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第53話 然るべき報いを2
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魔王軍が去ってから三日後、王都の大通りで勝利のパレードが行われた。
先頭の馬車には英雄ヘンシェルとそのパーティーが乗り、民衆に対して手を振っている。
事情を知らない民衆は皆ヘンシェルのパーティーが魔王軍を撃退したものだと思い込み、母国の勝利に酔いしれている。
ヘンシェルとしてもこのような茶番に付き合わされるのは気乗りがしない様子だったが、国王ペルセウス直々の頼みもあってしぶしぶ承諾をしていた。
やがてパレードは王宮まで進み、民衆たちもそれを追いかけるように王宮の前に集まってきた。
頃合いを見て国王ペルセウスが王宮から民衆の前に顔を出した。
そして俺はその横に立ち、ペルセウスと同じ視点から民衆たちを見下ろしていた。
俺の姿を見た民衆たちがざわつきだす。
民衆の中にはまだ俺の事を犯罪者だと思っている者も大勢いるからだ。
「おい、なんでルシフェルトが陛下の横にいるんだ?」
「何だお前まだ知らなかったのかよ。あいつ許されたらしいぜ」
「静粛に!」
「これより国王陛下がお前たちにお言葉を授けられる!」
兵士たちによって民衆が静まった後、国王ペルセウスは民衆たちに向けて切り出した。
「諸君、此度の魔王軍との戦いの勝利はこのルシフェルトの功績によるものが大きい。彼の者は【破壊の後の創造】という禍々しいスキルを授けられた事でSランクの危険人物として国外追放を言い渡されていたが、それは誤解であるという事が分かった。【破壊の後の創造】は決して皆が想像するような恐ろしいスキルではなく、その手で破壊した物を創り直すという物であった。よって彼に下された国外追放の刑は取り消し、今まで通り王国の臣下として余の為に尽くす事を許すものとする」
「そうだったのか……裁判長の奴ちゃんと調べもせずにルシフェルトを裁きやがったのか」
「教会の神父もそうだ。あいつが大袈裟に騒ぐからこんなことになったんだ」
「でもやっぱりこれは紛らわしい名前のスキルを手にしたルシフェルトにも責任があるんじゃないか? あんな名前のスキルを持っていたら疑われても仕方がない」
「そうだよな、あいつ黒魔法使ってたし俺でも疑うわ」
「でももう済んだ事だ。許してやれよ」
真相を知った民衆達は思い思いに持論をぶつけ合う。
しかし眼下に集まった民衆達を見下ろしている俺はひとり違う事を考えていた。
今王都内のほぼ全ての民衆がこの場に集まっている。
俺はこの機会をずっと待っていたんだ。
俺は民衆たちに向けて黒魔力を込めた手を翳した。
「うん? ルシフェルト、何をしているのだ?」
「……破壊魔法、デストロイボール!」
あまりにも一瞬だったので誰ひとり俺を止める事は出来なかった。
俺の手から放たれた漆黒の球は王宮の周りに集まった民衆達を一瞬にして消し飛ばした。
王宮の周りには爆煙が濛々と立ち込めている。
王宮内にいる全ての者が状況を理解するのに少しの時間を有した。
いち早く正気に戻ったのは宰相だ。
「ルシフェルト、貴様何という事を! やはり貴様は悪魔の子だったか!」
「陛下を守れ!」
兵士たちは二手に分かれて一方が国王ペルセウスを守り、もう一方が俺を取り囲む。
ここへきて国王ペルセウスは漸く事態を飲み込んだ。
「ルシフェルト! 民衆たちを王宮内に集めさせたのは冤罪を解く為ではなく皆殺しにするのが目的であったか! 少しでもそなたを信じた余が愚かであったわ! 者ども、今すぐこの者を殺せ!」
「ははっ!」
兵士たちは武器を手に俺に向かってくる。
その時俺を守るようにひとつの影が飛び込んできた。
「まったく、あんたも顔に似合わずにえげつない事をしますわね」
「なんだこの女は……うぎゃっ」
俺の前に現れたロリエは自慢の怪力で次々と兵士たちを投げ飛ばしていく。
俺はその後ろからペルセウスを守っている兵士たちに射的感覚で黒魔法をぶつけてひとりずつ消し飛ばしていく。
ついでにさっきからむかつく態度の宰相も消し飛ばしてあげた。
「ええいそなたたちでは相手にならん! 早くヘンシェルを呼べ!」
「ははっ、直ちに!」
ペルセウスの命を受けて兵士の一人が階段を駆け下りていった。
ペルセウスは勝ち誇った顔で言った。
「ルシフェルト、もう逃げられんぞ。今の内に自分が犯した罪の数々をシヴァン神に懺悔するといい」
俺とロリエの二人がかりならばヘンシェルさんのパーティが相手でも後れを取る事はないが、俺の個人的な復讐にあの人たちを巻き込みたくはない。
もう充分暴れて気は晴れた。
そろそろ引き揚げ時だ。
俺はピーっと口笛を鳴らすと王宮の付近に隠れていたグリフォンが俺の前に飛んできた。
「ロリエ、そろそろ撤収しようか」
「そうですわね。それでは人間の皆さんごきげんよう」
俺とロリエを乗せたグリフォンが王宮から飛び立つのと入れ違いになる形でヘンシェルたちがペルセウスの前にやってきた。
「遅いぞヘンシェル。見ろこの惨状を。今まで何をしておった!」
ヘンシェルは喚き散らすペルセウスとは対照的に落ちついた表情で答えた。
「ええ、何が起きたのかは理解しています。陛下はルシフェルトへの対応を誤られましたね。不当に罪を着せられ、理不尽にその命を奪われかけた者に対する態度ではありませんでした。ルシフェルトの怒りは当然のものです。皆にとってもいい薬になったのではありませんか」
