、その」
「なんか、もしかして・・・」
僕の言葉を遮って、黒井は「俺、わがままだったかもしれない」と、本当に人生で初めてそのことに思い当たった、という声を出した。
・・・・・・・・・・・・・・
JRのホームで、ひっきりなしに入っては出ていく電車と、あっちからこっちから到着と発車のメロディー。黒井は人混みを避けて一番端まで歩き、いったん止まった。
ガヤガヤとした喧騒の中で、少しの、沈黙。
黒井は妹尾さんのことを気にして、もちろんそれは僕だって申し訳なく思うけど・・・でも、あんな風に明るく「何も見てないよ!」と言ってくれたってことは、別に怒ったり傷ついたりはしてなくて、つまりは大丈夫ってことじゃないのか?突然泣き出したとかなら謝らなきゃと思うけど、そこまで深刻に「悪いことをした」「わがままだった」と悩むところなんだろうか?
・・・。
・・・まあ、相手の喜怒哀楽を理屈で計算して、それでこちらの行動指針を決めようというのは、僕の理屈システムによる人間関係の割り切り方だ。そうやって今も妹尾さんを何かの枠にはめて、安心しようとしている。
しかし黒井に対してはようやく、理屈をはさまず感情でやり取りできるようになってきたと思う。だからさっきだって、決して及第点ではないのに「頑張った」と褒められて、それで嬉しくてそのままキスをしてしまったんだし・・・。
でも、僕が感情で接することができるのはまだ黒井だけで、社会に対しては、理屈が必要だ。
その理屈によれば、妹尾さんのことをそこまで気に病まなくてもいいと思うんだけど、・・・クロは、本当のところどう思っているんだろう。
・・・そういえば、黒井はいつも僕の理屈による推測をあっさり超えてくる相手だったっけ。
思わず苦笑したら「なんだよ」と、少し緩んだ声。
「何でもないよ。それで、『わがままだった』って・・・?」
「うん、なんかさ、よくわかんないんだけど、急に、思ったんだよ。俺って、一人分しか考えてこなかったって」
「・・・一人分?」
「ほら、俺、今まで誰かと付き合ったこともないし、・・・勝手に居候されたって、別に、来ようが、出ていこうが、俺からどうこうしたいとか、なかったしさ。はは、夜中に来たから追い出せなかったけど、夜中に出てくのは、引き留めなかった」
「・・・それ、って、演劇部の時の、同棲してたっていう」
「うん。一緒に住んでた、っていうか、・・・同じ部屋に居たっていうか」
「・・・」
「なんか、『俺のせいにして』ってのが、たぶん、間違ってた。『お前のせい』にするか、『俺のせい』でやるか、どっちかだとしか、思えてなかった。それって結局一人分ってことでさ、だからさっきだって俺一人で妹尾さんに何か言おうと思ったのに、お前も来ちゃうし、そんで妹尾さんも俺たち二人分気ぃ遣ってくれるし、急に、何か、・・・持て余した、っていうか」
「・・・うん」
「だから、俺はいつも俺一人分のことしか考えてなかったし、それに・・・今も考えられない」
「・・・う、ん」
「お前と二人分、って、・・・俺、できないのかも」
・・・。
・・・その意味はよく分からないまま、心臓が、少し痛くなった。
意味もなく、後頭部をガリガリと掻く。
何だ、これってもしかして。
・・・別れのせりふ?
