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第44話 最後の悪あがき
しおりを挟む「まずはオロチの首から流れ続けている呪われた血を何とかしないとダメでござるね。忍法火遁の術!」
サギリは両手で印を結び炎の渦を巻き起こすと、切断されたオロチの首の切り口の表面を焼いて出血を止める。
「これで大丈夫でござるよ」
「有り難うサギリ。 サクヤ、ネネコ、いくよ!」
「お姉様、合わせて下さい! ……エンチャントインパクト!」
「破邪魔法、ホーリーバトゥー!」
チルはサクヤの衝撃魔法とネネコの破邪魔法をロングソードに宿らせながらオロチに飛びかかり、その首のひとつを目掛けて振り下ろした。
ロングソードはオロチの首に深々と突き刺さり、次の瞬間剣に纏わりついていた衝撃波と破邪の力がオロチの首を内部から吹き飛ばした。
「今でござる!」
サギリは再度火遁の術を使い、血が噴き出す前に吹き飛ばされた傷口の表面を焼いて止血をする。
一部の無駄もない見事な連携だ。
「次いくよ!」
「はい、お姉様!」
チルは次々とオロチの首と尾を斬り落としていく。
四人ともしばらく見ない間に随分と成長したものだ。
勇者たるもの三日会わざれば刮目して見よとはよくいったものだ。
「よし、チル達に続け!」
「おうよ!」
更に俺や冒険者達の攻撃も加わって、オロチの残りの首と尾が三本ずつまで減った時だった。
オロチは別々に動いていた首と尾それぞれを三つ編みのように絡めたかと思うと、それは融合して一本の太い胴体となった。
「一本ずつ斬り落とす手間が省けました! えいっ!」
チルはその首に飛びかかり魔法剣を振り下ろす。
剣が首に刺さった次の瞬間、衝撃波と破邪の力が首を内部から吹き飛ばす──はずだった。
一本の矢は簡単に折れるが、三本纏めれば容易に折る事は出来ないという。
三本分の耐久力を備えたその首は魔法剣の威力に耐え、僅かにできた傷口もみるみる内に復元されていく。
イザナミやカグツチはその傷口を狙って追撃を加えるが焼け石に水だった。
「ならばもう一度!」
チルは再度剣を構えオロチの首に斬りかかるが、結果は変わらない。
いくら勇者として申し分がないレベルまで成長したチルとはいえ、強化された魔王の耐久力の前では攻撃力不足なのは否めない。
攻撃力が足りないのなら相手の防御力を更に下げてやればいいのだが、ガードレスの重ね掛け──クロースレス──は蛇などの爬虫類型の魔物に使うと強制的な脱皮を促してしまう。
それでは外皮と同時に防御力低下効果も脱ぎ捨てられてしまうので意味がない。
もう俺にできる事は何もないのだろうか。
「……いや、待てよ?」
クロースレスを掛けてから身を覆っている物が消え去る──脱皮する──までにはほんの少しだけタイムラグがある。
クロースレスが掛かった瞬間──脱皮するまでの間──に強力な一撃を加える事ができれば何とかなるかもしれない。
しかしそんなにうまくタイミングを合わせられるだろうか?
もし攻撃のタイミングが遅れれば防御力低下効果が消えるばかりか、脱皮した事で今まで斬り落としてきた首も復活してしまう可能性もある。
「シャアアアアアアアアア!!」
俺が策をめぐらせている間にもオロチは首と尾を振り回し、チル達に襲い掛かる。
「サクヤ、ネネコ、まだ行けるよね?」
「はい、お姉様! ……エンチャントインパクト!」
「何度でもお付き合いいたしますわ! ……ホーリーバトゥー!」
チル達勇者パーティはそれでも諦めずに合体魔法剣を試みる。
だがそれでは結果は同じだ。
無駄に魔力を消費するに過ぎない。
いや、待てよ?
俺は魔法を纏ったチルの剣を見てひとつの策を思いついた。
「チル、お前の魔法剣に俺の魔法も追加できるか?」
「え? はい、やってみます!」
「よし行くぞ! ……ガードレス!」
チルのロングソードが衝撃と破邪と防御力弱体化の三種類の魔法を纏い、赤、青、赤、青と交互に激しく点滅する。
見ているだけで光過敏性発作を起こしそうだ。
「てりゃーっ!」
チルの剣がオロチの首に突き刺さった瞬間、オロチの身体に掛けられていたガードレスの効果に魔法剣ガードレスの効果が重なり、クロースレスが発動する。
オロチの身体が赤い光に包まれた次の瞬間。
パァン!
という破裂音と共に──
「ギシャアアアアアアアアア!!」
──オロチの首が千切れ飛び、頭部を失った胴体は力なく崩れ落ちた。
すぐさまサギリが火遁の術で切り口の表面を焼き、流れ出る血を止める。
「終わった……のか?」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「俺達の勝利だ!!!」
「えい、えい、おー!」
動かなくなったオロチの胴体を見て、兵士達や冒険者達からどっと勝ちどきが上がる。
俺達の完全勝利だ。
そんな中、ひとりほっと胸を撫で下ろしているイザナミの姿が目に止まった。
「ふう、何とか最後までクロースレスに巻き込まれずに済んだようね」
どうやらイザナミだけは魔王よりも俺に衣服を剥ぎ取られる事の方を恐れていたようだ。
俺は苦笑いしながらイザナミに話しかける。
「人を衣服剥ぎ取り魔みたいに言わないで下さい。俺は炎や氷に包まれたり毒液を浴びた仲間を助ける為以外に味方にクロースレスを使う事はありませんよ」
「ええ、私はオロチの血も浴びなかったからね。なんとかやり過ごせたわ」
「そうだね。それじゃあ味方の被害状況を確認して負傷者の手当を──」
「オノレ、ニンゲンドモ……!」
その時、死んだと思っていたオロチの頭部が口を開き呪いの言葉を吐き出す。
「コウナレバキサマタチモミチヅレダ……フハハハハハ……グハッ」
オロチの口から大量の血が吐き出され、王都中に豪雨のように降り注いだ。
オロチの血の呪いは兵士や冒険者だけなく、王都中の全ての民を飲み込んでいった。
「ぎゃああああああああ!」
「身体が焼けるようだ!」
「誰か、助けてくれええええ!」
あちらこちらから悲鳴が上がる。
勿論俺も、チル達も、イザナミも全身がオロチの血で真っ赤に染まっている。
「ほら、やっぱりこうなった! ずっと嫌な予感がしてたのよ!」
「ああ、うん。 もうクロースレスを使ってもいいかな?」
イザナミは死んだ魚のような目で答えた。
「もう好きにして」
「……クロースレス!」
俺が呪文の詠唱を終えた瞬間。王都全体が赤い光に包まれ、パァン! という破裂音と共に王都にいる全ての人間の衣服が身体にこびりついていた呪われた血と一緒に消し飛ばされた。
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