ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり

文字の大きさ
上 下
37 / 54

第37話 王国との決別7

しおりを挟む


「そうか。我々は色々と思い違いをしていたようだ。もしかすると今後我々と魔王の間で戦争が始まるかもしれないが、決して貴様たちは巻き込まないと誓おう。その時はどうか静観をしていて欲しい」

「もちろんそのつもりです」

 俺はヘンシェルさんの差し出した手を握った。
 良く分からないけど俺の領地とアガントス王国の間に不可侵同盟が成立したようだ。

 それを見てヘンシェルの仲間たちの緊張も解け気持ちが緩んだのが伝わってきた。

 まず戦士のユンカースがまるで往年の友のように親しげに話しかけてきた。

「そっか、じゃあ俺たちはもう敵じゃないって事だな。じゃあさ、あんたたちには色々聞きたい事があるんだが」

「答えられる事ならなんでもどうぞ。あ、俺からも今の王国の様子とか教えてもらいたいです」

 ここからは世間話でもするかのようなノリで情報交換が始まった。
 もちろん国家機密のような内容もあるので答えられない事もあるが、お互い可能な限りの情報を出し合った。

 俺がアガントス王国を追放されてから俺の父であるエバートン侯爵は体調を崩して床に臥せ、弟のアルゴスが次期当主として家中を仕切っているそうだ。

 そしてアルゴスは未だに俺の事を破壊の権化、悪魔の化身として周囲に触れまわっているという。

 相変わらずだなあいつは。

 国王陛下や民衆の俺に対する認識もあの頃と変わっていないが、さすがにアルゴスの言動は常軌を逸しているそうで、逆に一連の事件に裏があったのではないかと怪しむ者も出始めたらしい。

 教会のシスターフローラはあれから精神を病んでしまい、教会にも足を運ばず毎日実家の自室で引き籠っているとか。
 彼女なりの心の葛藤があったのだろうな。


 ヘンシェルたちからは俺やロリエ個人についての質問が多かった。

 俺とロリエの関係について聞かれたが、恋人でもなければ夫婦でもない。
 友人でもなければ主従でもなく、結局自分たちにも良く分からない関係なので説明が難しかった。

「総括すると、結局ロリエは俺の黒魔力目当てで付き纏ってるだけですね」

「あら、ずいぶんとつれない事を言いますわね。私が心を許した唯一の殿方ですのに」

「胃袋を掴んだ、の間違いじゃないのか?」

「そんな事を言うのでしたらもういいですわ。今夜あんたの黒魔力を絞りつくして差し上げますわ」

「お、お手柔らかに……」


「ははは、本当に貴様たちは仲が良いな」

「夫婦漫才か?」

 ヘンシェルたちは俺とロリエのやり取りをニヤニヤと意味深な笑みを浮かべながら眺めていた。

 一方でロリエへはその戦闘力についての質問が多かった。
 呪術師のデマーグが小首を傾げながら問いかける。

「ロリエには何故私の呪術が効かなかったのだろう。高位の魔族には呪術に対しての耐性があるとでもいうのだろうか」

 ロリエは「そんなわけあるはずない」と手をひらひらさせながら答えた。

「簡単な理由ですわ。私は既に呪われているんですもの」

「既に呪われている?」

 基本的に呪術には重ね掛けという概念は存在しない
 同一の対象に複数の呪いを与えた場合、より高位な呪いのみが有効となり、低位の呪いは掻き消されてしまう。
 予め高位の呪いを受ける事で敵の呪術を防ぐ方法もあるくらいだ。

 ロリエは既に魔王によって呪いを受けている。
 デマーグの呪術が通用するはずがなかった。

「アデプトの馬鹿げた野望のせいで、私は全ての黒魔力を失ってしまったのですわ。まあ呪術による等価交換のお陰でこの力を手に入れましたので不自由はしていませんけど」

 ロリエは本当に気にしていないといった風に笑っている。

「呪いによってある日突然何かを失った、か……ん?」

 その時俺はロリエに不思議な親近感を覚えた。
 俺も黒魔力と【破壊の後の創造】スキルのお陰で王国内で危険視されて侯爵家の後継ぎの立場を失うばかりか国外追放まで言い渡されたんだよな。

 ……いや、違う。

 俺も昔似たような経験をした気がする。

 ある日突然自分が得意だった何かを失い、代わりに何かを得た事がある。
 微かにそんな記憶がある。

「ルシフェルト、どうかしまして?」

「え? あ、いやちょっと考え事をしていたんだよ」

 俺は……何か大切な事を忘れている……気がする。

「さて、ずいぶんと長居をしてしまった。我々は一旦アガントス王国へ帰るよ」

「あ、はい。こちらこそ長々と引き留めてしまってごめんなさい」

「王国へ戻ったら国王陛下には貴様の現状や【破壊の後の創造】スキルについて報告をさせて貰うよ。誤解が解ければきっと国外追放の刑も取り消されるだろう」

「有難うございます。でも俺は当分王国に帰る気はありませんよ」

「ああ、もちろん貴様の帰国を強制するものではない。ではさらばだ。縁があればまた会おう」

 俺は名残惜しみながらヘンシェルとその仲間たちが王国への帰路に発つのを見送った。



 そしてもう一人、ヘンシェルたちの事を見ている者たちがいた。


 小さく薄暗い部屋の中、中央の台の上に置かれた水晶玉にはヘンシェルとその仲間たち四人の姿が映し出されている。

「へっへっへ、どうしやすかアルゴスの旦那。このままヘンシェルが王国に戻ってルシフェルトの冤罪が晴れればいずれ真相が明るみになりますぜ」

「そんな事は勿論分かっているよ。こうなる事は想定内さ。だから次の手を打たせて貰ったよ」

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

闇の錬金術師と三毛猫 ~全種類のポーションが製造可能になったので猫と共にお店でスローライフします~

桜井正宗
ファンタジー
Cランクの平凡な錬金術師・カイリは、宮廷錬金術師に憧れていた。 技術を磨くために大手ギルドに所属。 半年経つとギルドマスターから追放を言い渡された。 理由は、ポーションがまずくて回復力がないからだった。 孤独になったカイリは絶望の中で三毛猫・ヴァルハラと出会う。人語を話す不思議な猫だった。力を与えられ闇の錬金術師に生まれ変わった。 全種類のポーションが製造可能になってしまったのだ。 その力を活かしてお店を開くと、最高のポーションだと国中に広まった。ポーションは飛ぶように売れ、いつの間にかお金持ちに……! その噂を聞きつけた元ギルドも、もう一度やり直さないかとやって来るが――もう遅かった。 カイリは様々なポーションを製造して成り上がっていくのだった。 三毛猫と共に人生の勝ち組へ...!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...