まさか、おかしいな、こういうの、僕たちには無縁なんだと思ってた。
両想いにはなったけど、<単なる恋人>じゃない、なんて、勝手に・・・。
ふいに、あのファーストキッチンのカップルの声が頭にこだまする。「こういうの、話しておいた方がいいと思って」「急に異性にハグなんて、下心あると思われるよ?」「・・・それなら俺も別の予定入れとくわ」「待って、それは待って、待って!」・・・。
・・・束縛も、異性にハグも、してないのに。
・・・きちんと話し合って、二人で、決めたのに。
だめだ、あの二人みたいに、何事もなかったかのように世間話なんて、僕には出来そうもない・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「だから、お願い」・・・と言われて。
「・・・別れたいってこと?」なんて、人生で発したこともない修羅場ワードが飛び出しそうになり、自分に驚くことで感情を抑えた。
「・・・お、お願いって、何?」
「俺が、考えられない分・・・お前が、考えて」
「・・・どういう、こと?」
「その、俺たちが会社で、どうしたらいいのか・・・『お前のせい』でも『俺のせい』でもない、二人分の、やり方。今の俺には、わかんない、から」
気がつくと、黒井の手も、声も、震えていた。
自分一人分しか見れてないのは、僕の方だ。
「・・・」
「やっぱ、俺、お前のこと・・・気持ち、隠せないし、さっきだって、お前が頑張ってミーティング終わったとこのに、帰ってからとか無理で・・・」
「・・・わ、分かった」
「・・・ねこ」
「俺が考えるよ、うん、『俺のせい』『お前のせい』はきっと不自然だったんだ。うまくいかないって分かったんだから、変えていこう」
「・・・うん」
「俺だってお前と一緒に生きていきたいんだよ。別の会社でとかもう言わないし、<二人分>のこと、ちゃんと考える。・・・もちろん先に俺が考えるだけで、きちんと話して、お前も納得する形で」
「うん」
「今日のところは、とにかく、後で妹尾さんにちゃんと謝るのか、これ以上は逆に迷惑なのか、謝るなら何て言うべきか、それだけ、考えとく」
「・・・うん」
「だから、泣くな」
「・・・」
僕は黒井の手を取って、両手でぎゅっと握り、そこにハンカチを持たせた。
クロは「泣いてないよ・・・」と言いながら涙を拭いて、笑った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
心ここにあらずという感じで最低限の仕事だけ済ませつつ、夕方。
黒井と何通か長いメールをやり取りし、結局、受付の業務が終わる18時ごろ、妹尾さんにひとこと謝りに行くことにした。
それにあたって考えた僕の設定は、「さっきはミーティングが終わって僕が感極まって泣いてしまい、二人で抱き合っていただけ」というもの。キスのことだけいったんなかったことにして、あくまで僕が泣き顔を見られるのが恥ずかしかったということで、その後受付で「何も見てないよ!」「妹尾さん、見てないって」のやり取りになった・・・。
まあ、ちょっと苦しいだろうけど、でもわざわざ僕たちの関係を正直に伝えるのが正解かといえば、そうとも限らないと思う。バラしてはいけないというプレッシャーにもなるだろうし、<男同士で付き合っている>だの<キス>だの生々しい情報をあえて明かす必要もない。しかしやっぱり無言というのも気持ち悪いだろうから、「僕たちはこう思ってほしいです」という着地点を言っておけば、完全なモヤモヤにはならないんじゃないかと。
そして、それでももし「二人はデキてるの?」と訊かれたら、どうするか。
僕の答えは、あくまで「親友」。
これは妹尾さんだけじゃなく、新人やその他みんなに対しても、会社での僕たちの立ち位置は<親友>。
今後、社内でキスは厳禁にすることにして、でもそれ以外の腕や背中に触れるなどのスキンシップはあくまで<親友>の範囲で、変にやめたりしない。元々、両想いになる前の方が多かったくらいなんだし、これでからかわれたり<そっちの気>と言われたとしても、<親友>で通す。
今日はとにかく妹尾さんのことだけと思って考えた<親友>という答えだけど、そのシンプルさは案外強くて、二人ともこれを今後の基本方針にすることで納得した。
今回だけは口裏を合わせるみたいになっちゃうけど、これからは基本だけしっかり押さえることで、お互い別のところで何をしても矛盾が出なくなるようにしていく。
今のところ、黒井が新人に<付き合っている人がいる宣言>をして、僕もその相手を知っていると言ってしまったことだけが課題だけど、宣言は女の子たちを諦めさせるための嘘であり、僕も親友として話を合わせていた・・・というのが落としどころだろう。
こうして僕たちは、何だか久しぶりに親友同士として、受付スペースへと向かった。
地下通路を、めずらしく早足で歩く黒井。
怒っているわけじゃなさそうだけど、動揺、していた。
元々、誰かに見られてどうしようと騒ぎ立てるのが僕で、「だから?」と悠長に構えているのが黒井・・・だったはずなのに、今は逆だ。
