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第6話 将軍は嫌な奴でした

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「陛下、冒険者マール・デ・バーグをお連れ致しました」

「ま、マール・デ・バーグでしゅ……です」

「うむ、ユフィーアから話は聞いておる。マール、おもてを上げよ」

「はっ」

 俺は今、ここレイフィス王国の王、グーラー陛下の前で跪いている。

 王宮に呼ばれる事までは予想していたが、実際に一国の王を目の当たりにするとその威厳に圧倒される。
 更に両側には剣を携えた騎士達が並んでいる。
 緊張してセリフを噛んでしまったのも仕方がないだろう。

 ユフィーアは慣れたもので、騎士の作法ってやつを守りつつ落ち着き払っている。
 俺とは対照的に所作のひとつひとつが美しい。
 これではせっかくバグでMAXまで上昇した好感度が下がってしまうな。

「そなたを呼んだのは他でもない。魔族の呪術に関しての類まれなる知識を持っていると聞いたがまことか?」

 呪術、すなわちこの世界で度々発生するバグの事だ。
 その知識に関してはこの世界で俺の右に出る者はいないだろう。

「はい、今まで古今東西の呪術について勉学に励んでまいりました。その知識を国の為、陛下の為に役立てたいと考えています」

 勉学といっても、前世で攻略サイトの掲示板を読み漁っていただけだけどね。

 俺の言葉に国王は満足そうな笑みを浮かべるが、すぐに真剣な表情に戻って話を続ける。

「ユフィーアが騎士団を抜けて冒険者であるそなたと旅に出たいと言っているが、ユフィーアは我が国最強の騎士であり、王国軍の要である。そのユフィーアが騎士団を抜けるという事は王国軍の戦力の低下を意味する。その穴をどう埋めたものか」

 ここレイフィス王国はゲームのスタート地点だけあって、この付近に生息する魔物は大して強くないが、それに比例して兵士達もあまり強くない。
 原作ではこの国で上位の魔物と戦える人物は数える程しかいない。

 ユフィーア一人が欠けただけでも王国にとってはかなりの痛手だ。

 その穴を埋めるには方法は一つ。
 兵士達にしっかり訓練をさせればいい。

 このゲームの一部のイベントでは、兵士を率いて魔物を討伐したり魔物の襲撃から町を防衛するシミュレーションパートがある。
 日頃からしっかりと兵士に訓練をさせていればレベルや練度が上がってそれなりに強くなるのだが、膨大な時間とお金が掛かる。

 だから手っ取り早くバグ技を使わせて貰おう。

「陛下、私に考えがあります。三日もあればこの国の兵士を鍛え上げ、精強な軍隊を作ってご覧にいれましょう」

「うむ、よくぞ申した。それでは本日より三日間、マール・デ・バーグに兵士達の訓練を命ずる。見事余の期待に応えてみよ」

「ははっ」

 俺の宣言に陛下はご満悦だ。

「バランドル将軍これへ」

「はっ」

 立派な髭を蓄えた壮年の男性が前に進み国王陛下に礼をする。
 バランドル将軍……確か原作にも少し登場したな。
 でも俺の記憶だとこの人物は……。

「バランドル将軍は兵士達を集め、マールと協力して兵士の鍛錬に当たるように」

「御意に」

「では両名、直ちに任務に当たれ」

「ははっ!」

 俺は謁見の間を退出すると、早速準備に取り掛かる。
 ユフィーアは騎士団を抜けるに当たって各種引き継ぎの準備を行っている為、この任務が終わるまでは俺とは別行動だ。

「バランドル将軍、早速始めましょう。まずは兵士達を演習場に集めて下さい」

「……」

 返事がない。

「バランドル将軍?」

「平民風情が私に命令をするな」

「な……?」

「くすくす……」
「まーた始まったよ」

 周りを見ると、王宮の騎士達がニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら俺を見ている。

 俺は原作の設定を思い出した。
 そうだ、確かこのバランドル将軍という人物は、ユフィーア以上に冒険者の事を嫌っている。
 しかしその理由は全く違う。

 ユフィーアは民衆を守る事を騎士の矜持としている為、民間人である冒険者が前線で魔物と戦う事をよく思っていない。

 一方のバランドル将軍は、貴族である事を鼻に掛け、平民達をただ搾取されるだけの存在として見下している。

「いいかマールとやら。貴様のような平民がこの私と対等に話ができると思うな。ちょっとユフィーアに気に入られたからって調子に乗るんじゃない」

「何を言ってるんですか? この任務は陛下から命じられた事ですよ」

 バランドル将軍は口元を歪ませながら言う。

「どんな手を使ってユフィーアをたらしこんだか知らぬが、王宮内で貴様みたいな弱そうなガキに大きな顔をされるのが気に入らぬ。もしこの任務が失敗すれば貴様は陛下に処罰され、ユフィーアが騎士団を抜けるって話も白紙になるだろうな。良いこと尽くめではないか」

 俺がユフィーアと仲良くしているのを嫉妬してるのか。
 このおっさん、いい年して色ボケしてるのか。
 もしバランドル将軍の計画通り任務が失敗に終われば、ある事ない事を陛下に報告して全ての責任を俺に押し付けるだろう。

 そういう事なら俺にも考えがある。

「ところでバランドル将軍って剣の使い方は知っていますか?」

「何だと貴様、誰にものを言ってるんだ」

 バランドル将軍が王国内でもかなりの剣の使い手だという事は当然知っている。
 俺はバランドル将軍を挑発する為に、あえてとぼける。

「バランドル将軍、ちょっと俺と手合わせをしてみませんか? 兵士達の訓練を始める前に、その上官がどの位の腕前なのかを把握しておきたいので。なんでしたら兵士達と一緒に俺が手解てほどきをしますよ」

 バランドル将軍の顔が見る見るうちに茹で蛸の様に顔を真っ赤に染まっていく。

「貴様のような小僧がこの私と手合わせだと? ぶっ殺されたいのか!」

 よし、挑発に乗った。
 この手の男に言う事を聞かせるにはこれが一番だ。

「折角だからちゃんとした試合形式でやりましょうよ。そこの騎士の方、将軍と御前試合を行いたいんですけど、陛下の許可を得るにはどうしたらいいんですかね?」

 俺の宣言に先程までニヤニヤと笑っていた騎士達の顔色が変わる。

「おいおい、あいつ殺されるぞ。止めなきゃ……」

 御前試合では木刀ではなく真剣が使われる。
 敗れた方が命を落とす事も珍しくない。
 そしてバランドル将軍は王国で1、2を争う大剣の使い手だ

「ボウズ、悪い事は言わねえから早く将軍に謝罪するんだ。今ならまだ間に合──」

「貴様は口を挟むな」

 バランドル将軍が仲裁しようと近寄ってきた騎士の首を掴み、その腕力で後方に投げ飛ばす。

 気の毒なその騎士は受け身を取り損ねて頭から落下し、泡を吹いて床に横たわっている。

「いいだろう、私が陛下に話をつけてくる。今の内に首を洗っておくんだな」
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