上 下
54 / 72

第54話 バグり姫

しおりを挟む
 今日はダイヤモンドゴーレム討伐のクエストで王都の北西にある鉱山に来ていた。

 ダイヤモンドゴーレムはその名の通りダイヤモンドの硬度を誇る魔法生物だ。
 並の攻撃力ではダメージが通らない為、このクエストを受注できるのはS級以上の冒険者パーティだけに制限されている。

 もちろん俺の攻撃力ではかすり傷すら与えられないので、岩陰に身を隠しながらユフィーアに丸投げをする。

「ユフィーア、右から来るぞ!」

「了解ですマール様。てりゃーっ!」

 ユフィーアが右から飛びかかってきたダイヤモンドゴーレムに剣を突き刺すと、剣先から衝撃波が発生してゴーレムの身体は内部から弾け飛んだ。

 ユフィーアが魔法を使った訳ではない。
 これはユフィーアが今装備している息吹の剣の追加効果だ。

 そもそもダイヤモンドすら豆腐のように切り裂くその切れ味の時点でおかしい。
 オーバーキルにも程がある。

「本当に凄い武器ですねこれ。どんな原理で衝撃波が発生するんでしょう?」

 ユフィーアは俺に問いかけるが、俺も原理はよく分からない。
 恐らく剣の内部に衝撃波を発生させる魔道具でも組み込まれているのだろう。

 本当に古代文明の技術とやらには驚かされる。

 この武器を手に入れたのは一週間ほど前の事だ。



 リーディアを王都へ連れ帰った後、俺とユフィーアは開拓村を訪れた。
 発展状況を確認する為だ。

 ヴェパルさんが精力的に商人と技術者の勧誘を行ってくれるおかげで、村には巨大な商会と工房が出来上がっていた。

 しかしそれは俺が原作ファンタシー・オブ・ザ・ウィンドで見た商人の町や工房の町とは全く異なる発展をしていた。

 コロッセオのすぐ隣に巨大なショッピングセンターが建っており、試合を観戦した後に買い物や食事をする事ができるようになっている。
 そこで売られている商品はショッピングセンターの地下に作られた巨大な工場で生産されている。

 シンドルフ村長に頼んで工場の見学をさせてもらうと、内部にはベルトコンベアーやフォークリフト等の前世で見覚えがある機械が沢山配備されていた。

 リリエーンの記憶を元に古代の技術を再現したものらしい。

 俺とユフィーアが特に興味を持ったのは古代の技術で作られた武器と防具だ。
 古代の文明ではただ斬れるだけの剣や身を守るだけの鎧は消費者から見向きもされなかったそうで、技術者達は様々な追加機能を付加する事で差別化を図った。

 斬った敵を凍らせたり燃やしたりする剣や、攻撃をした相手にダメージを返す鎧、アイテムとして使用するとHPが回復する盾や、ソーシャルゲームがインストールされている遠距離通話魔道具など色々なアイテムが作られたという。

 当時の完全再現とまではいかないが、今の開拓村はそれに近い武器を製造できるまで技術が発展していた。

 さしあたって俺は少しでも敵にやられにくくなるように、装備していると防御力がアップするガーディアンソードや、回避率が上がる転脱の服、運の良さが上がるラッキーヘルム等を購入した。

 ユフィーアは斬った相手に追加ダメージを与える息吹の剣、攻撃力がアップする剛力の鎧、攻撃力がアップするマッシブシールド、攻撃力がアップする破壊の兜等を購入していた。

 ……攻撃する事しか考えていないのかこの人は。

 どれも原作では見た事も聞いた事もない武具ばかりだ。
 おかげで俺達の戦力を大幅に強化する事ができた。



◇◇◇◇



 ダイヤモンドゴーレム討伐のクエストを終わらせた俺達は、その破片を回収して戦利品として持ち帰る事にした。
 ダイヤモンドゴーレムの身体は厳密にはダイヤモンドとは異なる物質でできている。
 宝石としての価値は全くないが、武器の素材としては申し分ない。
 商会へ持っていけばそれなりの値段で買い取ってくれるはずだ。


 王都へ戻るとまずは冒険者ギルドで依頼達成の報告をして報酬を受け取る。

 その後は商会へ向かい、ダイヤモンドゴーレムの破片を売り捌くつもりだった。

「あなた達少しお待ちあそばせ」

 商会へ向かう道の途中で俺達を呼び止める声がする。
 足を止めて振り向くとそこに一人の高貴そうな女性が立っていた。

「えっと、俺達に何か用──」
「シンディア姫、こんな所で何をされているんですか!?」

 横を見るとユフィーアが目を丸くして固まっている。

「シンディア姫? どこかで聞いた事があるような……」

「マール様、何を言っているんですか。シンディア王女殿下ですよ」

「あっ……」

 思い出した。
 シンディア姫はアレス殿下の妹に当たる人物だ。

 神出鬼没な人物で、エンディングまで一度も出会う事なくクリアしたというプレイヤーもいる。

 かくいう俺もラスボスを倒すまで一度も会った事がなかった口だ。
 名前は知っているが、どんな顔だったか全然覚えていない。

 いや、むしろあえて出会わないように彼女が出没しそうな場所を避けながらプレイしていたと言った方が正解だろう。

 原作プレイヤーの間ではシンディア姫はバグり姫と呼ばれている。
 彼女に関わるとよく原因不明のバグが発生するからだ。

 そもそも一国のお姫様がお供もつけずにひとりで街中を歩くはずがない。
 これもバグの一種だろう。

 俺は身構えてシンディア姫の出方を窺う。

「あなたは……そうそう、確かことわりの勇者マールといいましたね。その手に持っているものは何でしょうか? きらきらと輝いて綺麗ですね」

「これですか? これはダイヤモンドゴーレムの破片ですよ。武器や防具の素材になるので今から売りに行くところです」

「そのようなものがあるんですね。見せていただいても宜しいですか?」

「あっはい。どうぞ」

 シンディア姫は俺からダイヤモンドゴーレムの破片を受け取ると、裏返したり太陽にかざしたりしながら品定めをしている。

「やはり本物のダイヤモンドとは違うようですね。お返しします」

「どうも」

 シンディア姫は俺にダイヤモンドゴーレムの破片を返すと、そのままどこかに立ち去って行った。
 行動が全く読めないな。

 本物のダイヤモンドだったら没収でもするつもりだったんだろうか?
 そういえば俺はシンディア姫の性格とか全然知らないな。

 今度アレス殿下に聞いてみようかな。

 いや、今はそれよりも俺の周りで何かバグが発生していないか確認をしなくちゃ。
 所持しているアイテムが変化してしまう事もある。
 まずは魔法の袋の中身を含めて自分の持ち物を確認する。

 武器や防具、エリクサーやその他消耗品に貴重品、どれも大丈夫だ。
 よかった、どうやら何も起きなかったようだ。

 俺はほっと胸を撫で下ろす。

「ユフィーア、それじゃあ商会へ行こうか」

 ……。

 返事がない。

「ユフィーア? あれ?」

 さっきまでそこにいたはずのユフィーアがどこにもいない。

 まさか……何かのバグか?
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

もふもふ好きの異世界召喚士

海月 結城
ファンタジー
猫や犬。もふもふの獣が好きな17歳の少年。そんな彼が猫が轢かれそうになった所を身を呈して助けたが、助けた彼が轢かれて死んでしまった。そして、目が醒めるとそこは何もない真っ白な空間だった。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

処理中です...