防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり

文字の大きさ
上 下
32 / 45

第32話 一皮むける為に

しおりを挟む

 森の中でチル達勇者パーティは幾度となく有象無象の魔獣達の襲撃を受けた。
 しかしある程度のランクの魔獣の襲撃はいずれも事前にネネコに察知されていたのでこれといった被害を受ける事もなかった。

 森の奥へ進むにつれ、大きな爪痕が刻まれた木々が視界に入ってくる。
 それは四人が鈺熊のテリトリーに侵入した事を意味していた。

 やがてネネコは前方に一際大きな邪悪な気配を感じ、チル達に木の陰に隠れるよう指示を出す。

「あれをご覧下さい」

 ネネコが指差す方向を見ると、50メートル程先に黄金色に輝く玉のような物体があった。
 それが身体を丸めて眠っている鈺熊だという事に気付くまで時間はかからなかった。

 四人はその状況を確認すると、円陣を組んで声を殺しながら作戦会議を行う。

「いいですか、危なくなったら無理をせず逃げますよ。いえ、むしろ今のあたし達の実力では勝てないと思いますので、ある程度のダメージを与えたら退却して次のチャンスを待ちます」

 猪突猛進的な性格だったチルだが、氷竜との戦いを経て戦略的撤退という概念を身に付けていた。

「それでは拙者が逃走ルートを確保するでござる」

 サギリは懐から取り出した不思議な形をした忍びの七つ道具と呼ばれるアイテムを使い、退却時に通る予定の道に落とし穴やくくり罠等のブービートラップを次々と設置していく。

 最後におまけで目ぼしい所にマキビシを撒いて準備完了だ。

「これだけ罠を設置しておけばあのクマさんもうかつに追いかけてこれないでござるよ」

「まるで狩人が獲物を捕まえる為の罠みたいですね。むしろ鈺熊が罠に掛かったところを袋叩きにした方が良いんじゃないですか?」

 しかしサギリが設置した罠はあくまで簡易的なものだ。
 並の獣ならともかく、鈺熊程の魔獣になれば僅かな時間足止めするのが精いっぱいだろう。

「逃げる途中に誤って罠に引っ掛からないように気をつけるでござるよ。簡易的とはいえ人間にとっては致命傷を負いかねない程危険な罠でござるので」

「き、気をつけます……」


「それでは皆さん準備はいいですか?」

 四人は眠っている鈺熊に気付かれないように風下からそっと近づく。

 20メートル、10メートル、5メートルと徐々に距離を縮め、ついには3メートル程の距離まで近づいたが鈺熊はすやすやと寝息を立てている。
 このまま一斉に攻撃を仕掛ければ易々仕留められるのではないかと錯覚をしてしまう程隙だらけだ。

 奇襲をするに当たって最も重要なのは最初の一撃だ。
 サクヤとネネコがそれぞれ呪文を詠唱し、チルの持つロングソードに炎と破邪の魔法を纏わせる。

 サギリは鈺熊が目を覚ました時にすぐさま撹乱する為に煙幕弾をその手に握って構える。


「行きます!」

 チルは躊躇いなく鈺熊の頭部にロングソードを振り下ろした。

「クウウウマアアアアアアア!!」

 突然頭部に激しい痛みを覚えた鈺熊は唸り声を上げながら周囲を見回すが、その時には既にサギリの煙幕弾によって視界は遮られていた。

 訳が分からずに混乱して暴れまわる鈺熊にサクヤとネネコが魔法で追撃をする。

「クマアアアアアアアアアアア!」

 魔法はまたも鈺熊の頭部に命中し、森中にその叫び声が響き渡る。
 どんな魔獣でも頭部を潰されては生きていられない。
 いや、倒せないまでもそのダメージは小さくないはず。