先頭の馬車には英雄ヘンシェルとそのパーティーが乗り、民衆に対して手を振っている。
事情を知らない民衆は皆ヘンシェルのパーティーが魔王軍を撃退したものだと思い込み、母国の勝利に酔いしれている。
ヘンシェルとしてもこのような茶番に付き合わされるのは気乗りがしない様子だったが、国王ペルセウス直々の頼みもあってしぶしぶ承諾をしていた。
やがてパレードは王宮まで進み、民衆たちもそれを追いかけるように王宮の前に集まってきた。
頃合いを見て国王ペルセウスが王宮から民衆の前に顔を出した。
そして俺はその横に立ち、ペルセウスと同じ視点から民衆たちを見下ろしていた。
俺の姿を見た民衆たちがざわつきだす。
民衆の中にはまだ俺の事を犯罪者だと思っている者も大勢いるからだ。
「おい、なんでルシフェルトが陛下の横にいるんだ?」
「何だお前まだ知らなかったのかよ。あいつ許されたらしいぜ」
「静粛に!」
「これより国王陛下がお前たちにお言葉を授けられる!」
兵士たちによって民衆が静まった後、国王ペルセウスは民衆たちに向けて切り出した。
「諸君、此度の魔王軍との戦いの勝利はこのルシフェルトの功績によるものが大きい。彼の者は【破壊の後の創造】という禍々しいスキルを授けられた事でSランクの危険人物として国外追放を言い渡されていたが、それは誤解であるという事が分かった。【破壊の後の創造】は決して皆が想像するような恐ろしいスキルではなく、その手で破壊した物を創り直すという物であった。よって彼に下された国外追放の刑は取り消し、今まで通り王国の臣下として余の為に尽くす事を許すものとする」
「そうだったのか……裁判長の奴ちゃんと調べもせずにルシフェルトを裁きやがったのか」
「教会の神父もそうだ。あいつが大袈裟に騒ぐからこんなことになったんだ」
「でもやっぱりこれは紛らわしい名前のスキルを手にしたルシフェルトにも責任があるんじゃないか? あんな名前のスキルを持っていたら疑われても仕方がない」
「そうだよな、あいつ黒魔法使ってたし俺でも疑うわ」
「でももう済んだ事だ。許してやれよ」
真相を知った民衆達は思い思いに持論をぶつけ合う。
しかし眼下に集まった民衆達を見下ろしている俺はひとり違う事を考えていた。
今王都内のほぼ全ての民衆がこの場に集まっている。
俺はこの機会をずっと待っていたんだ。
俺は民衆たちに向けて黒魔力を込めた手を翳した。
「うん? ルシフェルト、何をしているのだ?」
「……破壊魔法、デストロイボール!」
あまりにも一瞬だったので誰ひとり俺を止める事は出来なかった。
俺の手から放たれた漆黒の球は王宮の周りに集まった民衆達を一瞬にして消し飛ばした。
王宮の周りには爆煙が濛々と立ち込めている。
王宮内にいる全ての者が状況を理解するのに少しの時間を有した。
いち早く正気に戻ったのは宰相だ。
「ルシフェルト、貴様何という事を! やはり貴様は悪魔の子だったか!」
「陛下を守れ!」
兵士たちは二手に分かれて一方が国王ペルセウスを守り、もう一方が俺を取り囲む。
ここへきて国王ペルセウスは漸く事態を飲み込んだ。
「ルシフェルト! 民衆たちを王宮内に集めさせたのは冤罪を解く為ではなく皆殺しにするのが目的であったか! 少しでもそなたを信じた余が愚かであったわ! 者ども、今すぐこの者を殺せ!」
「ははっ!」
兵士たちは武器を手に俺に向かってくる。
その時俺を守るようにひとつの影が飛び込んできた。
「まったく、あんたも顔に似合わずにえげつない事をしますわね」
「なんだこの女は……うぎゃっ」
俺の前に現れたロリエは自慢の怪力で次々と兵士たちを投げ飛ばしていく。
俺はその後ろからペルセウスを守っている兵士たちに射的感覚で黒魔法をぶつけてひとりずつ消し飛ばしていく。
ついでにさっきからむかつく態度の宰相も消し飛ばしてあげた。
「ええいそなたたちでは相手にならん! 早くヘンシェルを呼べ!」
「ははっ、直ちに!」
ペルセウスの命を受けて兵士の一人が階段を駆け下りていった。
ペルセウスは勝ち誇った顔で言った。
「ルシフェルト、もう逃げられんぞ。今の内に自分が犯した罪の数々をシヴァン神に懺悔するといい」
俺とロリエの二人がかりならばヘンシェルさんのパーティが相手でも後れを取る事はないが、俺の個人的な復讐にあの人たちを巻き込みたくはない。
もう充分暴れて気は晴れた。
そろそろ引き揚げ時だ。
俺はピーっと口笛を鳴らすと王宮の付近に隠れていたグリフォンが俺の前に飛んできた。
「ロリエ、そろそろ撤収しようか」
「そうですわね。それでは人間の皆さんごきげんよう」
俺とロリエを乗せたグリフォンが王宮から飛び立つのと入れ違いになる形でヘンシェルたちがペルセウスの前にやってきた。
「遅いぞヘンシェル。見ろこの惨状を。今まで何をしておった!」
ヘンシェルは喚き散らすペルセウスとは対照的に落ちついた表情で答えた。
「ええ、何が起きたのかは理解しています。陛下はルシフェルトへの対応を誤られましたね。不当に罪を着せられ、理不尽にその命を奪われかけた者に対する態度ではありませんでした。ルシフェルトの怒りは当然のものです。皆にとってもいい薬になったのではありませんか」
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