48 / 72
第48話 天空都市ルシエール
しおりを挟む
俺達は気球に乗って上昇し、雲を抜けると一面に青空が広がった。
そして下を見ると、雲海に浮かぶルシエールの町が見える。
「まさに絶景だね」
「これは、見惚れてしまうな」
「綺麗……」
幻想的なその景色に思わず仲間達から感嘆の声が洩れる。
もしここに意中の相手でもいたのなら「君の方が綺麗だよ」などと歯が浮くようなセリフを言ってみたかったところだ。
こんな交通が不便な山の上に町を作るなんて何を考えているのか分からなかったけど、この景色を目の当たりにすると納得をしてしまうな。
暫く空から町を眺めていると、町から天馬騎士の一隊がこちらに向かってきた。
気球の中にいる俺達が何者かを確認すると隊長らしき男が前に出て敬礼をする。
「これはアレス殿下ではありませんか。あの雷雲を抜けてこられたのですか? ご連絡いただければお迎えにあがりましたのに」
「いや、急ぎの用があったのでな。リカイン卿と話がしたい」
「はっ、お取り次ぎ致しますのでまずはこちらへどうぞ」
俺達は隊長の誘導に従って空港に着陸する。
空港といってもこの世界には飛行機は存在しない。
この世界では気球やペガサス、飛竜の離着陸場の事を空港と呼んでいる。
空港には多くの天馬騎士や竜騎士の姿が見えた。
まるで出撃の準備でもしているようだ。
その物々しい雰囲気にアレス殿下が隊長に問いかける。
「まるでこれから戦闘でも始まるような雰囲気だな」
「ははっ、実は近頃この付近の魔王軍の動きが活発になっておりまして、警戒態勢を敷いているのです」
「そうえばここに来る途中で魔王軍四天王のフレガータと一戦を交えたぞ。幸いこちらにはヘステリアがいたので撃退できたが」
「左様でしたか。ご無事で何よりでした。この町は山の上にあるので今まで魔物に襲われる事はありませんでしたが、近頃奴の部下である鳥型の魔族が偵察にやってくるようになりましてね」
「なるほど、それは警戒するに越した事はないな」
フレガータがルシエールを狙っている……?
俺は二人の会話に違和感を覚えた。
原作ファンタシー・オブ・ザ・ウィンドではフレガータの軍勢がルシエールを襲撃するというシーンはなかった。
それどころかこの町とフレガータは接点すらない。
いつの間にか俺が知らないルートに進んでしまっているのだろうか。
このまま進めてしまっていいのか、元のルートに戻さなくてはいけないのかを早い内に見極めなくてはいけないな。
「それではこちらでお待ち下さい」
俺達は領主リカインの屋敷の一室に案内され待つ事数分、多くの勲章が付けられた派手な服を身に纏った初老の男性が現れた。
「これはアレス殿下、このような辺境までよくぞいらっしゃいました」
「うむ、今日ここに来たのは他でもない。王国の次期聖女についての相談をしようと思ってな」
「ヘステリア様とデメテルの事は私の耳にも入っております。てっきりヘステリア様が聖女の座に戻られるものだと思っておりましたが」
「ヘステリアは既に冒険者の道を選んでいるからそれはないな。率直に言おう、我々は貴様の娘リーディアを次期聖女に推したいと考えている」
リカインは笑って言う。
「ははは、それは買いかぶりすぎというものです。あやつはただの世間知らずな箱入り娘だ」
「リカイン卿、私とて何の調査もなくここへ来た訳ではない。彼女に聖女としての素質がある事は調べがついている。王国の未来の為に、この私を信じて彼女を預けてくれないか」
アレス殿下の真剣な眼差しにリカインは笑うのを止め、姿勢を正して口を開く。
「……殿下が本気でそう仰られているのならば私には異存はありません。あやつがどれだけお役に立てるか分かりませんが、リーディアを殿下にお預け致しましょう」
可愛い娘を取られる父親の気持ちは痛い程分かる。
もっと反対をするかと長期戦を覚悟していたが、思ったよりスムーズに話は付いたようだ。
後はリーディアを王都へ連れて帰るだけでミッションコンプリートだ。
その時、バンという大きな音と共に扉が開いてひとりの少女が部屋の中に入ってきた。
それを見てリカインは目を丸くする。
「こ、こらリーディア、お客様の前ではしたないぞ。殿下、娘の躾がなっておらず申し訳ございません」
まだ幼さを残したその顔とは対照的に、彼女の透き通るような青い瞳と緑色の長い髪は年齢とは不相応な色気を放っている。
原作の設定通りならば外見的な特徴は母親譲りだが、がさつな性格は武人である父親に似てしまっているらしい。
「いや、元気があっていい。お淑やかなだけでは聖女は務まらないからな」
アレス殿下は特に気にした様子もなくリーディアをフォローしているが、リカインは気が気でないといった様子だ。
「リーディア、アレス殿下の御前だぞ。まずは挨拶をせんか」
リーディアは俺達の前に進み出ると左足を斜め後ろに引いて右膝を軽く曲げ、両手でスカートの裾を持ちあげて言う。
「皆さま方お初にお目にかかります。リカインの娘、リーディアです」
それは礼法に則った挨拶だ。
俺はやればできるじゃないかと内心思ったが、いち冒険者に過ぎない俺にそんな事を思われる筋合いはないだろうな。
リカインはほっと胸を撫で下ろし、アレス殿下はその所作の美しさに満足そうな笑みを浮かべている。
「リーディア嬢、我々は次期聖女候補として君を迎えに来た。共に王都へ来て欲しい」
アレス殿下の要請にリーディアは間髪入れずに答えた。
「お断りします」
そして下を見ると、雲海に浮かぶルシエールの町が見える。
「まさに絶景だね」
「これは、見惚れてしまうな」
「綺麗……」
幻想的なその景色に思わず仲間達から感嘆の声が洩れる。
もしここに意中の相手でもいたのなら「君の方が綺麗だよ」などと歯が浮くようなセリフを言ってみたかったところだ。
こんな交通が不便な山の上に町を作るなんて何を考えているのか分からなかったけど、この景色を目の当たりにすると納得をしてしまうな。
