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第42話 呪われし者たち2

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 魔王アデプトの身体は俺の黒魔法の一撃で粉々に吹き飛ばされていた。
 兵士たちのどよめく声が響く。

「ま……魔王様がやられた!」

「おのれルシフェルト、魔王様を裏切ったな!」

「誰かこの裏切り者を殺せ!」

「よし、お前がいけ!」

「い……いや、お前がいけよ!」

 しかし魔王アデプトを一撃で吹き飛ばした俺の魔力に恐れをなした兵士たちは誰ひとりとして俺に向かってこなかった。

 そもそも俺は最初から魔王の傘下にはいないので裏切り者呼ばわりされる筋合いは全くないのだけど。

 うろたえる兵士たちとは対照的にロリエが落ち着いた様子で俺に問いかけた。

「それでルシフェルト、どうするのそれ? 私、今更アデプトに奪われていた黒魔力が戻ってきても困りますわ」

「そうだね、今の一撃はお仕置きという事でひとつ」

 俺は【破壊の後の創造】スキルを使って即座に魔王を元の姿に戻してあげた。

「おお、魔王様よくぞご無事で!」

「さすがは魔王様だ、ルシフェルトなんかの魔法では傷ひとつ付けられませんでしたね」

「お? おう……」

 魔王が復活した事で【破壊の後の創造】の効果を知らない兵士たちは魔王が吹き飛ばされたのは見間違いで俺の黒魔法を耐えきったものだと勘違いをしたが、俺の黒魔法の威力と【破壊の後の創造】スキルの効果を実際に味わったアデプト本人は完全に自信を喪失していた。

 元々ロリエに手も足も出なかった男だ。
 自分より強い存在が目の前に二人も並んでいる以上無理はない。

 しかし俺は別に魔王にとって代わりたい訳ではないので、アデプトにはこのまま魔王としての振舞いを続けて貰うようそっと耳打ちをした。

「でも村を消し飛ばすような馬鹿な真似は止めて下さい」

「ぐう……確かに呪われた村ごと消し飛ばすというのは考えなしだった。しかしだとしたらこの村をどうするというのだ? 放置する訳にもいくまい」

「いえ、あなたのお陰でいい策が思いつきました」

 俺はゆっくりとノースバウムの村の前に歩くと、村の中央に向けて手を翳して魔力を込めた。
 さっきのアデプトと同じ動作である。
 思わずアデプトも俺に問いかけた。

「いったい何をするつもりだルシフェルト?」

「まずこの村を吹き飛ばします」

「は? 貴様は今それをしようとした俺を止めたではないか」

「俺とあなたでは同じ事をしても結果が違います。いいから見ていて下さい。……崩壊魔法ブレイクダウン!」



 ドオオオーーン!



 俺が放った黒魔法によってノースバウムの村は一瞬でがれきの山となった。

 そして次の瞬間村全体が光に包まれ、光が収まった時には元通りになっていた。

 俺は慎重に村の中に足を踏み入れた。
 さっきまでの嫌な気配はもう感じない。

「おーい、皆無事か?」

「う……うーん……」

「あれ……ルシフェルトお兄ちゃんがいる。ロリエ様も」

「いったい何があったんですかルシフェルトさん?」

「良かった、みんな無事なようだね」

 村人たちに掛けられた呪いはすっかり解けていた。
 俺は呪いごと村を破壊した後、【破壊の後の創造】スキルで呪い以外の物を元通りに創り直したのである。

 俺は村人たちにこの村全体が呪われていた事を伝えた。

「そんな事が……皆様にはご迷惑をおかけしました。何とお詫びを申し上げればよいか」

「いいさ、悪いのはこの村に呪いを掛けた奴だ。それよりも呪いを掛けた者に心当たりはありませんか?」

「そうですね……そういえば、ヘンシェルという人間の冒険者パーティーがこの村を通りがかったんです」

「ええ、ヘンシェルさんたちならロリックス城まで俺を訪ねてきましたよ。でも彼らは関係ないと思う」

 確かにヘンシェルさんのパーティーにはハーフエルフの呪術師がいたけど、彼が村に呪いを掛けたとは考えられない。

「はい、問題は彼らが去った少し後です。急にこの村を守っている魔獣達の声が聞こえなくなったんです」

 そういえばさっきから魔獣の姿が見えないな。
 魔獣たちも呪術によってやられてしまったと考えるのが妥当か。

「それから目眩がして意識が遠くなり……気が付いたらルシフェルトさんたちが目の前にいたと言う訳です」

「そうですか……」

 つまり確かなのはこの村が呪われたのはヘンシェルさんが去った後という事だけだ。

 まあ呪術である以上エルフたちの仕業という事は想像に難くないけど、俺の【破壊の後の創造】スキルの前では奴らの呪術も児戯に等しかったな。

「魔王様、エルフの軍勢が来ました!」

 先の様子を見に行っていた魔族の斥候が叫びながら戻ってきた。

 そこに現れたのは異様な軍団だった。

 先頭を進むのは呪術によって操られている数十体の土人形ゴーレムだ。
 そしてゴーレムを盾にするようにその後ろから弓兵部隊が、最後尾にはフードを被った呪術師たちが続く。

 その軍団の中央で兵士たちを指揮しているのは若々しい姿をしたエルフだ。

 魔王アデプトは配下たちを押しのけて前に出てエルフの軍団と対峙した。

「魔界は我ら魔族の領土。土足で踏み入った以上覚悟はできているのだろうな!」

 エルフの青年は臆する様子もなく涼しい顔で応えた。

「その出で立ち魔王アデプト陛下とお見受けした。我が名はバラート。偉大なる我らがエルフの女王シルフィナ様よりこの聖なる森の軍団の長を任されている。以後お見知りおきを」

「能書きはいい、このアデプト様の前に立ちはだかりし事を地獄で後悔するが良い!」

「ふっ、まずはご挨拶をと思いましたが取りつく島もありませんね。その様子だと我々からの贈り物はお気に召さなかったようですね。残念です」

「この村の呪いの事か。姑息な手を使いおって。者どもかかれ! このノースバウムを森のハイエナどもの血で真っ赤に染め上げてやれ」

「ふっ、薄汚れた魔族どもに森の賢者と呼ばれる我らの力を思い知らせてやれ」

 魔王軍からは斧や剣を手にした先鋒隊が、エリフ軍からはゴーレムが前に出て激突した。

 俺はその様子をハラハラしながら眺めていた。

「おいお前たちこんな所で戦うな! 村が巻き込まれる!」


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