防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり

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第2話 招かざる客がやってきました

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 俺は魔獣達の襲撃を警戒しながら山の麓へ向かって歩き出す。
 しかし魔獣達は遠巻きに俺の様子を伺っているだけで襲ってくる気配はなかった。
 仮にも俺はこの火焔山の主だった火竜を討伐した勇者パーティの一人だったので魔獣達が警戒するのも当然だったかも知れない。

 それはそれで好都合だ。
 俺はパーティから追放された身だ。
 急いで王都へ帰る必要もない。
 しばらくここでのんびりするのも悪くないだろう。

 そういえばこの火焔山には火竜が現れる前はいくつかの村があったはずだ。
 俺は火竜討伐に向かう前に確認したこの付近の地図の記憶を頼りに足を進める。

 一時間程彷徨った頃、俺の目の前に小さな廃村が現れた。
 既に村人の姿はないが、村の中にはまだ倒壊していない家屋もいくつかある。

 俺はその内の一つの中に入り休息をする。

「これからどうしよう」

 俺はこの家屋で少し休息を取った後、散歩がてらこの村の周りを見て回る事にした。

 村のすぐ傍には澄み切った川が流れている。
 これで飲み水の心配はない。
 川の中を覗いてみると活きの良い魚が泳いでいるのが見えた。
 後で竿を作って釣りをするのも悪くないな。

 放棄された畑を確認すると、まばらだが野菜が生えているのも見えた。
 これなら当面食べていく分には問題はなさそうだ。

 村の外れにはハーブ園の跡もあり、そこには当時の村人が植えたのであろう様々な種類の薬草が生息していた。
 特にこの燃える炎のような形をした薬草はファイアリーフといって万病に効くといわれ、この火焔山の環境でしか育たないといわれる貴重なものだ。
 これがあれば怪我をしても直ぐに治療ができる。

 俺は畑とハーブ園を整備して野菜や薬草を栽培する事にした。

 このままここで世捨て人のようにスローライフをエンジョイするのもいいが、ツクヨミ師匠の事を悪く言われたまま引き下がるのは癪だ。

 俺はツクヨミ師匠からは防御力を下げる魔法しか教わっていないが──

「使える魔法が多ければいいという事ではない。ひとつだけでもそれを極めればそれはお前にとって唯一無二の強力な武器になる」

 ──と師匠はいつも言っていた。

 幸い時間は沢山ある。
 折角だから俺はこの村を拠点にして修行を積み、師匠の教えに従ってガードレスの魔法を極めてみる事にした。



◇◇◇◇



 俺が火焔山の廃村で暮らすようになって半年ほどの月日が流れた。
 今日も朝から魔法の修練を行っていると、村の外から誰かの話し声が聞こえてきた。

「中々いい所じゃないか。火竜が縄張りにしていたっていうのも納得だね」

「へい、火竜がいた頃は誰もこの山に足を踏み入れられませんでしたからね。まさに勇者様様ですぜ」

「よし気に入った。今日からこの山をあたいらのねぐらにするよ」

「へい姐御!」

 声のする方向を見るとそこには値踏みでもするかのように周囲を見回しながらこちらに向かってくる一団の姿があった。

 こんな所に来客なんて珍しい。
 しかしまっとうな人間には見えないな。

「あのう、どちら様ですか?」

 俺は魔法の修行を休止して一団に歩み寄り声をかけると、この一団のリーダーらしき長い赤髪の美女が驚いたように目を見開いて言った。

「ありゃ? 人が住んでいたのかい?」

「はい。訳を話すと長くなりますが、半年前からここで生活をしています」

「へえ、もの好きな奴もいるもんだね。……まああたいらも人の事は言えないけどさ」

 赤髪の美女は俺に憐れむような視線を向けて言葉を続ける。

「お兄さん。あんたがどこの誰かは知らないけど、今日からこの山はあたいらのねぐらになったのさ。さっさと荷物を纏めてここから出ていきな」

「ねぐら? あんた山賊か?」

「見りゃ分かるだろ。天地を揺るがす混世魔王、トモエ様とはあたいの事だよ」

「山賊トモエ……ああ、あんたがそうなのか」

 最近辺境で勢力を伸ばしてきたというトモエ山賊団の名前は俺も耳にした事がある。
 増え続ける子分を養う為に、天然の要塞といわれるこの火焔山に引っ越してきたという事だろう。

 しかし出て行けと言われて素直に出て行く程俺はお人好しでもなければヘタレでもない。
 それに俺は今までの修行の成果を試してみたくなった。

 俺はトモエを睨みつけて言った。

「もし断ったら?」

「は……何だって?」

 俺のような小僧に断られるとは微塵も思っていなかったようで、トモエはきょとんとしている。

「このガキが、トモエの姐御が命だけは助けてやるって言ってんだよ。怪我をする前にさっさとどこかへ行け」

「待ちな。この生意気な坊やはあたいが躾けてやる。あんたらは手を出すんじゃないよ」

「はい、姐御」

 トモエは騒ぎ立てる子分を手で制すると、木刀を手にして俺に突き付ける。

「馬鹿なガキだな。素直に出ていけばよかったものを」
「トモエの姐御を怒らせて無事でいられた奴はいねえぜ」
「姐御、かっこいいっス!」
「こんな生意気なガキ、コテンパンにしてやって下さい!」

「あいよ!」

 トモエは手を振って子分達の声援に応える。
 俺の事を完全にただの村人と思って舐めているようだ。

「安心しな、殺しゃしないさ。ただちょいと痛い目を見てもらうよ!」

 トモエは俺のみぞおちを目掛けて突きを入れるが、俺にはずっと勇者パーティの一員として凶悪な魔物達と戦ってきた経験がある。
 俺は最小限の動きでその突きをかわしてみせると、トモエは意外そうに目を見開く。

「へえ、今のを避けるのかい。じゃあ少し本気を出させてもらうよ」

 トモエは木刀を振るって俺を引っ叩こうとするが、俺は身を捻ってそれをかわし続ける。

「ちっ、すばしっこい奴だね。このっ、このっ!」

 徐々にトモエの表情から余裕がなくなっていく。

「小僧、逃げてばかりじゃねえか!」
「正々堂々と戦え!」

 子分達の野次が飛び交うが俺は手ぶらで武器を持っていないんだぞ。
 どっちが正々堂々だよ。

 何か武器になりそうなものはないかな?
 俺は攻撃を避けながら辺りを見回す。

「……この際これでいいか」

 俺は地面に落ちていた小枝を拾い上げると一旦トモエから距離を取り、呪文の詠唱を始める。

「……ガードレス!」

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