上 下
75 / 93

第75話 復活

しおりを挟む
 俺の作戦はこうだ。

 フルーレティに≪リプレイス≫をかけ、パラメータを交換する。
 レベル400相当といわれるフルーレティの力ならばこの程度の氷は簡単に破壊できるはずだ。

「そうですね、その手でいきましょうか。でもくれぐれも慎重にお願いします」

 ≪リプレイス≫を使用した瞬間、氷の中のフルーレティのパラメータはレベル1の魔導士レベルになる。
 力の加減を間違えて中にいるフルーレティまで破壊してしまわないように、マリーニャが釘を刺す。

「それじゃあ。いくぞ」

 俺は精神を集中し魔力の詠唱を始める。

「待って、誰か来る!」

「えっ!?」

 俺はシズハナの声で詠唱を中断し後ろを振り向くと、そこには予期せぬ人物の姿があった。

「やっと見つけましたよ。これが伝説の悪魔、フルーレティですか」

「ホリックさん、どうしてここに!?」

 そこには王都のギルド本部で俺達を見送って別れたはずのホリックさんの姿があった。

「以前からあなた達の行動に引っかかるものを感じていましてね。マークしていて正解でした」

「それで俺達の後をつけてきたと?」

「ええ、シズハナさんの探知能力を掻い潜るのは大変でしたよ。フルーレティこんなものを生かしておくと後の世の災いになります。早く殺してしまわないといけません」

「待ってください、フルーレティは私の───」

 マリーニャがフルーレティを守るように前に出て、自身の秘密を打ち明ける。

 ホリックさんとて横暴な人間ではない。
 マリーニャの告白に耳を傾けるが、しかしそれでもその主張は変わらない

「だからといってこのまま放置する訳にはいきません。フルーレティは存在するだけで世界の脅威になります。チェインさん、≪リプレイス≫を使えるあなたなら簡単に始末できますよね」

 ホリックさんもあくまでこの世界の事を考えた上での決断をしている。
 彼女の言う事にも一理ある。

 俺は目を閉じて深呼吸をし、少し考えた後に答える。

「分かりました。俺が責任を持ってフルーレティを始末します」

「チェイン、何を言うんですか!?」

 悲痛な声を上げるマリーニャを手で制止し、続ける。

「但し───フルーレティが本当にこの世界の脅威になると確証されたらの話です」

「そう来ましたか。……いいでしょう。しかしどうやってそれを確かめるつもりですか」

「本人に確認をすればいいでしょう。どの道俺達はフルーレティを目覚めさせるつもりでしたし」

「分かりました。やってみて下さい」

 俺は氷漬けのフルーレティに正対し、≪リプレイス≫を放つ。
 今回はパラメータだけでなく『能力』の交換も追加している。
 フルーレティの力と能力が俺の中に入ってくると、まずはどのような能力があるのかを把握するところから始める。

 極限氷結魔法≪絶対零度≫。
 これがフルーレティ自身を覆う氷の正体か。

 極限電撃魔法≪轟天雷≫。
 今回電撃は役に立ちそうにないな。

 極限爆砕魔法≪混世魔王≫。
 こんなものを使ったらフルーレティまでバラバラになってしまう。

 肉体変化魔法≪摸着天≫。
 変化の術ってやつか。今は使いどころがないな。

 どれも見た事も聞いた事もない魔法ばかりだ。

 極限炎上魔法≪滅却業炎≫。
 この魔法なら氷を解凍できるかもしれない。

「危ないから皆は後ろに下がってて」

 俺は皆を安全な場所に移動させると、氷の塊に向けて魔力を解き放つ。

「紅蓮の炎よ眼前の氷を消し去れ、≪滅却業炎≫!」

 その瞬間、俺の杖の先から放出された超高温の熱線が氷に向けて放たれる。

「あ、熱っ!」

 一瞬で洞穴の温度が跳ね上がる。

「なんですのこの異常な熱さは?」

 ルッテが咄嗟に氷結の杖フローズンロッドで周りの空気を冷却しなければ全員焼け死んでいたかもしれない。
 たった一発でそれ程の熱量だ。

 確かにこんな力を持つフルーレティを野放しにしたら世界の危機になる。
 ホリックさんの懸念も頷ける。

 フルーレティを覆っていた氷は一瞬にして蒸発していた。
 あとはフルーレティが目覚めるのを待つだけだ。

 俺は万が一に備えてマジックポーションを飲み、魔力を回復させる。

 マリーニャが横たわるフルーレティに近付く。

「もうすぐ目覚める……」

 フルーレティの気配の変化を察知したシズハナが俺達に注意を促す。

「……」

 フルーレティはゆっくりと目を開き周囲を見回す。
 辺りの空気が張り詰める。

「…………」

「私達を攻撃する意思はなさそうですね」

 まずは一安心だ。

 フルーレティはマリーニャに視線を定める。

「…………」

「マリーニャに何か話しかけているようですが、私の知っている世界中のどの言語とも違いますね。これでは何とも……」

「いえホリックさん、私には分かります。…………αΞ∑θβμτ」

 フルーレティの謎の言葉に反応して、マリーニャも同じ言葉を話し出した。

「……ιΩλρΖ」

 フルーレティはマリーニャの言葉に頷くと、身体が光り出してその形が変わっていく。
 やがてフルーレティは人の姿に変化した。
 どことなくマリーニャの父、エーヴィルの面影がある。

「この姿の方が話しやすいだろう、と言っています」

「マリーニャ、今の言語は一体?」

「かつて私達の部族が話していた言語です。ギルガリア王国に併合されてからは言語が統一されたので普段は使いませんが」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

処理中です...