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第10話 俺を呼び戻そうとしてももう遅い
しおりを挟む「やれやれ、また失敗か」
「ククク、やはり貴殿には荷が重すぎたようですな」
ゴーレム討伐失敗の報告の為に王宮へ戻ったヤマト達を待っていたのは、王侯貴族達の憐みの目と嘲笑だった。
謁見の間にてヒノト王国の国王ラマロに跪く勇者パーティの前に、王位継承順位第一位の座にいるタカミ王子が歩み出て意見を述べる。
「父上、国民達は度重なる魔物討伐の失敗により、勇者による魔物の討伐のシステムに疑問を持ち始めています。やはりこれ以上この者達に魔物の討伐の任務を与える事はできません。幸いこの国には冒険者ギルドなる組織もあり、有望な若者が大勢おります。この上は彼の者の勇者の称号を剥奪し、新たに勇者となる者を選別するべきかと」
聡明で容姿端麗なタカミ王子は民衆からの人気も高く、王国の未来を担う人物として皆の期待を一身に背負っている。
タカミ王子の意見に、ラマロ陛下は「うむ」と頷く。
それはヤマトにとっては死刑にも等しい宣告だった。
公爵家の二男であったヤマトは、幼少から何不自由ない暮らしをしてきた。
両親から甘やかされて育てられたヤマトは我儘で自己中心的な青年に成長し、いつも周囲とトラブルを起こしていた。
しかしそれなりに武術の才能だけはあったので、両親は公爵家という立場を利用して有力貴族達に根回しをし、ヤマトを王国の勇者として送り出す事に成功する。
勇者とは王国の代表として公的に魔獣の討伐を行う者に与えられる称号である。
勇者となった者には多大なる名誉と、国内の施設やサービスを全て無料で利用できるなどの特典が与えられる。
しかしもしヤマトが勇者の称号を剥奪されたとしたらどうなるだろうか。
公爵家としては家名に泥を塗ったヤマトを快く迎え入れてはくれないだろう。
最悪の場合公爵家から勘当されてもおかしくはない。
そうなると戦う事しか能がないヤマトは冒険者にでもなって日々クエストをこなしていく生活をするのが関の山だが、今まで勇者として国中から持て囃されてきたヤマトには、ただの冒険者として生きていく事に我慢できるはずもない。
ヤマトの悪友同士だったタケルとミコトも同じような立場だ。
影響がないのが元々冒険者だった魔法使いイザナミだけだ。
「俺が悪いんじゃない。これは全てこいつらが弱いせいだ」
ヤマトは自分の非を認める事ができずに内心で仲間達を罵倒するが、いかにヤマトといえども陛下の決定には逆らえずに歯ぎしりをするばかりだ。
しかしそんなヤマトに救いの手を差し伸べる者がいた。
「父上、お待ち下さい」
第二王子のムスヒが玉座の前に歩み出て意見を述べる。
「確かに兄上の言う通りここしばらくヤマト達は任務の失敗が続いています。しかし、他の者を勇者に任命したとして、その者がヤマトよりも優れているという保証はありませぬ」
「ふむ……」
兄タカミ程ではないがムスヒ王子も世間からは聡明な人物と評価されている。
庶子の為に王位継承順位は低いが日頃からその言動には野心が見え隠れしており、何かと兄と張りあっている。
ラマロ陛下は白い顎鬚を撫でながら思考を巡らし、ムスヒ王子に問う。
「ではムスヒよ、お主の考えを申してみよ」
「はっ、ヤマト達を含め、王国全土から腕に覚えのある者達を集めて、王国内で最も強いパーティを決める事を目的としたバトルトーナメントを開催するのです。そして優勝したパーティのリーダーを勇者に、その仲間達を勇者パーティと定めれば誰も文句は言いますまい。もちろん大会参加に際して勇者候補にふさわしい人格者かどうかの身辺調査は徹底致します」
「ふむ。確かにそれも一理あるな。あいわかった。ムスヒよ、この件についてはお主に一任する。思うようにやってみよ」
「はっ」
ムスヒ王子はラマロ陛下に一礼して謁見の間を後にする。
ヤマト達は彼の真意を測りかねているが、これによって彼らは首の皮一枚繋がった事になる。
「ヤマトよ話は聞いたな。今後も勇者パーティとして活動をしたいのならば見事バトルトーナメントで優勝してみせよ」
「ははっ、必ずや優勝し、我こそが勇者の称号を得るに相応しい人間であると証明して御覧に入れます」
ヤマト達はラマロ陛下に平伏し、謁見の間から退出した。
◇◇◇◇
勇者となった者には王宮内に一室が与えられる。
その部屋に戻ったヤマト達は、早速バトルトーナメント優勝に向けての作戦会議を始める。
「俺達にはもう後がない。これが本当に最後のチャンスだぞ! お前ら分かってるだろうな!」
「しかしヤマト、冒険者ギルドにはとんでもなく強い連中がいるって話だぜ」
「わ、私は回復魔法しか使えないからね。あんた達で頑張りなさいよ」
「ちっ、こうなったら親父に色々と裏から手を回して貰うか……」
「そうだな、俺もちょっと当たってみる」
いや、これは会議と呼べるものではない。
ただの悪巧みだ。
そんな彼らをイザナミは冷めた目で見ていた。
正直なところイザナミはこのパーティには何の愛着も持っていない。
今更ヤマト達の身がどうなろうと自分にはどうでもいい話だ。
「おいイザナミ、自分は関係ないって顔してんじゃねえよ。俺達の輝かしい未来がかかってるんだぞ」
何が俺達の未来だ、自分の身が可愛いだけだろうとイザナミは内心で呆れ果てる。
「ねえ、こうなったらもうクサナギを呼び戻そうよ。あいつのガードレスがあれば他の冒険者達なんかには負けないよ」
「あいつか……今何をやってるんだ?」
「確か最近ワークスの領主の屋敷によく出入りしてるって話だぜ。どうするヤマト?」
一度役立たずと追放した仲間を呼び戻す事はヤマト達にとっては屈辱以外の何物でもないが、背に腹は代えられない。
ヤマトとタケルは恥を忍んでミコトの提案に乗り、ワークスの領主ヤマツミ伯爵宛にクサナギを王都に呼び寄せるよう要請書を送った。
しかしいつまで経ってもその返事が戻ってくる事はなかった。
そうしている間にバトルトーナメントの開催日が決定し、その知らせは瞬く間に王国全土に伝えられた。
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