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第4話 美少女姉妹が山に迷い込んできました
しおりを挟む「酷いなあ、この柱も腐りかけてる。クサナギの兄貴、よくもまあこんなボロボロの廃屋で半年も寝泊まりしてきましたね」
「雨露さえ凌げればそれでよかったからね」
「この村の家屋を全部建て直しちゃいましょうよ。さあ野郎ども、木材を集めろ!」
「へい、セイガンの兄貴!」
トモエには約五百人の子分がおり、多種多様な人材が揃っている。
今子分達を率いて村の外へ木材の調達に向かったセイガンというがっちりとした体格の若者は、山賊に身を落とす前は王都で大工の棟梁をしていたそうだ。
彼の指揮によって日々新たに家屋や施設が建築され、廃村だったこの場所は僅かの間に見違えるように立派な村に発展していった。
その後も俺は火焔山で魔法の修行をする毎日を続ける。
俺は修行の中で一度の呪文の詠唱でガードレスの重ね掛けを行う事ができるように成長していた。
これは既にガードレスとは一線を画す強力な魔法だ。
俺はこの魔法をクロースレスと名付け、呼び分ける事にした。
トモエ達はしばしば悪徳貴族の屋敷を襲撃して奪い取った金銀財宝を貧しい民衆達に配っているようだが、俺は見て見ぬふりをし、当然戦利品の受け取りも拒否をする。
山賊団のボスとして持ち上げられていたとしても俺自身は山賊じゃないからね。
もし王国から山賊の討伐軍が派遣されてきても知らぬ存ぜぬを通そうと思う。
……いや、さすがにそれは苦しいか?
まあその時はその時だ。
そんなある日、山中の見回りを担当しているジセンという男が顔中を煤だらけにして村の中に逃げ帰ってきた。
「クサナギの兄貴大変だ! けほっけほっ」
「どうしたんだ? まずは落ち着いて……」
ジセンは俺が出したコップの水を一気に飲み干して息を整えた後話を続ける。
「兄貴、火竜が……火竜が山の麓で暴れまわっています!」
「火竜が? そんな馬鹿な……」
火竜が生きているはずはない。
その死骸を解体したのは俺だ。
今頃各部位が武器や防具に生まれ変わって店頭に並んでいるはずだ。
あの状態ではドラゴンゾンビとなって蘇る可能性も万に一つもない。
「と、とにかく来て下さい! 今はトモエの姐御も出かけてるし、頼りになるのはクサナギの兄貴だけなんですよ」
「お、おい……引っ張るなよ」
俺はジセンに連れられて火竜が現れたという山の麓付近へ向かった。
「兄貴、あそこです」
崖の上からジセンが指を差す方向を見ると、灰色の鱗に包まれた三メートル程の大きさの竜が火を吹きながら暴れまわっているのが見えた。
しかしそれは俺達が仕留めた火竜よりもひと回り程小さく、その口から吐きだされている火の勢いも弱い。
どう見ても俺達が仕留めた火竜とは別の個体だ。
「ジセン、あれは火竜じゃないよ。ただの野良竜だ。火竜はあれよりも一回り大きくて身体中が深紅の鱗に覆われている」
「兄貴、そんな事より早くあれを何とかして下さい。このままでは山火事になってしまいます」
ジセンはそう言って俺を急かすが、俺の得意とするガードレスの魔法は相手の防御力を下げる効果しかない。
そこから更に物理攻撃を加える必要がある。
いくら以前討伐した火竜よりも弱い個体とはいえ、俺とジセンの二人では倒す自信がないな。
もう少し人手が必要だ。
「ジセン、俺はここで奴を監視しているから仲間を連れてきてくれ」
「合点です!」
ジセンは元々盗人稼業をしていただけあって逃げ足が早い。
伝令役にはうってつけだ。
俺はジセンが仲間を呼んでくるまでの間、崖の上から竜の様子を伺う。
「うん? 誰かいるぞ……」
その時火竜の前に立ち竦む二人の人影が俺の目に飛び込んできた。
「この山の火竜は退治されたって聞いてたのにどうして……サクヤ、ここはあたしに任せて早く逃げて!」
「嫌です、お姉様を置いて行くなんてできません!」
「ここで二人ともやられたら元も子もないでしょう!」
「でも……」
風に乗って聞こえてくる二人の会話を聞く限りでは彼女達は姉妹のようだ。
一人は黒い髪をサイドテールに結んだ少女で、革製の鎧を身に纏っている。
手に持っているロングソードから、剣士だという事が分かる。
もう一人は桃色の長い髪をした少女で、漆黒のローブを身に纏っている。
恐らく俺と同じ魔法使いだろう。
どう見ても山賊団の人間ではないな。
「こっちに来ないで!」
少女剣士は勇敢にも迫り来る野良竜に立ち向かい、その首にロングソードを振り下ろすが彼女の剣はいとも容易く弾き返された。
野良竜とはいえその鱗は硬い。
並大抵の武器では傷ひとつつける事はできないだろう。
それを見た魔法使いの少女は手にした杖をかざして呪文の詠唱を始める。
「フローズンウィンド!」
少女が呪文の詠唱を終えると杖の先から吹雪が噴出して竜を包み込む。
「お姉様、私が足止めをしている間に逃げて下さい!」
しかしそんな少女の頑張りも空しく、吹雪は竜の吐き出す炎によって一瞬で蒸発した。
「そ、そんな……」
野良とはいえ立派な竜だ。
あんな少女達だけで歯が立つはずがない。
打つ手をなくした二人の少女は蛇に睨まれた蛙のように固まっている。
このまま彼女達を見捨てる訳にはいかないな。
「お前達諦めるな! ……ガードレス!」
俺は崖を駈け下りながら野良竜に向けてガードレスの呪文を詠唱する。
次の瞬間、ガードレスの魔法が掛かった竜の身体が青白く輝く。
「えっ、何!? あ……あなたは?」
「話は後だ。そこの剣士、もう一度その剣で竜の首を斬れ! 今なら刃が通るはずだ」
「は、はい!」
青白く光る竜の身体を見た少女剣士は竜に何らかの弱体化が掛けられた事を理解し、無我夢中で竜に斬りかかる。
剣先は竜の首筋を掠め、その傷口から鮮血が飛び散った。
「刃が通った!? これならいけそうです!」
少女剣士は剣を構え直し、再び竜の首を目掛けて斬りかかる。
「うかつに飛び込んだら駄目だ……危ない!」
少女剣士の剣が竜の首を切断したと同時に、野良竜の最後の足掻きとも思われる灼熱の炎が二人の少女目掛けて吐き出された。
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