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第29話 極寒の地でも構わず脱がせてみました

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 約一ヶ月に渡る魔獣討伐とバトルトーナメントの経験でチルとサクヤは冒険者として目覚ましい成長を遂げていた。
 新国王ムスヒからも正式に勇者と認められ、氷竜といえど魔獣如きに後れを取るはずはないと驕り高ぶっていた事は否めない。

 だが彼女達が魔獣とやり合えたのはあくまでクサナギのガードレスによるサポートがあったおかげだと身の程を思い知らされる事になった。

 呆然と立ち尽くすチルに容赦なく氷竜が襲い掛かってくる。

「お姉様、氷竜が来ます! 退いて下さい!」

「退く……逃げる……?」

 サクヤの一声でハッと我に返ったチルは、すんでのところで氷竜の牙をかわして後方へ飛び下がる。

「さあ早く! 一旦王都まで戻って対策を練りましょう」

 しかしチルは氷竜を見据えながら踏み止まる。

「あたしは勇者として国民の期待を背負ってここに来ているんです! 絶対に退けない!」

「お姉様。今の私達では氷竜は倒せません! 勇気と無謀は違いますよ!」

「でもこんな危険な魔獣は今ここで叩いておかないと付近の町に被害が……」

「ギャルルルルルァァ!」

 氷竜は大口を開け、チルを一飲みにしようと迫ってくる。
 それを見てチルはひとつの策を思いついた。

「サクヤ、ネネコさん、ひとつ試してみたい事があります。もう一度魔法をお願い!」

「分かりました。……上級燃焼魔法グレンファイア!」

「チルさん、頼みます! ……破邪魔法サンクタスルクス!」

 炎と破邪の魔法を纏ったチルの剣は再び真っ白な光に包まれる。

「ここよ!」

 氷竜の口がチルを飲み込もうとしたその瞬間、チルはその口の中にロングソードを突き刺した。


「ギュワアアアアアアアアアア!!!」

 氷竜は苦しそうに悲鳴を上げながらのた打ち回る。

「はぁはぁ……いくら硬い鱗を持つ竜でも口の中には鱗は生えていませんからね」

「チルさん、上手くいったからいいものの無茶をし過ぎですわよ。一歩間違えれば今頃氷竜の胃袋の中ですわ」

「まあお姉様が無茶をするのはいつもの事ですからね。それでは氷竜に止めを刺して首を持ち帰りましょう」

「解体なら拙者が得意でござるよ」

 四人はゆっくりと氷竜に近付く。

 氷竜はもがき苦しみ続けているが、一向に力尽きる気配がない。
 それどころか逆に落ち着きを取り戻し、元気になっていく。

「これは……この谷の冷気が氷竜の傷を癒しているのですわ!」

「何ですって? じゃあ完全に回復する前にもう一度口の中に食らわせてやりましょう!」

「はい、お姉様!」
「何度でもお付き合いしますわ」

 チルは三度みたびロングソードに炎と破邪の魔法を纏わせると、氷竜の顔の前で剣を構える。

 氷竜が目の前で剣をチラつかせるチルに苛つき口を開けた瞬間、チルはその口の中に剣を突き刺す。

「ギュルルルアアアアアアアア!」

「!?」

 氷竜はチルを噛みつこうとしたのではなかった。
 氷竜の口から吐き出された冷気は一瞬にしてチルの剣が纏っていた炎をかき消した。

 完全に戦法を破られたチルは浮足立つ。

「そんな……みんな早くここから逃げて!」

「お姉様はどうするつもりですか!?」

「あたしはここで少しでも長くこいつを食い止めます! あなた達はその間に逃げて!」

 そう言って氷竜の前に立ちはだかるチルに向けて、氷竜は容赦なく冷気を吐き出す。

「お姉様だけを死なせはしません! ……グレンファイア!」
「忍びの道とは死ぬことと見つけたりでござるよ! 忍法火遁の術!」
「最後まで諦めないで! いでよ、聖なる結界ホーリーウォール!」

 サクヤ、ネネコ、サギリの三人は逃げる事を拒否し、氷竜の吐き出す冷気を打ち消そうと持てる全ての力を注ぐ。

「みんな、どうして!?」

「私達だってもう勇者パーティの一員なんですよ!」
「やれるところまでやって見せますわ」

 しかし力の差は歴然。
 彼女達の命を懸けた抵抗も空しく四人の身体は瞬く間に氷に覆われていく。

「みんなごめんね、私が頼りないばかりにこんな事になってしまって……お父様、お母様、約束を守れなかった……クサナギさん今までありがとう……」

 薄れゆく意識の中、チルの脳裏に最後に浮かんだのはクサナギと過ごした冒険の日々だった。

 四人が氷の彫像と化した事を見届けた氷竜は、確実な止めを刺す為にその大きな尻尾を振り上げた。

 そしてそれが四人の頭上に振り下ろされた瞬間──

 パァン!

 ──という破裂音と共に、四人の体を包んでいた氷が粉々に砕け散った。






「ふう、間一髪だったな」

「え……この声は……クサナギさん? どうしてここに……?」

「話は後だ。すぐ終わるからじっとしてろ」

 クサナギは氷竜の前に進み出ると、おもむろに足元の氷の破片を拾い上げる。

「一体何を……あっ」

 氷竜に視線を移すとその身体は青白い光に包まれていた。
 既にガードレスの魔法がかかっている証拠だ。

 クサナギが拾った氷を氷竜に投げつけると、それが命中した頭部が粉々にはじけ飛んだ。
 頭部を失った氷竜は断末魔の悲鳴を上げる暇もなく地響きと共に崩れ落ちる。

 クサナギはチル達の方を振り返ると手を差し伸べて言う。

「終わったよ。皆よく頑張ったな」

「うう……クサナギさん!」
「来てくれたんですね!」

 チルとサクヤは安堵の涙で顔をくしゃくしゃにしながら思わずクサナギに抱きついた。
 一方のクサナギはそんな二人から目を逸らしながら言った。

「とりあえず服を着てくれないか」
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