ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり

文字の大きさ
上 下
36 / 54

第36話 王国との決別6

しおりを挟む

 へンシェルにはルシフェルトが自分に向けている眼差しが王国の子供たちが自分に向けるそれと変わらないように見えた。
 そこにあるのは英雄への憧れの気持ちだけで、敵愾心など欠片も感じ取れない。

 それはヘンシェルがルシフェルトへの警戒心を解く理由として充分な説得力があった。

「それでヘンシェルさんはどうしてこんな所まで?」

「あ……ああ、主命ゆえに仔細は語れないが……貴様たちに危害を加えるつもりはない事は断言しよう」

 ヘンシェルは国王ペルセウスよりルシフェルトと魔王アデプトの討伐命令を受けていたが、実際にルシフェルトに接してみて彼を討つ気持ちは完全に無くなっていた。

 彼はアガントス王国の臣下ではあるが、シヴァン神教の敬虔な信徒でもある。
 シヴァン神が何故ルシフェルトに【破壊の後の創造】というスキルを授けたのかを考えた。
 恐らくシヴァン神は【破壊の後の創造】こそがルシフェルトの持つ強大な黒魔力を民衆の為に最大限に活かす事ができるスキルであると考えられたのだろう。
 ならば自分がルシフェルトを討つ理由は全くない。
 シヴァン神の御心のままに成り行きを見守るだけだ。

 ヘンシェルは主命よりも自分の直感を信じる事にした。

「こんなところで立ち話もなんですので城の中へどうぞ。あ、その前に怪我人の治療をしなくちゃいけませんね。ロリエ、ちょっとやり過ぎだぞ」

「別に殺してはいませんわ」

「でもそこで半分地面に埋まってる人泡吹いてるしかなり危険な状態じゃない? 仕方ないな、俺が治療するよ」

 ルシフェルトはユンカースに向かって手を伸ばして黒魔力を込めた。

 ルシフェルトは魔法でユンカースを吹き飛ばそうとしている。
 傍から見れば全力で止めるべき事態なのだが、ヘンシェルはルシフェルトが【破壊の後の創造】スキルでユンカースを治療するつもりである事を確信していた。
 ヘンシェルは邪魔をするでもなくその様子を眺める。

「う……うーん……」

「何があったんだ?」

 その時ロリエに叩きのめされて気を失っていた聖女ダイムラーと呪術師デマーグが目を覚ました。

「ヘンシェル、戦いは終わったようですね……はっ、ユンカースを治療しなければ!」

 ダイムラーは慌てて瀕死のユンカースに神聖魔法で治療を試みようと近付いた。

「あ、危ない!」

「え?」

 俺はユンカースの下に飛び込んでくるダイムラーに気付くのが遅れ、二人を巻き込む形で破壊の魔法を放ってしまった。

「きゃああああああ!?」


 ドオオオオオオオン!


