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第57話 詫び石

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「マール、それであなたは私に何のご用ですか? 私がここに来るのを待っていたようですが」

「はい、姫様にはいろいろと伺いたい事があります。その前に、お姿を現して頂く事はできますか? 透明なままではお話がし辛いもので」

 話し辛いというのは本当だが、本当の狙いは彼女が自分の意思でどれだけバグを制御できるかの確認だ。

「透明? ああ、またこうなっていましたか。いいでしょう」

 シンディア姫がそう言った直後に彼女にいた場所が眩い光を放つ。
 光が収まった時にはシンディア姫の姿がはっきりと見えていた。

 予想通りだ。
 シンディア姫は自分の意思である程度バグを操る事ができる。

 それにしてもパジャマ姿のシンディア姫は何というかこう……理性が吹き飛びそうな程の凄まじい色気を放っているな。
 とても直視できない。

 俺はシンディア姫から僅かに視線を逸らしながら話を続ける。

「姫様も俺のようにある程度のを使いこなせるようですね。どうやって覚えたんですか?」

「呪術……かどうかは分かりませんが、昔から私の周りではおかしな事がよく起こります。その原因を知りたくて色々と試していたらその内ある程度は制御できるようになりましたわ」

「そうでしたか」

 彼女なりに独自でを頑張ってきたんだろうな。

 そろそろ本題に入ろう。

「姫様、こちらの女の子をご覧下さい」

 俺は後ろを向き背中で眠っているユフィーアをシンディア姫に見せる。

「可愛い女の子ですね。マールの子供ですか?」

「違います、ユフィーアです! 昨日姫様と接触した後にこうなってしまったんですよ」

「ああ、そういう事ですか。ごめんなさい、どうやら巻き込んでしまったようですね」

 周りを巻き込む自覚があるなら自室に籠って外出を控えてもらいたいものだ。

 ……いや、彼女の意思とは無関係に転移のバグが発生するのならそれを言うのは筋違いか。
 恨むならこんなバグキャラを作りだしたメーカーを恨もう。

「それで、ユフィーアを戻す事はできますか?」

「無理ですわ」

 即答か。

「でも、戻せる可能性はあります」

「何かご存じなんですか?」

「マールはアポロジーストーンという鉱石はご存知かしら?」

「はい。一つだけ願いをかなえる事ができるという不思議な鉱石ですよね」

 アポロジーストーンは、ファンタシー・オブ・ザ・ウィンドの発売直後にあまりにもバグが多発した為に、メーカーが全てのプレイヤーにお詫びとして配布したアイテムだ。

 このアイテムと引き換えに、貴重なアイテムを手に入れたり、所持できるアイテムの枠を増やしたり、パラメータを強化したりと、様々な特典を得る事ができる。

 俺も原作ではアポロジーストーンと交換した特別なメイド服を仲間に着せて遊んでいたものだ。

 ちなみにアポロジーストーンはこの世界では創造神の力が宿っている不思議な鉱石という設定になっている。

 なるほど、アポロジーストーンを使えばユフィーアの年齢データを操作して元の年齢に戻す事もできるかも知れないな。

 しかし問題はそれをどうやって入手するかだ。
 恐らく原作の主人公枠である八人のキャラクターがひとつずつ持っていたはずだが、この手のアイテムは通常ゲーム開始直後に使用する。
 もうこの世界には残っていないのではないか。

 いや、待てよ。シンディア姫はどうしてこのアイテムの事を知っているんだろう。
 ひょっとすると姫様が一つ持っていたりするんだろうか?

「アポロジーストーンはこの世に数えるほどしか存在しない貴重な鉱石です。姫様はどこでそれを知ったんですか?」

「以前聖女だった頃のヘステリアに私の身の回りで起きる現象について相談した事があったのですが、その時にアポロジーストーンの事を聞きました」

 『見た』のではなく『聞いた』という事は、既にヘステリアもこのアイテムは使用済みで所持していないという事だ。

「すると昨日姫様が俺のダイヤモンドゴーレムの破片をご覧になっていたのは……」

「ええ、私もアポロジーストーンという物を探しているのですわ。それがあれば私のこのも解けるかもしれませんから。呪術について詳しいあなたならもしやと思ったのですが……」

「なるほど……解けるといいですね」

 姫様には気の毒だが、恐らくアポロジーストーンを手に入れてもシンディア姫のバグは直らない。
 メーカーがバグを直してくれる日を待つしかないだろうな。

「分かりました。俺もアポロジーストーンを探してみます」

「ユフィーアさんについては私に原因があるので私を優先しろとは言いませんが、もし二つ見つかったらひとつ譲って頂けますか?」

「それは勿論です。それから、さっき姫様に近付いてしまった俺の仲間の三人が消えてしまったんですけど、どこへ行ったか分かりますか?」

「それならばきっと王都内のどこかですわ。そのうちひょっこり戻ってくると思いますよ」

「分かりました。姫様、貴重なお時間を頂き、有難うございました」

「それでは御機嫌よう」

 姫様の身体が光り輝いたかと思うと、次の瞬間にはその場から消えていた。
 転移のバグを利用して王宮の自室に帰ったのだろう。

 ある意味俺よりもバグを使いこなしてるな。

 一方の俺は宿まで徒歩で帰るしかない。
 護衛の三人がどこかへ行ってしまった今、ならず者に襲われたら大変だ。
 俺は逃げるように駆け足でその場から離れた。



◇◇◇◇



 翌日、冒険者ギルド内で待っていると昨日行方不明になっていた三人がふらっと現れた。

「お前達どこに行ってたんだ?」

「それが俺にもよく分からないんだけどよ……」

 話を聞くと、弓使いのリングゥは気が付いたら街路樹の上に引っ掛かっていたそうだ。
 戦士のガルーシは王国歌劇団の更衣室の中で目が覚め、危うく変質者として捕まるところだったらしい。

 マスターモンクのヤンゼルは墓地に飛ばされた。
 上半身だけが地面から出ている状態で気を失っていた為にゾンビと勘違いされ、通りがかりのプリーストに浄化魔法をかけられたり聖水を掛けられたりと散々な目に遭ったそうだ。


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