暫く空から町を眺めていると、町から天馬騎士の一隊がこちらに向かってきた。
気球の中にいる俺達が何者かを確認すると隊長らしき男が前に出て敬礼をする。
「これはアレス殿下ではありませんか。あの雷雲を抜けてこられたのですか? ご連絡いただければお迎えにあがりましたのに」
「いや、急ぎの用があったのでな。リカイン卿と話がしたい」
「はっ、お取り次ぎ致しますのでまずはこちらへどうぞ」
俺達は隊長の誘導に従って空港に着陸する。
空港といってもこの世界には飛行機は存在しない。
この世界では気球やペガサス、飛竜の離着陸場の事を空港と呼んでいる。
空港には多くの天馬騎士や竜騎士の姿が見えた。
まるで出撃の準備でもしているようだ。
その物々しい雰囲気にアレス殿下が隊長に問いかける。
「まるでこれから戦闘でも始まるような雰囲気だな」
「ははっ、実は近頃この付近の魔王軍の動きが活発になっておりまして、警戒態勢を敷いているのです」
「そうえばここに来る途中で魔王軍四天王のフレガータと一戦を交えたぞ。幸いこちらにはヘステリアがいたので撃退できたが」
「左様でしたか。ご無事で何よりでした。この町は山の上にあるので今まで魔物に襲われる事はありませんでしたが、近頃奴の部下である鳥型の魔族が偵察にやってくるようになりましてね」
「なるほど、それは警戒するに越した事はないな」
フレガータがルシエールを狙っている……?
俺は二人の会話に違和感を覚えた。
原作ファンタシー・オブ・ザ・ウィンドではフレガータの軍勢がルシエールを襲撃するというシーンはなかった。
それどころかこの町とフレガータは接点すらない。
いつの間にか俺が知らないルートに進んでしまっているのだろうか。
このまま進めてしまっていいのか、元のルートに戻さなくてはいけないのかを早い内に見極めなくてはいけないな。
「それではこちらでお待ち下さい」
俺達は領主リカインの屋敷の一室に案内され待つ事数分、多くの勲章が付けられた派手な服を身に纏った初老の男性が現れた。
「これはアレス殿下、このような辺境までよくぞいらっしゃいました」
「うむ、今日ここに来たのは他でもない。王国の次期聖女についての相談をしようと思ってな」
「ヘステリア様とデメテルの事は私の耳にも入っております。てっきりヘステリア様が聖女の座に戻られるものだと思っておりましたが」
「ヘステリアは既に冒険者の道を選んでいるからそれはないな。率直に言おう、我々は貴様の娘リーディアを次期聖女に推したいと考えている」
リカインは笑って言う。
「ははは、それは買いかぶりすぎというものです。あやつはただの世間知らずな箱入り娘だ」
「リカイン卿、私とて何の調査もなくここへ来た訳ではない。彼女に聖女としての素質がある事は調べがついている。王国の未来の為に、この私を信じて彼女を預けてくれないか」
アレス殿下の真剣な眼差しにリカインは笑うのを止め、姿勢を正して口を開く。
「……殿下が本気でそう仰られているのならば私には異存はありません。あやつがどれだけお役に立てるか分かりませんが、リーディアを殿下にお預け致しましょう」
可愛い娘を取られる父親の気持ちは痛い程分かる。
もっと反対をするかと長期戦を覚悟していたが、思ったよりスムーズに話は付いたようだ。
後はリーディアを王都へ連れて帰るだけでミッションコンプリートだ。
その時、バンという大きな音と共に扉が開いてひとりの少女が部屋の中に入ってきた。
それを見てリカインは目を丸くする。
「こ、こらリーディア、お客様の前ではしたないぞ。殿下、娘の躾がなっておらず申し訳ございません」
まだ幼さを残したその顔とは対照的に、彼女の透き通るような青い瞳と緑色の長い髪は年齢とは不相応な色気を放っている。
原作の設定通りならば外見的な特徴は母親譲りだが、がさつな性格は武人である父親に似てしまっているらしい。
「いや、元気があっていい。お淑やかなだけでは聖女は務まらないからな」
アレス殿下は特に気にした様子もなくリーディアをフォローしているが、リカインは気が気でないといった様子だ。
「リーディア、アレス殿下の御前だぞ。まずは挨拶をせんか」
リーディアは俺達の前に進み出ると左足を斜め後ろに引いて右膝を軽く曲げ、両手でスカートの裾を持ちあげて言う。
「皆さま方お初にお目にかかります。リカインの娘、リーディアです」
それは礼法に則った挨拶だ。
俺はやればできるじゃないかと内心思ったが、いち冒険者に過ぎない俺にそんな事を思われる筋合いはないだろうな。
リカインはほっと胸を撫で下ろし、アレス殿下はその所作の美しさに満足そうな笑みを浮かべている。
「リーディア嬢、我々は次期聖女候補として君を迎えに来た。共に王都へ来て欲しい」
アレス殿下の要請にリーディアは間髪入れずに答えた。
「お断りします」
0
お気に入りに追加
487
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します
かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。
追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。
恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。
それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。
やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。
鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。
※小説家になろうにも投稿しています。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる