防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり

文字の大きさ
上 下
33 / 45

第33話 光の矢

しおりを挟む

 机の上を片付け終わり、さて社を出ようという段になって、秘書の間部がキョロキョロし始めた。
 本郷大樹はそれに気づいて、思わず噴き出しそうになる。笑いそうなのを堪えたために、不機嫌そうな仏頂面になった。
 間部は視界の端に大樹の不機嫌な顔を見つけ、ますます焦った様子で辺りを見回している。きっと、せっかちな大樹が待たされることに苛立っているとでも思っているのだろう。


 勤続二十八年になる熟練秘書の間部征爾は、端正な佇まいの男だ。
 すっきりとした長身は、若い頃から長距離走を続けていたせいで、五十代になった今も無駄肉を寄せ付けない。
 手足がすらりと長く、やや骨張った手は指と爪の形が抜群に良い。体型に合わせた上物のスーツは地味な色味を選ぶことが多いが、それがまた足の長さや肌の白さを引き立たせて、何とも言えない品があった。
 若い頃は誰もが思わず振り返るような男前だったが、それは今もあまり衰えを見せない。少し窶れた感じの頬のラインが、いっそ若い頃より艶めかしいくらいだ。

 茶色みがかった切れ長の目と細い鼻梁、それに薄めの唇が、全体の雰囲気を冷淡そうに見せて、近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
 ところが、これが笑うと打って変わって人懐こい印象になり、そのギャップが堪らない魅力なのだ。
 スケジュール管理は万全、取引先への根回しも完璧、無理だと思えるアポイントも人脈を駆使して難なく取り付けてくる。
 完全無欠の隙なし秘書だ。――表向きは。



「間部、帰るぞ」

 せっかく片付けた引き出しの中まで覗く間部に、ついに大樹は笑いを堪えきれなくなった。
 顔を上げた間部が何か言いかけるより早く、大樹は自らの頭の上を指さして教えてやる。間部が『アッ!』という顔をした後、ばつの悪そうな表情で頭上に乗せていた眼鏡を下ろした。近頃使い始めた老眼鏡だ。

 もうこんな物を使う年齢になったのだなと、大樹は感慨深く思い返す。
 大樹が初めて間部に会ったのは一五歳の時。間部が当時は珍しかった男性秘書となったばかりのことだった。



「社長をお迎えに上がりました。秘書課の間部と申します」

 そのころ、大樹の登校時間と父親の出社時間はちょうど重なっていた。
 玄関を出た大樹は、ちょうどインターフォンを押そうとしていた背の高い青年と目が合った。
 こんな朝早くからなんだという疑問が顔に出たのか、青年は深々と頭を下げ、大人にするのと同じように丁寧に名乗った。

 秘書と言えば、小綺麗な若い女の仕事だと思っていた大樹は、間違えても女には見えない青年をまじまじと見つめた。
 昨日まで迎えに来ていた女性秘書とは随分雰囲気が違う。
 人を寄せ付けないような白く冷たい顔、威圧的なほど硬い仕草。後から思えば、これが間部の秘書デビューの日だったのだから、緊張していたのだろうが、第一印象はすこぶる悪かった。
 生意気盛りの中学生だった大樹は、この澄まし顔の男前秘書をからかってやることにした。

「今度の愛人は男かよ。親父もまったく見境なしだな」

 大樹の言葉に青年が大きく目を見開いた。茶色がかった淡い色の虹彩が綺麗だと、大樹は思った。
 見惚れて言葉を失った大樹の脳天に、その直後、遠慮のない拳骨が落ちてきた。

「こら、大樹! お前がそんなんだから、秘書を変えたんだぞ!」

 鞄を抱えて後ろから出てきたのは当の父親だ。

「……いってぇ!」

 頭を押さえて呻く大樹の姿に、青年が思わずといった様子で笑った。屈託のない、子供のような顔で。
 冷たく酷薄そうに見えた顔が、笑った途端驚くほど人懐こい印象に変わり――この瞬間、大樹の運命の相手は決まってしまったのだ。



 初めて出会った少年の日、すでに間部は妻帯者だった。
 想いは一生黙っておくしかないと覚悟していた大樹の元に、だが、運命は予想もしない形で転がってきた。突然の病で妻を亡くした間部が、隙だらけの無防備な姿で大樹の前に落ちてきたのだ。

 為し崩しに関係を始めてもう数年が経つ。
 大樹の方は恋人同士のつもりでいるのだが、間部はどうやらこれは秘書としての務めの一環だと、自分自身に言い聞かせているらしい。
 隙がなさそうに見えて、どこかぽっかりと抜け落ちたところも、間部の可愛いところだ。

「……コンタクトにしたらどうだ。何処に行ったか探さなくて済むし」

 駐車場を並んで歩きながら、大樹はさりげなく言ってみた。
 綺麗に年齢を重ねた間部の顔が、眼鏡に邪魔されてよく見えないのが惜しいからだ。

 フレームレスのシャープな眼鏡は老眼鏡には見えないし、怜悧な顔立ちの間部にはいかにも有能秘書という雰囲気でとても似合っている。
 けれど、あの綺麗な虹彩がレンズ越しにしか見えないのは勿体ない。
 それにキスしたいと思った時に、いちいち眼鏡を取り上げる一手間が面倒だ。コンタクトなら、今までと同じようにいつでも隙を見てキスできる。

「いえ……その……」

 大樹の提案に、間部が難しい顔をした。



 眉間に皺を寄せて考え込む顔は、何か重大な事情でもあるかのようだ。
 考え込むようなその表情が禁欲的な色気を帯びて、大樹の少々精力が過ぎる下半身を刺激した。

「――異物を入れるのが、どうしても嫌なので」

 やがて重々しく発された間部の言葉に、大樹は一瞬ポカンとなった。
 異物は嫌だと言うが、間部は体力の許す限り大樹が誘う大抵のプレイに応じてくれる。まだ後ろであまり感じなかった頃には、いわゆる大人の玩具も色々と試したが、それほど拒絶された覚えはない。
 むしろ新しいことを経験するのに積極的なのではないかと思ったほどだ。

 ――尻の中に異物を入れるのは好きな癖に……。

 思わずバカげた光景が脳裏に浮かんだ。
 嫌がる間部を押さえつけ『いいじゃないか、初めての時は誰だって痛いもんだ』とか言いながら、コンタクトレンズを目に入れてやるのだ。粘膜を抉じ開けて、本来入る余地のないところに、異物を押し込む。
 間部は痛くて涙を流すかもしれないが、慣れたらそのうち『もっと入れて下さい、気持ちいいです』とか言い出すかもしれない。

 恥ずかしいことや苦しいことを口では嫌がるが、体の方は善がっているのが丸わかりなので、間部はちょっとMの気があると大樹は思っている。
 好きな相手を虐めたくなる自分とは好相性だ。
 『これも秘書の務めですから』などと言って冷たく澄ました間部が、首まで真っ赤に染めながら『大樹さん、もう許してください……』なんて口にすると、大樹の下半身は堪らなくなる。
 もちろん許すはずがない。バリバリ発奮するに決まっている。



「よし!」

 大樹は予定を変更した。

「間部、今日も残業だ」

「えっ!?」

 週に三日ほどはノー残業デーにしようと思っていたが、この火急の時にそんなことは言っていられない。今すぐ異物を入れられる気持ちよさを間部に再認識させねば。

 間部の手から車のキーを奪い取り、運転席へと向かう。
 昨日も残業だったので、よほど予想外だったのだろう。間部は素っ頓狂な声をあげてうろうろしている。断る口実を探しているようだ。

 大丈夫、心配するな。短時間で済ませるし、体力もあまり消耗しないプレイを考えるつもりだ。
 そう言って安心させてやりたいが、嘘になる可能性もあるので用心深い大樹は口にしない。
 その代わり逃げ口上を封じるために眼鏡を取り上げて、大樹は車の影で恋人の唇を奪った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

元勇者の俺と元魔王のカノジョがダンジョンでカップル配信をしてみた結果。

九条蓮@㊗再重版㊗書籍発売中
ファンタジー
異世界から帰還した元勇者・冴木蒼真(さえきそうま)は、刺激欲しさにダンジョン配信を始める。 異世界での無敵スキル〈破壊不可(アンブレイカブル)〉を元の世界に引き継いでいた蒼真だったが、ただノーダメなだけで見栄えが悪く、配信者としての知名度はゼロ。 人気のある配信者達は実力ではなく派手な技や外見だけでファンを獲得しており、蒼真はそんな〝偽者〟ばかりが評価される世界に虚しさを募らせていた。 もうダンジョン配信なんて辞めてしまおう──そう思っていた矢先、蒼真のクラスにひとりの美少女転校生が現れる。 「わたくし、魔王ですのよ」 そう自己紹介したこの玲瓏妖艶な美少女こそ、まさしく蒼真が異世界で倒した元魔王。 元魔王の彼女は風祭果凛(かざまつりかりん)と名乗り、どういうわけか蒼真の家に居候し始める。そして、とあるカップルのダンジョン配信を見て、こう言った。 「蒼真様とカップル配信がしてみたいですわ!」 果凛のこの一言で生まれた元勇者と元魔王によるダンジョン配信チャンネル『そまりんカップル』。 無敵×最強カップルによる〝本物〟の配信はネット内でたちまち大バズりし、徐々にその存在を世界へと知らしめていく。 これは、元勇者と元魔王がカップル配信者となってダンジョンを攻略していく成り上がりラブコメ配信譚──二人の未来を知るのは、視聴者(読者)のみ。 ※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

処理中です...