上 下
15 / 72

第15話 そのステータス自体がバグってる疑惑

しおりを挟む
「ミ、ミーリャ……」

 俺の問いかけに返事は返って来ない。
 突如現れた鷲の上半身に獅子の下半身を持つ巨大な魔獣、グリフォンに踏み潰されたミーリャは既に事切れていた。

「マール様……申し訳ありません。私があの魔獣の接近を察知していれば……」

「いや、ユフィーアのせいじゃないよ。でもよく覚えておいて欲しい。冒険者っていうのはいつも死と隣り合わせなんだ。それにも使い方をひとつ間違えると彼──ホリン──のようになってしまう」

「はい、マール様。肝に銘じます」

 ユフィーアは俺の話を素直に聞いているが、これは自分自身に言い聞かせたものでもある。
 バグは自分達の利益になるものばかりではない。
 むしろ、害になるものの方が多い。
 発生したバグによっては最悪の場合……世界が終わるフリーズする

 そして失われた命はもう戻って来ない。
 ホリンもミーリャも嫌な奴だったが、せめてミーリャの仇は討ってやろう。

「ユフィーア、俺達の手であのグリフォンを倒そう。いけるか?」

「マール様といえどもそれは愚問です」

 ユフィーアは強く剣を握りしめてグリフォンに飛びかかる。

「はあーっ!」

 ユフィーアが剣を振り下ろすと、まずグリフォンのその大きな翼が背中から離ればなれになる。

「ギャオオオオオオオオオン」

 グリフォンの悲鳴が森中に響く。

「次!」

 尻尾、腕、足……ユフィーアが剣を振るう度に、グリフォンの身体はになっていく。

 ユフィーアの強さは圧倒的だ。

 レベル10の俺では、陛下から賜った装備と先日バグ技でカンストさせておいた剣の熟練度の補正を加えても、辛うじて持ち堪える事ができるかどうかといったところだろう。

 気がつけばグリフォンは完全に動けなくなっていた。
 身体中が切り刻まれ、まだ生きているのが不思議なくらいだ。

 ユフィーアはグリフォンを切り刻みながら時折こちらをちらりと見て、まるで何かの合図を送っているようだった。
 そうか、気を利かせて俺に止めを譲ろうとしているんだな。

「ホリン、ミーリャ、こいつの首を手向けにしてやる!」

 俺は地面に這いつくばっているグリフォンに近付くと、その眉間にグーラー陛下から賜った剣を突き刺した。

「グワオオオオオオオアアアアア」

 断末魔の叫びを響かせながらグリフォンは絶命した。

「……」

「マール様」

「ああ、大丈夫だ。それよりも──」

 俺は茫然と立ち尽くしている治癒士ヒーラーの女性に手を差し伸べる。

「大丈夫かい? もう終わったよ」

「は、はい。有難うございます。二人のお陰で助かりました。でも……」

 女性は地面に転がっているホリンとミーリャの亡き骸に視線を移す。
 それは損傷が激しく、殆ど原型は保っていない。

「ホリンとミーリャの事は仕方がない。冒険者をしている以上彼らも覚悟の上です。……いや、冒険者としてはあなたの方が先輩でしたね。生意気な事を言ってすみません」

「いえ……あの私、レイミルと申します。今日のお礼はいつか必ず……」

「あ、そう言えばまだ名乗っていなかったね。俺は──」

「マールさんとユフィーアさんですね。存じていますよ。有名ですから」

 勇者ユフィーアが有名なのは当たり前だが、どうやら先日の魔王軍との戦いの結果、俺の名前も世間に知れ渡っているようだ。

 俺達はホリンとミーリャの屍を埋葬すると、王都へ帰る準備を始める。
 グリフォンの首は討伐した証拠として持ち帰る事になった。

「えいっ」

 ユフィーアはグリフォンの首を斬り落とすと、それを片腕で担ぎあげる。
 以前ドラゴンを討伐した時にもユフィーアはその首を担いでいたが、改めて勇者の規格外の腕力に驚きを隠せない。

 俺とはまた違った方向でどこかバグってるんじゃないかと思わずにはいられない。

 森の入り口まで戻ると、ゴッシュさんが馬車の中でくつろいでいた。
 俺とユフィーアに気が付くと笑顔で出迎える。

「マール様、ユフィーア様、お早いお帰りで。おお、それはグリフォンの首ですね。勇者ユフィーア様の手にかかれば魔獣の森の主と言えども形無しですな」

「いえ、止めを刺したのはマール様です」

 ユフィーアはそう言って俺を持ちあげてくれるが、確かに止めを刺したのは俺だけど実際はユフィーアひとりで戦っていたよね。

「おお、そうでしたか。さすがは噂に聞くことわりの勇者マール様だ。それでそちらの方は?」

「実は……」

 俺は魔獣の森の中での一部始終をゴッシュさんに伝えた。

「そうでしたか……それは残念でした」

「いえ、冒険者たるもの戦いの中で死ぬのは珍しい事ではありません。次は俺かもしれません。その時は手でも合わせて冥福を祈ってくれればそれでいいです」

「……王都へ帰りましょう。レイミルさんも馬車に乗っていきますか? 料金はもう支払い済みですので結構ですよ」

「有難うございます。それではお言葉に甘えさせて頂きます」

 ユフィーアはグリフォンの首を馬車に乗せ、レイミルを加えた俺達は馬車に揺られて王都への帰路に就く。

 馬車の中では皆終始無言だった。


◇◇◇◇


 王都に着いた時には既に日が暮れていた。
 俺達はゴッシュさんにお礼を言って別れると、冒険者ギルドへ向かう。

 【トライアド】によるグリフォン討伐クエストの達成と、ホリン、ミーリャ両名が戦死した事の報告だ。

 冒険者がクエストの途中で死亡する事は日常茶飯事だ。ギルドスタッフも慣れたもので、手続きは淡々と進められる。

 最終的な死亡届は冒険者ギルドから王国の役所へ届けられるので、まずは俺達が行う手続きは完了した。

 ほぼ同時にレイミルはグリフォン討伐の報酬を受け取った。
 しかしレイミルはそれを俺達に差し出して言う。

「マールさん、ユフィーアさん、グリフォンを倒したのはあなた達です。どうぞお受け取り下さい」

「いや、俺達はそもそもこのクエストを受注していない。これを受け取る権利はないよ」

 ホリンの言葉を借りるなら、俺達は獲物を横取りしただけだ。
 俺は丁重に辞退する。

「どうしても要らないというのなら、彼らの遺族にでも渡してやってくれ」

「……はい。分かりました。そうします」

 レイミルはそう言って少し俯いた後、意を決したように切り出す。

「あの、私もあなた達のパーティに入れてもらえませんでしょうか。私、回復魔法には自信があるんです」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...