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第42話 復活した魔王
しおりを挟む城門付近では既にタカミ軍とムスヒ軍の戦闘が始まっていた。
城壁に取り付くタカミの軍勢に対してムスヒ軍は容赦なく矢や投石の雨を浴びせ、一進一退の攻防が続いていた。
やがて頃合いを見て王都内に潜り込んでいたタカミを支持する者達が城門を開けると、タカミの軍勢は一気に王都の中になだれ込む。
これで勝負はついたかに見えたが、その時城門の上に現れた国王ムスヒが指輪をかざして破滅の呪文を詠唱すると、その指先から放たれた暗黒の炎が周囲の兵士達を焼き尽くした。
「うわあああ、熱い、誰か火を消してくれええええ!!」
「くそっ、いったん後退するぞ!」
「陛下、おやめ下さい! 味方も巻き込んでおります!」
敵味方問わず兵士達の悲鳴が響き渡る。
「ふん、何が味方だ。貴様達が不甲斐ないせいでこの俺自らが出向かなければならなくなったのだぞ」
ムスヒは味方の言葉を全く聞き入れず、間髪いれずに二発目の魔法を放つ。
「ぎゃあああああああ!」
「た、助けてくれえええ!」
前線の兵士が大混乱している様子を後方から見ていたタカミ王子がヤマツミ伯爵に問いかける。
「敵に強力な魔法を使うものがおるようだが何者だ?」
「はい、どうやらあれはムスヒがやっているようです」
「何? 奴は魔法など使えないはずだが。それにあの魔法は人間が使うものにしては禍々しすぎるな」
「魔族が裏で手を貸しているのミャ」
その時、タカミ王子たちの前にマドウカ達エキゾチックスの面々がひょっこりと顔を出した。
「おお、戻ったかマドウカ。城内の様子はどうだ?」
マドウカは突如王宮内から強大な魔力を持つ者──ムスヒ──が現れた事と、クサナギとヨイヤミの動向について報告をする。
「あの魔力の量と質はとても人間のものとは思えないミャ。城門付近の兵士達は私の独断で一旦下がらせておいたミャ」
「何だと? 眼前に敵の大将をおいてみすみす逃げ帰る事など!」
「違うミャ。相手が魔族なら兵士達より私達冒険者の方が慣れてるミャ」
マドウカがそう言った直後、前方から眩い閃光が放たれた。
「何だこの光は!?」
「殿下、あれをご覧下さい」
次の瞬間、爆音とともに周囲の城壁ごと城門が吹き飛んだ。
爆煙が辺りを包み、視界が遮られる。
「ちょっとやり過ぎてしまったかしら?」
徐々に煙が晴れていくと、そこには夜空の星々を模った刺繍が施されたローブを身に纏ったひとりの女性が、透き通るような紺色の髪を靡かせて立っていた。
「あれは確か……以前勇者パーティにいた星雲の魔女イザナミか!?」
「見たか今の魔法、噂には聞いていたが凄まじい威力だ!」
その美しくも勇ましい姿を目にしたタカミ軍の兵士達は一斉に歓声を上げる。
崩れた城壁の瓦礫の下からは血まみれになったムスヒ王子が這い出てきた。
「うぐぐ……貴様よくもやってくれたな」
「あら? 思ったより頑丈ですね」
「もはや許せん、貴様ら皆殺しにしてくれるわ! ……カタストロフファイ──」
ムスヒはイザナミに向けて破滅の呪文を唱え始めるが、詠唱を終える前にムスヒに向けて突進する影があった。
「詠唱が遅い!」
バゴォン!
というおおよそ人体から発せられたとは思えないような衝突音を響かせながらムスヒの身体が宙に舞う。
そこには拳を突き出したまま「ふーっ」、と深く息を吐き出しているカグツチの姿があった。
「見ろ、あれは辺境の格闘王カグツチだ!」
吹き飛ばされたムスヒはボロぞうきんのようになりながらタカミ王子の陣営の真っ只中に落下した。
すぐさま兵士達が槍を向けて取り囲む。
タカミ王子がその兵士達の前に足を進めて言った。
「もうお前の負けだムスヒ。大人しく降参すれば命までは取らん。だがこれ以上抵抗するのなら──」
ムスヒはタカミ王子が差し出した手を払いのけて叫ぶ。
「うるさい、俺を見下すな! 俺はこの国の王だぞ! どうしていつも兄上ばかりが優遇されて俺はこんな目にあわされるんだ! 俺は、俺は……うわあああああああああああ!」
突然ムスヒの指輪から夥しい量の黒く澱んだ魔力が噴き出した。
「な、なんだこれは……おいクシナダ、これはどういう……」
その光景に一番困惑していたのは他でもないムスヒ本人だ。
「様子がおかしい、皆一旦離れろ!」
タカミ王子の声で先程までムスヒを囲んでいた兵士達は一斉に後退する。
指輪から絶え間なく噴き出される魔力がムスヒを包み込む。
「痛い、痛いいいい……俺の身体どうなって……いやだ……助けて……兄上……あ……」
ムスヒの身体はあっという間に漆黒の中に沈み込み、その声は聞こえなくなった。
その漆黒の魔力はムスヒがいた場所中心にして、王宮よりも遥かに大きな繭のような物を形作った。
「これは一体どうした事だ?」
「これは漆黒の繭……いや、違う、これは卵だ!」
バリッという音と共に卵の殻に亀裂が入り、中からおぞましい魔力が溢れ出てきた。
「こ、これは……さっきまで感じていた魔力とは桁が違う、皆気をつけるミャ!」
兵士達は卵を囲み槍を構えるが皆その迫力にガクガクと膝を震えさせている。
そして殻の上部が完全に割れたかと思うと、中からは八つの首と八つの尾を持つ巨大な蛇が姿を現した。
「シャアアアアアア!!」
「ひいい、なんだこいつは……」
「無理だ、俺達じゃこんな化け物に適う訳がない……」
大蛇が人睨みしただけで、兵士達は蛇に睨まれた蛙のように戦意を喪失して固まってしまった。
兵士の一人が弱弱しく呟いた。
「あの姿……間違いない、かつて勇者スサノオが封じたという伝説の大魔王オロチだ……」
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