僕が落ち着いているのは、見られたといっても相手は受付という独立業務の妹尾さん一人で、その反応も「びっくりした」以上のものはなさそうなこと、そして、黒井が抱き合っていた相手が僕ではない誰かに設定されてしまうという事態も回避できたからだろう。キスなんて見られたらもう終わりだというイメージと、特に何事も起こらない現在とのギャップで、「なーんだ」とさえ思ってしまいそうな自分もいる。
そうしてやや気持ちが大きくなっている僕と対照的に、やや歩調を落として「・・・あのさ」と硬い声。
「うん?」
「俺、・・・その」
「うん」
「・・・妹尾さんに、悪いことした」
「・・・」
「妹尾さんは悪くないのに、俺、・・・困らせた」
もちろん、確かに妹尾さんは困っていた。でも、黒井だったら「むしろ面白かったんじゃない?」とか何とか言いそうだと思ったけど・・・。
「それは、まあそうだけど」
「何か、こんな風なの、俺、考えてなかった。その、『俺のせいにして』って言ったけどさ、それって、何ていうか、批判っていうか、批難?・・・そういうの、俺のせいでいいって思ったけど・・・」
「・・・うん」
「こういうの、違うよ。嫌なやつに言われたら何でも言い返すけど、・・・こういうのじゃない。俺が、軽率だった」
・・・黒井の口から「軽率」などという言葉が出るなんて。
少し、驚いた。
「そ、その、もちろん妹尾さんには悪いことしちゃったけど・・・、でも、まあ、彼女の業務を邪魔したとか、・・・い、いや邪魔はしたけど、そのせいで実害が出たとか、あるいは彼女の心を傷つけたとか、そ、そういうわけじゃなかったんじゃないかな。もちろん、言い訳だけど・・・」
「う、ん・・・」
「・・・いや、それでいえば俺だって、軽率、だったよ。・・・ぜ、全然そういうの、さっきは何も考えてなくて、社内なのに、その」
「なんか、もしかして・・・」
僕の言葉を遮って、黒井は「俺、わがままだったかもしれない」と、本当に人生で初めてそのことに思い当たった、という声を出した。
・・・・・・・・・・・・・・
JRのホームで、ひっきりなしに入っては出ていく電車と、あっちからこっちから到着と発車のメロディー。黒井は人混みを避けて一番端まで歩き、いったん止まった。
ガヤガヤとした喧騒の中で、少しの、沈黙。
黒井は妹尾さんのことを気にして、もちろんそれは僕だって申し訳なく思うけど・・・でも、あんな風に明るく「何も見てないよ!」と言ってくれたってことは、別に怒ったり傷ついたりはしてなくて、つまりは大丈夫ってことじゃないのか?突然泣き出したとかなら謝らなきゃと思うけど、そこまで深刻に「悪いことをした」「わがままだった」と悩むところなんだろうか?
・・・。
・・・まあ、相手の喜怒哀楽を理屈で計算して、それでこちらの行動指針を決めようというのは、僕の理屈システムによる人間関係の割り切り方だ。そうやって今も妹尾さんを何かの枠にはめて、安心しようとしている。
しかし黒井に対してはようやく、理屈をはさまず感情でやり取りできるようになってきたと思う。だからさっきだって、決して及第点ではないのに「頑張った」と褒められて、それで嬉しくてそのままキスをしてしまったんだし・・・。
でも、僕が感情で接することができるのはまだ黒井だけで、社会に対しては、理屈が必要だ。
その理屈によれば、妹尾さんのことをそこまで気に病まなくてもいいと思うんだけど、・・・クロは、本当のところどう思っているんだろう。
・・・そういえば、黒井はいつも僕の理屈による推測をあっさり超えてくる相手だったっけ。
思わず苦笑したら「なんだよ」と、少し緩んだ声。
「何でもないよ。それで、『わがままだった』って・・・?」
「うん、なんかさ、よくわかんないんだけど、急に、思ったんだよ。俺って、一人分しか考えてこなかったって」
「・・・一人分?」
「ほら、俺、今まで誰かと付き合ったこともないし、・・・勝手に居候されたって、別に、来ようが、出ていこうが、俺からどうこうしたいとか、なかったしさ。はは、夜中に来たから追い出せなかったけど、夜中に出てくのは、引き留めなかった」
「・・・それ、って、演劇部の時の、同棲してたっていう」
「うん。一緒に住んでた、っていうか、・・・同じ部屋に居たっていうか」
「・・・」
「なんか、『俺のせいにして』ってのが、たぶん、間違ってた。『お前のせい』にするか、『俺のせい』でやるか、どっちかだとしか、思えてなかった。それって結局一人分ってことでさ、だからさっきだって俺一人で妹尾さんに何か言おうと思ったのに、お前も来ちゃうし、そんで妹尾さんも俺たち二人分気ぃ遣ってくれるし、急に、何か、・・・持て余した、っていうか」
「・・・うん」
「だから、俺はいつも俺一人分のことしか考えてなかったし、それに・・・今も考えられない」
「・・・う、ん」
「お前と二人分、って、・・・俺、できないのかも」
・・・。
・・・その意味はよく分からないまま、心臓が、少し痛くなった。
意味もなく、後頭部をガリガリと掻く。
何だ、これってもしかして。
・・・別れのせりふ?