 ユンカースとダイムラーの二人の身体は一瞬で粉々になった。

「うわあああああ!? ダイムラー、ユンカース!!」

 呪術師デマーグは突然の出来事に軽くパニックを起こしているが、ヘンシェルは落ち着いた様子でそれを眺めている。

 俺は「やっちゃった」とテヘぺろした後に【破壊の後の創造】スキルを発動させた。

 少し時間をおいて二人の肉片が光を放った。

「あら……私は一体何を?」

「俺……生きてるのか?」

 光が消えた頃、ダイムラーとユンカースの二人は元通りの姿でそこに立っていた。

「お前たちも無事で何よりだ」

「ヘンシェル、一体何があった? はっ、そうだ。さっきはよくもやりやがったな小娘!」

「もういいユンカース、武器を降ろせ。もう戦う必要はない」

「何? どういう事だヘンシェル」

 ヘンシェルは状況が分からずに混乱している三人に説明をする。

「そうか……分かったヘンシェル、お前がそう言うのならいがみ合いはこれで終わりだ」

 三人が落ちついたのを見計らって、俺はヘンシェルたちをロリックス城内に案内した。

 城の内部も王都とそっくりに創っている。

 それを見て戦士ユンカースが訝しむが、この城が王城と瓜二つなのは自分の中でアガントス王城以外のお城のイメージが無かったから以上の理由はない。

 俺はヘンシェルたちを食堂へ案内すると、臣下の魔族たちに料理を持って来させて手厚くもてなした。

 ヘンシェルさんは俺たちに危害を加えるつもりはないと言っていたけど、一体何をしにこんな所までやってきたのだろうか。
 王国の英雄様がパーティーを組んで態々魔界へまで足を踏み入れたのだから物見遊山ということはありえないだろう。

 魔界へやってきた英雄。
 考えられる理由は一つだけだ。

 俺はそれとなく切り出してみた。

「やはり魔王の動きは気になりますか?」

 ヘンシェルさんはピクッと食事の手を止めた後答えた。

「そうだな、何せ王国と魔界は長く国交断絶状態だ。まずは魔界の情報が欲しくてな」

「そうですか。見ての通り今の魔界は平和そのものですよ。碌でもない奴もいましたけど、俺が成敗してやりました」

「平和……ね」

 ヘンシェルたちの視線がロリエに集まった。

「……なんですの? あんたたちが怪しいことをしているからいけないのですわ」

 ロリエはぷいっとそっぽを向いた。
 一同苦笑いをする。

 少し間を開けて今度はヘンシェルが溜息をつきながら口を開いた。

「もし魔王が人間界への侵略を企んでいるのならば討つつもりだったが、彼女の強さを見て自信がなくなってしまったよ」

「え? どうしてですか?」

「恐らくあのまま続けていたら良くて相打ちだっただろう。今の私の力では魔王には届くまい。王国では英雄などと呼ばれて持て囃されているが、今回の戦いで自分の未熟さを実感したよ」

「いえ、あんたたち間違いなくアデプトより強いですわよ」

「え?」

 ロリエの言葉に呆気に取られている四人に対して俺は説明を加えた。

「ああ、ロリエは魔王より強いらしいから。ロリエと互角に戦えるのなら間違いなく魔王より強いですよ」

「そ、そうなのか……しかし王国と魔王軍での戦争が始まれば貴様たちも我々の敵に回るのだろう?」

「はあ?」

 ロリエが眉間をぴくぴくさせながら答えた。

「でーすーかーらー、私はアデプトとは無関係とあれほど言いましたでしょう? 戦争をされたいのでしたら私たちを巻き込まないようにどうぞご勝手にして下さいまし!」

「そうなのか?」

「ヘンシェルさん、彼女の言う通り俺たちは魔王の傘下にはいません。ただ領主として自分の領内の民の安寧を守りたいだけです。もちろん民が人間だろうが魔族だろうが関係ありません」


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

旅の道連れ、さようなら【短編】

キョウキョウ
ファンタジー
突然、パーティーからの除名処分を言い渡された。しかし俺には、その言葉がよく理解できなかった。 いつの間に、俺はパーティーの一員に加えられていたのか。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~

秋鷺 照
ファンタジー
 強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

パーティーを追放された装備製作者、実は世界最強 〜ソロになったので、自分で作った最強装備で無双する〜

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
ロイルはSランク冒険者パーティーの一員で、付与術師としてメンバーの武器の調整を担当していた。 だがある日、彼は「お前の付与などなくても俺たちは最強だ」と言われ、パーティーをクビになる。 仕方なく彼は、辺境で人生を再スタートすることにした。 素人が扱っても規格外の威力が出る武器を作れる彼は、今まで戦闘経験ゼロながらも瞬く間に成り上がる。 一方、自分たちの実力を過信するあまりチートな付与術師を失ったパーティーは、かつての猛威を振るえなくなっていた。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

処理中です...