ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり

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第13話 魔族の集落4

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 モロクの手下たちは村の中央に作られた宴会場で村人たちから手厚い接待を受けた後で本題を切り出した。

「いつまでもこんな田舎で油を売ってはおれん。そろそろ出す物を出してもらおうか。まったく、僅かな税の取り立ての為にこんな辺鄙なところまで来なきゃならん俺様の身にもなってみろ」

「はい、ご足労をおかけ致します。今月はこちらをモロク様へお納めせさて頂きます」

 ハッサムは美しい刺繍が施された布に包まれた魔瘴石を差し出した。
 あれは使者に失礼が無いようにとエンペルさんが徹夜で裁縫した布だ。

「ああ、この布切れはいらねえわ。中身は検めさせて貰うぞ」

 しかしトリスタンはその刺繍に全く興味を示さず、乱暴に布を破り捨てた。

「あの野郎……エンペルさんがあれだけ心を込めて作った物に何をしやがる!」

 俺は怒りのあまり思わず飛び出しそうになったが、それでは俺を巻き込ませまいというハッサムの心遣いを無にする事になる。
 俺はゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。

 モロクは布の中から現れた光り輝く宝石に感嘆の溜息を漏らした。

「ほう、これは魔瘴石じゃないか。どこで手に入れた?」

「はい、先日モロク様に献上する為に魔獣の谷へ足を踏み入れ、何とかこれだけ採掘して参りました」

「うむ、モロク様もお喜びになるだろう。よくやった」

 トリスタンは上機嫌に魔瘴石を太陽に翳してその美しさを堪能している。

「はい、これひとつでモロク様が定めた一年分の税と同等の価値があるはずです。これで今後一年間の税収は免除──」

「よし、来月も魔瘴石を持ってこいよ」

「……は?」

「は? じゃない。魔獣の谷へ行けば魔瘴石が簡単に手に入るんだろう? だったらもっと沢山持ってこいと言っている」

「そんな……これひとつ持ち帰るのにどれだけ苦労したか……危うく命を落とすところだったんですよ」

「そんな事は俺様の知った事ではない。まさかお前は魔獣の谷の魔瘴石を独り占めにするつもりか?」

「い、いえ……そんな事は……」

「だったら来月もひとつ献上しろ。いや待てよ、この村の人口は確か三十人程だったな。だったらひとり一個ずつで合計三十個だ」

「モロク様、いくらなんでもそれは無理難題というものです、どうかご容赦を!」

「何だ貴様、俺様の言う事が聞けないってのか!?」

 トリスタンは先程までの穏やかな態度がまるで嘘ように豹変しハッサムを威圧する。
 このままではハッサムさんはトリスタンの圧力に負けて首を縦に振ってしまいかねない。

 しかしこれはすでにハッサムさんひとりの問題ではない。
 ここでハッサムさんがはいと言ってしまえば村人たち全員を巻き込んでしまう。
 ハッサムさんもそれが分かっているので決して圧力に屈せずに耐えている。

 魔獣の谷はグリフォンを従えた俺と一緒にいれば魔獣に襲われる心配は恐らくないと思うけど、ハッサムさんは部外者である俺の力を当てにするつもりは全くないようだ。
 それに魔瘴石は貴重な鉱石だ。
 次の税収までの一ヶ月の間村人全員が手分けして探し続けてもどれだけ採掘できるかは分からない。

 一向に首を縦に振らないハッサムに対してついにトリスタンは業を煮やし右手のハンマーを振り上げた。

「俺様の言う事が聞けないのならもういい、今この場で脳みそをぶちまけながら死にやがれ!」

「ひっ……」

 ハッサムさんの脳天を目掛けてハンマーが振り下ろされる。


 ドォン!


 しかしそのハンマーはハッサムさんの頭部に届く直前にバラバラに砕け散った。
 トリスタンは何が起きたのか理解できずに目を丸くしている。

「な、なんだ!? ハンマーが爆発しやがった」

「トリスタン様、あいつです! あいつが黒魔法を使うのが見えました!」

「ああん!? 誰だ俺様の邪魔をしやがった奴は!」

 コボルトの一人が指差す方向にいたのは言うまでもなく俺だ。
 奴らの非道をこれ以上見過ごす事はできない。
 気が付いた時には俺は家の外に飛び出して黒魔法を放っていた。

「さっきから聞いていればいい加減にしろよお前ら!」

「ルシフェルトさん、出てきてはいけません! 逃げて下さい!」

 ハッサムさんはこんな状況でも俺の事を気遣ってくれるけど俺も我慢の限界だ。
 こんな奴ら徹底的にやっつけてやる。

 トリスタンは俺を見て拍子抜けをしたような顔をする。

「うん? ただの人間じゃないか。……そうかこの村の連中は人間を匿ってやがるのか。これはモロク様に対する重大な裏切り行為と判断できるな。見せしめだ、お前たちこの村の連中を皆殺しにしろ!」

「トリスタン様、この人間の小僧はどうするので?」

「こいつは俺の獲物だ。お前たちは手を出すんじゃねえぞ」

 トリスタンは左手に残ったハンマーを両手で握り直し俺の前に立ちはだかる。

「はい、トリスタン様!」

 コボルト達は村人たちに襲いかかる為に四方に散った。
 しかし俺もそれを黙って見ている訳にはいかない。

「……拡散破壊魔法、ディフュージョンブレイク!」

 俺の掌から放出された魔力の弾丸は次の瞬間に分裂して四方に飛び散った。

「ギャンッ!」
「キャインッ!」
「ウボアッ!」

 拡散した魔力の欠片はそれぞれが狙い澄ましたように全てのコボルトの身体を的確に貫いた。

 コボルトたちは自らの身に何が起きたのかを把握する暇もなく息絶えた。

 これで残りはこの鳥野郎だけだ。

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