ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり

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第40話 開戦

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 ヘンシェルたちがロリックス城を発ってから俺は魔界北部の領主代理として忙しい日々が続いていた。

 統治を行うに当たって特に重要なのは領内のインフラ整備だ。

 魔界は人間の国とは異なり各地に散らばっている村々はそれぞれが独自の勢力となっている。
 その為お互いが協力をして事業を行う事はない。

 俺はそれらの独立勢力を纏める為に各地を駆け回った。

 人間である俺の言う事に従おうとしない村も多くあったが、その度にロリエが力ずくで分からせてあげていた。

 こういう時はとても頼りになる。

 村人たちが俺に従順の意を示すと俺は村内を見回って【破壊の後の創造】スキルによって古くて使い物にならない施設を壊しては創り直す作業を繰り返す。

 俺に従う事が自分たちの利になると分かると最初は人間である俺に対しての敵意を露わにしていた魔族達も徐々に心を許してくれるようになっていった。

 そしてその後はロリックス城から地方の村々への街道を敷き交通の便を良くしていく。

 そんな地道な努力が奏功して領内が安定してきた頃、ふとヘンシェルさんたちの事を思い出した。
 彼らは無事にアガントス王国に戻れただろうか。
 そして俺の冤罪も晴れたのだろうか。

 便りがないのは元気な証拠とはいうものの、結果ぐらい連絡してくれてもいいのに。

「よし、ちょっと様子を見てこよう」

 ヘンシェルさんがアガントス王国へ帰るには途中にあるノースバウムの村を通っているはずだ。
 ハッサムさんたちなら何か知っているかもしれない。

 俺は配下の魔族達に留守番を任せて出かける準備をする。

 そんな時、魔王からの使者と名乗る魔族が血相を変えながら城に駈けこんできた。

「ルシフェルト様はおられるか?」

「ここにいるよ。魔王から使いが来るなんて珍しいね。そんなに息を切らしてどうしたんですか?」

「大変です、エルフと人間たちが手を結んで我らが領土に侵攻してきました!」

「なんだって!? その人間たちというのはどこの国の連中だ?」

「はい、アガントス王国という国の軍隊です」

「そうか、アガントス王国が……って、そんな馬鹿な事があるか!」

 俺は驚きのあまり一瞬思考が停止した。
 確かに昔はアガントス王国と魔界の間で大規模な戦争があったが、ここしばらくはお互い無干渉を貫いて争いなどなかったはずだ
 魔王アデプトにも人間界を侵略する意図はない。

 それにヘンシェルさんがアガントス王国に帰国して俺と魔界の状況を陛下に伝えているはずだ。

 戦争なんて起きる理由がないじゃないか。

「おい、何かの間違いじゃないのか?」

「いえ、間違いありません。アガントス王国軍は魔獣の谷を避け、東方面から侵攻をしています。現在魔界の東部を統治しています魔公爵アシュラム様が応戦していますが多勢に無勢、魔提督アンゴラ様と魔軍師ネジョウ様も援軍に向かっているところです」

「そうですか。じゃあ俺の出る幕はありませんね」

 俺はほっと胸を撫で下ろした。
 俺は魔界北部の領主代理ではあるけど魔王の傘下ではない。
 どんな理由でアガントス王国軍が魔界に侵攻したのかは知らないけど、自分の領内に入ってきたのではないなら俺はこの戦争に関わるつもりはない。

 好きに戦ってくれと思う。

「ルシフェルト様、あなたやロリエ様が魔王様の傘下ではない事は重々承知しておりますからそれについては宜しいのですが、問題はエルフ軍です。奴らは魔獣の森を抜けてそのまま南下を始めました。魔王様は手勢を率いて既に迎撃に向かっています」

「何だって!? それを早く言え!」

 魔獣の森を抜ければすぐノースバウムの村がある。

 エルフたちは恐ろしい呪術を使うと聞く。
 このままエルフたちの進軍を許せばノースバウムの村人たちが間違いなく犠牲になるだろう。

「ロリエ、俺は直ぐにノースバウムへ向かうよ。君はどうする?」

「聞くまでもないですわよ。私もあの村の人達にはお世話になりましたもの。ご一緒しますわ」

「有難うロリエ」

 俺は配下の魔族に城の守りを任せるとグリフォンを呼びロリエと共にその背に跨り、空からノースバウムの村へ急いだ。
 兵士たちを連れていかないのは一刻を争うからだ。

 グリフォンはその大きな翼を羽ばたかせて矢のような速さでノースバウムへ飛ぶ。

 ノースバウム村の直前までやってきた所で眼下に魔族の大軍が見えてきた。
 魔王アデプトとその配下の兵士たちだ。

 まだ前方にはエルフの軍団は見当たらない。
 どうやら間に合ったようだ。

「ルシフェルト、あそこにいるのがアデプトですわ」

 ロリエが指差す方向には頭部に立派な二本の角を生やし、その背には漆黒の翼を持った威風溢れるひとりの魔族の姿が見えた。

「さすがに無視して通り過ぎるのは失礼かな」

 俺はグリフォンの高度を下げて軍団の中央に立つ魔王アデプトの前に降り立った。

「あなたが魔王アデプトですね」

「む、何者だ!? ……げっ、ロリエ……と言う事は貴様がルシフェルトか」

 俺とは初対面であるアデプトは空から降りてきた俺を敵襲と勘違いして一瞬身構えたが、姉であるロリエの顔を見て一瞬怯えた表情を見せた後に俺がルシフェルトであると察した。

「ええ、初めましてと言っておきましょうか。いや、今は挨拶よりもノースバウムの村の事が優先です。まずは村人たちを避難させないと」

「それがな、我が配下の者より村人に呼びかけているのだが返事がないのだ」

 そりゃ魔王自らがこんな大軍を率いてやってきたら村人たちも怯えて閉じこもっちゃうよね。
 俺はそう思って入り口の門の前に立ち、魔王軍に代わって村人たちに呼び掛けた。

「おーい、俺です、ルシフェルトです。門を開けて下さい!」

 ……。

 おかしい。
 返事がない。

 いったい村の中はどうなっているのだろう?




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