まさか、おかしいな、こういうの、僕たちには無縁なんだと思ってた。
両想いにはなったけど、<単なる恋人>じゃない、なんて、勝手に・・・。
ふいに、あのファーストキッチンのカップルの声が頭にこだまする。「こういうの、話しておいた方がいいと思って」「急に異性にハグなんて、下心あると思われるよ?」「・・・それなら俺も別の予定入れとくわ」「待って、それは待って、待って!」・・・。
・・・束縛も、異性にハグも、してないのに。
・・・きちんと話し合って、二人で、決めたのに。
だめだ、あの二人みたいに、何事もなかったかのように世間話なんて、僕には出来そうもない・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「だから、お願い」・・・と言われて。
「・・・別れたいってこと?」なんて、人生で発したこともない修羅場ワードが飛び出しそうになり、自分に驚くことで感情を抑えた。
「・・・お、お願いって、何?」
「俺が、考えられない分・・・お前が、考えて」
「・・・どういう、こと?」
「その、俺たちが会社で、どうしたらいいのか・・・『お前のせい』でも『俺のせい』でもない、二人分の、やり方。今の俺には、わかんない、から」
気がつくと、黒井の手も、声も、震えていた。
自分一人分しか見れてないのは、僕の方だ。
「・・・」
「やっぱ、俺、お前のこと・・・気持ち、隠せないし、さっきだって、お前が頑張ってミーティング終わったとこのに、帰ってからとか無理で・・・」
「・・・わ、分かった」
「・・・ねこ」
「俺が考えるよ、うん、『俺のせい』『お前のせい』はきっと不自然だったんだ。うまくいかないって分かったんだから、変えていこう」
「・・・うん」
「俺だってお前と一緒に生きていきたいんだよ。別の会社でとかもう言わないし、<二人分>のこと、ちゃんと考える。・・・もちろん先に俺が考えるだけで、きちんと話して、お前も納得する形で」
「うん」
「今日のところは、とにかく、後で妹尾さんにちゃんと謝るのか、これ以上は逆に迷惑なのか、謝るなら何て言うべきか、それだけ、考えとく」
「・・・うん」
「だから、泣くな」
「・・・」
僕は黒井の手を取って、両手でぎゅっと握り、そこにハンカチを持たせた。
クロは「泣いてないよ・・・」と言いながら涙を拭いて、笑った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
心ここにあらずという感じで最低限の仕事だけ済ませつつ、夕方。
黒井と何通か長いメールをやり取りし、結局、受付の業務が終わる18時ごろ、妹尾さんにひとこと謝りに行くことにした。
それにあたって考えた僕の設定は、「さっきはミーティングが終わって僕が感極まって泣いてしまい、二人で抱き合っていただけ」というもの。キスのことだけいったんなかったことにして、あくまで僕が泣き顔を見られるのが恥ずかしかったということで、その後受付で「何も見てないよ!」「妹尾さん、見てないって」のやり取りになった・・・。
まあ、ちょっと苦しいだろうけど、でもわざわざ僕たちの関係を正直に伝えるのが正解かといえば、そうとも限らないと思う。バラしてはいけないというプレッシャーにもなるだろうし、<男同士で付き合っている>だの<キス>だの生々しい情報をあえて明かす必要もない。しかしやっぱり無言というのも気持ち悪いだろうから、「僕たちはこう思ってほしいです」という着地点を言っておけば、完全なモヤモヤにはならないんじゃないかと。
そして、それでももし「二人はデキてるの?」と訊かれたら、どうするか。
僕の答えは、あくまで「親友」。
これは妹尾さんだけじゃなく、新人やその他みんなに対しても、会社での僕たちの立ち位置は<親友>。
今後、社内でキスは厳禁にすることにして、でもそれ以外の腕や背中に触れるなどのスキンシップはあくまで<親友>の範囲で、変にやめたりしない。元々、両想いになる前の方が多かったくらいなんだし、これでからかわれたり<そっちの気>と言われたとしても、<親友>で通す。
今日はとにかく妹尾さんのことだけと思って考えた<親友>という答えだけど、そのシンプルさは案外強くて、二人ともこれを今後の基本方針にすることで納得した。
今回だけは口裏を合わせるみたいになっちゃうけど、これからは基本だけしっかり押さえることで、お互い別のところで何をしても矛盾が出なくなるようにしていく。
今のところ、黒井が新人に<付き合っている人がいる宣言>をして、僕もその相手を知っていると言ってしまったことだけが課題だけど、宣言は女の子たちを諦めさせるための嘘であり、僕も親友として話を合わせていた・・・というのが落としどころだろう。
こうして僕たちは、何だか久しぶりに親友同士として、受付スペースへと向かった。
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