防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり

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第33話 光の矢

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「アホォ、お前の普通を人に押し付けて分かるわけないやろが」
 そう言った涯が手を上下に振る。徹が尚も言い繋ごうとしたところ、「やかましい!」と一喝した。
「テメエの意見をガキに押し付けんな。コイツらはコイツらで考えとんのや」
 豪がフンと胸を張り、敬哉も涯を誇らしげに見て「そうですね」と淡々と言って胸の前で手を組む。
「とにかく、こっちは厄介な奴に目ぇつけられとんねん。殺らな殺られんのはこっちなんじゃ。よそ者がその場のノリで適当なこと言うてくれんな」
「確かに、こちらは戦況が悪化しているという話は聞いた。けれど、だからといって」
「あーあー、そんなんなあ、何回も話し合ったっちゅーねん」
 端正な顔を思い切り歪め、耳の穴に小指を突っ込んだ涯は「自分なあ」と低い声を出した。
「その話まだする気ぃなら出てけや。俺らも帰らせてもらうわ。言うとくけどコイツらのお守頼まれとんの俺やぞ。俺が帰る言うたらマッジで帰ったるからな」
 全部俺の判断じゃと言う涯に、徹はそんなと立ち上がりかける。
「それは話が違うだろう! こちらは本部を通して要請をしたんだぞ……」
「話したんはお前か? ちゃうやろ、雅臣さんや」
 お前かしこなんかアホなんかどっちやねん、と手の平を上向けて涯が嗤うと、徹は口を引き結んで拳を強く握り締める。
「勘違いをしないで頂きたいんですが。僕も豪も子ども扱いされていますよ。涯さんを見ていれば分かるでしょう」
 守られていますよと敬哉が言うと、豪が「そうだぜ」と強い同意を示す。
「俺らも戦うけど。んでも、涯とか光治とか、ちこ姉ちゃんみたいにはできねえんだよ。皆、俺らを守って戦ってくれるんだ。俺らが大人になんのを待っててくれてんだよ!」
 馬鹿にすんなよと叫んだ豪は、近くに置いてあった炭酸飲料のペットボトルを鷲掴み、徹に向かって投げた。
 徹が悲鳴を上げて腕を前に出したが、豪の隣に座っていた当夜が手を伸ばして掴み取る。元々小学生の腕力では届かず床に落ちていただろう。
 当夜は豪に視線を送ってから、無言でそれを習にぽんと投げた。「うわっ」と驚きの声を出しつつも受け取った習は、上に放り投げる。それを何度も繰り返しながら、口を開く。
「えっと……ごめん、なにも知らないくせに余計なこと言っちまうんスけど。徹もだけど、俺も覚悟決めらんないッスね」
 鉄神のことこえーなって思ってると弱音を吐く習に、豪は目を尖らせる。
「俺は、やっぱ大切なものなくすってなんなんだよって思っちまうし、死にたくねえッスよ」
「んなこと言うてる場合か」
 誰かが戦わなきゃ死ぬんだよと言う豪に、習は「でも子どもッスから」とペットボトルを黒馬に渡す。黒馬は豪を見ながら蓋を開け、三口程しか残っていない中身を飲み干した。
「…………イワナガも、タカクラも怖くねえよ」
 頭を抱えた豪が絞り出すように言い、「いい奴らだ」とうわ言のように呟く。その背中を当夜が慰めるように叩いた。
「いつかは慣れるだろ、コイツらも」
 なんでもないように投げかけた当夜の言葉に、固まった空気がさらに冷え込んでいく。視線が集まっても尚、当夜は笑みの一つさえ見せない。
「でなきゃ死ぬだけだし。アクガミに殺されるか、鉄神にありがとうって言って死ねるか。これ、俺には全然違うように思えるけどな」
 言い放っておいて興味を失くしたのか、当夜は自分の爪を見てから「ま、切羽詰まったら殺せるようになるよ。人じゃないんだから」とため息を吐き出す。
 徹は目を閉じ、習は俯いた。相容れぬ者から視線を外して、彼らは見えない隔たりに押し潰されそうになりながらも、揺らぐ世界の片隅に生きていくしかない。
 その滑稽さを目の当たりにして当夜は、ソファーの背に頭をのせる。強く瞼を閉じると、目の端から気持ちが零れ落ちそうになってしまう。
「……カグラヴィーダに会いたいな」
「では、おやすみを言いに行きましょうか?」
 小さな呟きを聞き取った敬哉がそう言うと、当夜はのけ反らせていた頭を戻し、「いいの?」と彼を見た。
「はい。鉄神に会いに行くのを阻む理由がありませんから」
 立ち上がり当夜を促した敬哉が先導する。当夜が礼を言いながらついていくのを見て徹が制止を促すので、「いいじゃんか、うっせえなあ」と豪が唇を突き出した。
「嫌なら出てってええぞ」
 ここ鉄神の中やからなと涯に親指で出口を差され、呻き声を出した徹は「外で待っている!」と言って敬哉の横を通って歩いていく。
「あ……えっと、ごめん。俺も!」
 習も「おやすみっ」と低姿勢で手を合わせ、徹の背中を追う。黒馬は当夜と彼らを見比べ――敬哉に対して頭を下げる。
 ふぅん、そっちを取るんだ。そう一人置いていかれた当夜は、「異端者は俺みたいだな」と自嘲した。
「あ~~……世界は広いから」
「まっ、気にすんな!」
 肩に置かれた涯の手、背中を叩く豪の手。気遣いは嬉しいが項垂れた首を元に戻せそうもない。奥歯を噛みしめ、拳を堅く握る当夜の侘しさは埋まりそうにもなかった。
 唯一自分だけを選んでくれた、当夜だけの神に会うまでは。
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