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第33話 両親への挨拶を済ませよう
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「マール君、君には世話になったね。まずは礼を言わせて欲しい」
ユフィーアの父であり、ラスボーン家の現当主であるシャルリックは深々と頭を下げる。
「ささ、お口に合うか分かりませんが、どうぞ召し上がって下さい」
その妻であるベアトリクスさんに進められて、俺はテーブルの前の椅子に腰掛ける。
ベアトリクスさんはユフィーアに似た青髪の美女で、元は宮廷魔術師だったという。
ユフィーアの剣技と魔法の才能は両親から受け継がれたものなのだろう。
食堂の中央に置かれたテーブルの上には色とりどりの高級料理が乗せられたお皿が大量に並べられている。
洋と中華の違いはあれど、まるで満漢全席を思わせる豪華さだ。
今まで縁がなかったがこれが貴族の食事というものか。
俺は料理を片っ端から取り皿に分け、口に運ぶ。
「……! こ、これは……」
俺の前世である日本人は味にはうるさい民族だ。
日本から異世界に飛んだ人間は、料理のクオリティの差に失望する事も珍しくない。
それはこのファンタシー・オブ・ザ・ウィンドの世界も例外ではない。
俺も前世の記憶が戻ってからはしばしば日本の料理の味を思い出して憂鬱になる事もあった。
もし俺に料理の腕があれば自分でレストランでも始めようかと考えているところだ。
それがどうだろう。
今この食卓に並んでいる料理は、前世では数えるほどしか口にする事ができなかった高級ステーキや、回らない寿司にも匹敵する美味しさだ。
これが料理アニメならば料理が閃光を放ったり、俺の服がビリビリに破れたり、俺が巨大化して城を破壊したりと過剰な演出が加えられているところだ。
あまりの美味しさに俺は料理を口に運ぶ度に思わず表情が緩む。
「マールさんのお口に合ってよかったです」
「こんなに美味しい料理は食べた事がありません。素晴らしい料理人をお雇いですね」
「あらあら、この料理を作ったのはユフィーアですわよ」
「え?」
そういえば原作の設定ではユフィーアは料理も得意と書いてあったな。
わざわざ俺の為に作ってくれたのか。
……いやいや、作り過ぎだろこれ。
俺はフードファイターじゃないぞ。
「あの……マール様、宜しければこれから毎日私が食事を作りますがどうでしょうか?」
何故かユフィーアがもじもじしながら聞いてくる。
毎日この味を堪能できるなら反対する理由はない。
俺は二つ返事でお願いする。
「そうだね、お願いしようかな」
「は……はい、喜んで!」
その一言でユフィーアの表情がパアっと明るくなる。
「うふふ、ユフィーア、よかったですわね」
「はい、お母様!」
食事当番になった事がそんなに嬉しいのだろうか。
むしろ毎日こんなに美味しい料理を食べられるのなら、嬉しいのは俺の方なんだけど。
「マール様、これからも末永く娘を宜しくお願いします」
「あっはい、こちらこそ」
母親に改まってそう言われなくても、今まで通りパーティの相棒として頼りにしていますよ。
「うむ、今夜はお祝いだ。君、確か30年物のワインがあったな」
「はい、旦那様。直ちにお持ちいたします」
何故か父親も上機嫌だ。
シャルリックの指示で使用人の男は地下の酒蔵から年代物のワインを持ってくる。
見るからに値が張りそうのワインだ。
俺は出されるままにワインに口をつける。
美味い。
この熟成されたチーズとの相性もばっちりだ。
今日は飲み過ぎてしまうな。
酔いも直ぐに回りそうだ。
おっと、酔いといえばユフィーアが悪酔いしないように監視しておかないと……。
自然と俺の視線がユフィーアに注がれる。
「……!」
それに気づいたユフィーアは顔を紅潮させて俯く。
俺の意図に気付いたかな。
今日はあまり飲むんじゃないぞ。
「それにしてもマール君は本当に不思議な方ですな。私の見立てでは身体能力はさほどではないように見えるが、まさかあの化け物を倒してしまうとは」
「お父様ぁ、マール様の神髄は呪術に関する卓越した知識ですよぉ。マール様にかかればあんな食べる事しか能がない魔獣なんてちょちょいのちょいですぅ」
ああダメだ、ユフィーアは大分出来上がってる。
俺が見つめていた意図を理解してくれたと思ったのは気のせいだったようだ。
「しかしマール君。君は直接の戦闘は苦手との事だが、私が見る限りは君にはまだまだ隠されている力があるように感じる」
そりゃそうでしょうね。
原作の設定ではマールは剣も魔法も使いこなすユーティリティープレイヤーだ。
レベルが10までしか上がらないバグがあるとはいえ、同じレベルでステータスを比較すると主人公たちを含めてどのキャラクターよりも強い。
このバグさえなければ間違いなく使用率ナンバーワンだったろう。
つくづく惜しいキャラクターだ。
「シャルリックさん、実は俺は呪いによってこれ以上身体能力が上がらないのです。これが俺が呪術の知識を得た代償です」
「マール様大丈夫ですよぉ、直接戦闘は私が全部受け持ちますからぁ。それにぃ、ダンジョンを出てから身体の調子がものすごくいいんですぅ」
酔って呂律が回っていないユフィーアが俺に密着しながら言う。
いくらパーティの仲間だからといって、ご両親の前でそんなにべたべたするのはどうかと思うぞ。
変な誤解をされたらどうする。
そういえばワールドイーターを倒した事で、パーティメンバーであるユフィーアには大量の経験値が入ってきているはずだ。
