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第38話 闇の暗殺者
しおりを挟む「皆には迷惑をかけた。すまぬ、この通りだ」
討伐軍との戦いから一週間後、アンドーゼ達の手厚い看護の甲斐もあってようやくタカミ王子が正気を取り戻した。
「これ以上ムスヒ一派を野放しにしておく訳にはいかない。私には父上の敵を討ち、王国の民の安寧を取り戻す義務がある」
それはつまり兵を集めて王都へ戻りムスヒ達と一戦を交えるという事だ。
「タカミ殿下、病み上がりで無理をされてはいけません。戦支度は我々が整えておきますので、殿下はしばしご休息下さい」
俺ははやるタカミ殿下を無理やり休ませると、トモエ達を呼んで作戦会議を行う。
タカミ王子が挙兵すればヤマツミ伯爵を筆頭に多くの諸侯が呼応してくれるはずだ。
先の戦いで捕虜とした後に解放した一万の兵士も元々はタカミ殿下に仕えていた者達だ。
俺達と一緒に戦ってくれるだろう。
兵力を合計すると二万人といったところか。
対するムスヒ一派の兵力は総勢一万程である。
数の上ではこちらが優位だ。
しかし国王ムスヒの背後にはクシナダ王妃などの魔族の影がちらついている。
その規模が読めない。
それにムスヒが即位してからというもの隣国との関係が悪化している。
タカミ殿下とムスヒがお互いにつぶし合った隙を狙って他国が侵略を始める可能性も十分考えられるだろう。
「兄貴、簡単にはいきそうにないですね」
「そうだな。……少し夜風に当たってくる」
俺はその夜クールダウンする為に村外れを一人で歩いていた。
その時、俺はかつて経験した事がない程の強大な魔力が背後から近付いてくるのを感じた。
「誰だ!?」
振り向くが視界には何も見えない。
しかし間違いなく何かがそこにいる。
「お前がヨイヤミか?」
俺はマドウカから聞いた刺客の事を思い出した。
闇の魔力を操り、自らの姿を闇に溶かして見えなくする事ができるという少女だ。
「……私を……知ってるの?」
暗闇から少女の声が響いた。
彼女の事はエキゾチックスのメンバーから聞いている。
イザナミですら手も足も出ず敗れたという相手だ。
しかし同時にその弱点についても聞いている。
彼女は異性に対しての免疫がない。
ならば先手必勝だ。
俺は躊躇せず魔法の呪文を詠唱する。
「……クロースレス!」
次の瞬間、前方の暗闇からパァン! という、破裂音が確かに聞こえてきた。
「ひゃっ!?」
ヨイヤミの声が聞こえたが、闇に溶け込んでいる為かその姿は見えない。
しかし間違いなく効果はあった。
ヨイヤミの防御力は極限まで下がっているはずだ。
俺は地面の砂を掬いあげ、魔力を感じる方向へ投げつける。
「メテオリックスターサンド!」
この攻撃で勝負はついたはずだった。
「……ダークネスファイア」
ヨイヤミの声が聞こえた刹那、前方の暗闇から漆黒の炎が噴き出した。
夜の闇の中なので視認はできないが、魔法使いである俺は目で見なくともそれがどんな魔法なのかを感じる事ができる。
俺が投げた砂は漆黒の炎に包まれて一瞬にして消し飛んだ。
「これでもうあなたに打つ手はない」
俺の攻撃を完全に無効化し、勝利を確信したヨイヤミは、さらに暗黒魔法の呪文を詠唱し、俺に止めを刺そうとする。
前方の暗闇を中心として、闇の魔力が円形に広がっていくのを感じる。
その魔力が俺を包み込んだ時、俺の命の灯は消えるだろう。
魔法には相性というものがある。
自身の姿を敵の視界に入らなくするというヨイヤミの魔法はまさしく俺のクロースレスの天敵だ。
俺には初めから勝機など無かったのだ。
「……いや、そんなはずはない!」
俺はツクヨミ師匠の言葉を思い出した。
「例え一種類しか魔法を使えなくても、使い方次第で様々な効果を生む事ができる」
使い方次第……。
俺のクロースレスの魔法の効果は対象の防御力を下げる効果と身包みを剥がす効果がある。
相手に掛けても効果がないなら……。
「俺自身が全裸になる事だ! ……クロースレス!」
次の瞬間、俺の身体が赤い光に包まれ、パァン! という破裂音と共に俺が身に纏っている全ての物が弾け飛んだ。
「い……嫌ああああああああああああああああああ!?」
ヨイヤミの悲鳴が響き渡る。
ただ俺の裸を見せただけだが、男性に対して免疫がないヨイヤミには十分過ぎる程の効果を発した。
魔法を使うにあたって重要なものは集中力である。
錯乱して魔法に集中するどころではないヨイヤミは自らに掛けていた魔法が解けて全身が露わになる。
ヨイヤミは凄まじい魔力を持っているが、肉体的なスペックは一般人と変わらない。
仮にも勇者パーティの一員として戦い続けてきた俺の腕力には抗える筈もなく、俺は馬乗りになってヨイヤミを取り押さえる事に成功した。
「クサナギの兄貴、今の音は何ですか?」
「まさか敵襲かい?」
「助太刀するミャ!」
その時、度重なるクロースレスの破裂音を聞きつけた皆が俺の下に駆け寄ってきた。
「みんな丁度いいところに。見ろ、ムスヒ一派の刺客を捕まえたぞ」
皆の視線が裸でもつれ合っている俺とヨイヤミに集まる。
途端に周囲の空気が変わった。
「兄貴、いくらなんでもそんないたいけな少女相手にそれはまずいですよ……」
「あんたにはついていくって言ったけどさ。あたいでも許容できない事はあるよ」
「チルちゃん達がこの光景を見たら泣くミャ」
俺はドン引きをしている皆の顔を見て自分とヨイヤミが全裸で組み合っている事を思い出し、一気に血の気が引く。
「ち、違う! 決して変な事はしていない! クロースレスを使えば相手が裸になるのはお前達も知っているだろう!」
「じゃあどうして兄貴も裸になってるんですかい?」
「彼女の魔法を打ち破る為には彼女に俺の裸を見せるしかなかったんだ!」
「兄貴……ちょっと何を言ってるのか分からないです」
「おい、誰かアンドーゼを連れてきな。クサナギの旦那にも鎮静剤が必要だ!」
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