「みんな、一旦下がって!」

 煙幕が徐々に薄れてきたのでチルは仲間達に後退するよう指示し、自身も離れた位置から様子を伺う。

「クウウウウウウ……」

 鈺熊の唸り声はまだ聞こえている。

「クマさん、どうか今ので倒れていて……」

 そして煙幕が完全に晴れ鈺熊の状態が四人に明るみになった。

 鈺熊の頭部からは赤い血が流れ出ているのが見える。

 ダメージはあったが、致命傷には程遠い。


「クウウウマアアアアアアア!」

 自分を襲った四人の存在を視認した鈺熊は怒り狂い、まずは先頭にいたチルに向けて突進する。

「お姉様、撤退しますか!?」

「いえ、まだ早い! ぎりぎりまで粘るよ!」

 チルは鈺熊の振り下ろす爪をロングソードで受け流すとその側面に回り、鈺熊の脇腹を目掛けて剣を振るう。

 しかし分厚い毛皮に阻まれて全くダメージが通らない。

「チルさん、これ以上は無理です。早く撤退しましょう!」
「ここで無駄死にをしたら、先日助けてくれたクサナギさんに申し訳が立たないでござるよ!」

 ネネコとサギリはチルに撤退するよう呼びかけるが、その時チルは全く別の事を考えていた。

「どれだけ斬っても倒せない相手……丁度いいです!」

 チルはその場に踏み止まって鈺熊と正対する。

「クマアアアアアアアア!!!」

 鈺熊はチルに向けて執拗な攻撃を繰り返すが、チルは剣を巧みに操ってそれを受け流し続ける。

 しかし全てを受け流し続けられるはずもなく、徐々に鈺熊の爪がチルの身体を掠め始める。
 その頃にはチルは反撃の一撃を振るう余裕もなく完全に防戦一方となっていた。

「サクヤ殿、チル殿はどうして逃げないのでござるか?」
「チルさんの攻撃では鈺熊にダメージが通りません。致命傷を受ける前に退かないと……」

 鮮血が飛び散る度にネネコとサギリは気が気でないと言った様子で慌てふためいている。
 一方のサクヤはそんな姉と鈺熊を落ち着き払いながら眺めていた。

「1、2、3……このタイミングかな? ……グレンファイア!」

 サクヤの放った爆炎の弾を左足に受けたは鈺熊はバランスを崩す。

「サクヤナイス!」

 その隙にチルはロングソードを鈺熊の首筋に突き立てる。

「クマアアアアアアアアアアア!」

 鈺熊はその一撃で悲鳴を上げるが、やはり分厚い毛皮に阻まれて致命傷は与えられなかった。

「サクヤ殿、やっぱり無理でござるよ。早く撤退を……」

「サギリさん、ネネコさん、お姉様と鈺熊の動きをよく見ていて下さい。私達は隙をついて援護射撃を行いますよ。タイミングは身体で覚えて下さい」

「サクヤさん、私達が援護をしたところで鈺熊にはほとんどダメージを与えられませんよ?」

 あたふたしながら撤退を主張するネネコとサギリに対して、サクヤはあくまで落ち着いた表情のまま答えた。

「お姉様は今ここで鈺熊を倒すつもりは全くありませんよ。あれは実戦訓練をしているんです」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

俺の畑は魔境じゃありませんので~Fランクスキル「手加減」を使ったら最強二人が押しかけてきた~

うみ
ファンタジー
「俺は畑を耕したいだけなんだ!」  冒険者稼業でお金をためて、いざ憧れの一軒家で畑を耕そうとしたらとんでもないことになった。  あれやこれやあって、最強の二人が俺の家に住み着くことになってしまったんだよ。  見た目こそ愛らしい少女と凛とした女の子なんだけど……人って強けりゃいいってもんじゃないんだ。    雑草を抜くのを手伝うといった魔族の少女は、 「いくよー。開け地獄の門。アルティメット・フレア」  と土地ごと灼熱の大地に変えようとしやがる。  一方で、女騎士も似たようなもんだ。 「オーバードライブマジック。全ての闇よ滅せ。ホーリースラッシュ」  こっちはこっちで何もかもを消滅させ更地に変えようとするし!    使えないと思っていたFランクスキル「手加減」で彼女達の力を相殺できるからいいものの……一歩間違えれば俺の農地(予定)は人外魔境になってしまう。  もう一度言う、俺は最強やら名誉なんかには一切興味がない。    ただ、畑を耕し、収穫したいだけなんだ!

おっさん付与術師の冒険指導 ~パーティーを追放された俺は、ギルドに頼まれて新米冒険者のアドバイザーをすることになりました~

日之影ソラ
ファンタジー
 十年前――  世界は平和だった。  多くの種族が助け合いながら街を、国を造り上げ、繁栄を築いていた。  誰もが思っただろう。  心地良いひと時が、永遠に続けばいいと。  何の根拠もなく、続いてくれるのだろうと…… ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  付与術師としてパーティーに貢献していたシオン。  十年以上冒険者を続けているベテランの彼も、今年で三十歳を迎える。  そんなある日、リーダーのロイから突然のクビを言い渡されてしまう。 「シオンさん、悪いんだけどあんたは今日でクビだ」 「クビ?」 「ああ。もう俺たちにあんたみたいなおっさんは必要ない」  めちゃくちゃな理由でクビになってしまったシオンだが、これが初めてというわけではなかった。  彼は新たな雇い先を探して、旧友であるギルドマスターの元を尋ねる。  そこでシオンは、新米冒険者のアドバイザーにならないかと提案されるのだった。    一方、彼を失ったパーティーは、以前のように猛威を振るえなくなっていた。  順風満帆に見えた日々も、いつしか陰りが見えて……

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

処理中です...