あの強さだ、レベルもかなり上がってるんじゃないかな。
今度ギルドに行った時にレベルを鑑定してもらってこよう。
ユフィーアの父であり、ラスボーン家の現当主であるシャルリックは深々と頭を下げる。
「ささ、お口に合うか分かりませんが、どうぞ召し上がって下さい」
その妻であるベアトリクスさんに進められて、俺はテーブルの前の椅子に腰掛ける。
ベアトリクスさんはユフィーアに似た青髪の美女で、元は宮廷魔術師だったという。
ユフィーアの剣技と魔法の才能は両親から受け継がれたものなのだろう。
食堂の中央に置かれたテーブルの上には色とりどりの高級料理が乗せられたお皿が大量に並べられている。
洋と中華の違いはあれど、まるで満漢全席を思わせる豪華さだ。
今まで縁がなかったがこれが貴族の食事というものか。
俺は料理を片っ端から取り皿に分け、口に運ぶ。
「……! こ、これは……」
俺の前世である日本人は味にはうるさい民族だ。
日本から異世界に飛んだ人間は、料理のクオリティの差に失望する事も珍しくない。
それはこのファンタシー・オブ・ザ・ウィンドの世界も例外ではない。
俺も前世の記憶が戻ってからはしばしば日本の料理の味を思い出して憂鬱になる事もあった。
もし俺に料理の腕があれば自分でレストランでも始めようかと考えているところだ。
それがどうだろう。
今この食卓に並んでいる料理は、前世では数えるほどしか口にする事ができなかった高級ステーキや、回らない寿司にも匹敵する美味しさだ。
これが料理アニメならば料理が閃光を放ったり、俺の服がビリビリに破れたり、俺が巨大化して城を破壊したりと過剰な演出が加えられているところだ。
あまりの美味しさに俺は料理を口に運ぶ度に思わず表情が緩む。
「マールさんのお口に合ってよかったです」
「こんなに美味しい料理は食べた事がありません。素晴らしい料理人をお雇いですね」
「あらあら、この料理を作ったのはユフィーアですわよ」
「え?」
そういえば原作の設定ではユフィーアは料理も得意と書いてあったな。
わざわざ俺の為に作ってくれたのか。
……いやいや、作り過ぎだろこれ。
俺はフードファイターじゃないぞ。
「あの……マール様、宜しければこれから毎日私が食事を作りますがどうでしょうか?」
何故かユフィーアがもじもじしながら聞いてくる。
毎日この味を堪能できるなら反対する理由はない。
俺は二つ返事でお願いする。
「そうだね、お願いしようかな」
「は……はい、喜んで!」
その一言でユフィーアの表情がパアっと明るくなる。
「うふふ、ユフィーア、よかったですわね」
「はい、お母様!」
食事当番になった事がそんなに嬉しいのだろうか。
むしろ毎日こんなに美味しい料理を食べられるのなら、嬉しいのは俺の方なんだけど。
「マール様、これからも末永く娘を宜しくお願いします」
「あっはい、こちらこそ」
母親に改まってそう言われなくても、今まで通りパーティの相棒として頼りにしていますよ。
「うむ、今夜はお祝いだ。君、確か30年物のワインがあったな」
「はい、旦那様。直ちにお持ちいたします」
何故か父親も上機嫌だ。
シャルリックの指示で使用人の男は地下の酒蔵から年代物のワインを持ってくる。
見るからに値が張りそうのワインだ。
俺は出されるままにワインに口をつける。
美味い。
この熟成されたチーズとの相性もばっちりだ。
今日は飲み過ぎてしまうな。
酔いも直ぐに回りそうだ。
おっと、酔いといえばユフィーアが悪酔いしないように監視しておかないと……。
自然と俺の視線がユフィーアに注がれる。
「……!」
それに気づいたユフィーアは顔を紅潮させて俯く。
俺の意図に気付いたかな。
今日はあまり飲むんじゃないぞ。
「それにしてもマール君は本当に不思議な方ですな。私の見立てでは身体能力はさほどではないように見えるが、まさかあの化け物を倒してしまうとは」
「お父様ぁ、マール様の神髄は呪術に関する卓越した知識ですよぉ。マール様にかかればあんな食べる事しか能がない魔獣なんてちょちょいのちょいですぅ」
ああダメだ、ユフィーアは大分出来上がってる。
俺が見つめていた意図を理解してくれたと思ったのは気のせいだったようだ。
「しかしマール君。君は直接の戦闘は苦手との事だが、私が見る限りは君にはまだまだ隠されている力があるように感じる」
そりゃそうでしょうね。
原作の設定ではマールは剣も魔法も使いこなすユーティリティープレイヤーだ。
レベルが10までしか上がらないバグがあるとはいえ、同じレベルでステータスを比較すると主人公たちを含めてどのキャラクターよりも強い。
このバグさえなければ間違いなく使用率ナンバーワンだったろう。
つくづく惜しいキャラクターだ。
「シャルリックさん、実は俺は呪いによってこれ以上身体能力が上がらないのです。これが俺が呪術の知識を得た代償です」
「マール様大丈夫ですよぉ、直接戦闘は私が全部受け持ちますからぁ。それにぃ、ダンジョンを出てから身体の調子がものすごくいいんですぅ」
酔って呂律が回っていないユフィーアが俺に密着しながら言う。
いくらパーティの仲間だからといって、ご両親の前でそんなにべたべたするのはどうかと思うぞ。
変な誤解をされたらどうする。
そういえばワールドイーターを倒した事で、パーティメンバーであるユフィーアには大量の経験値が入ってきているはずだ。
あの強さだ、レベルもかなり上がってるんじゃないかな。
今度ギルドに行った時にレベルを鑑定してもらってこよう。
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