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第54話 初めての我儘
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魔王城に戻ってから私とアザトースさんとの仲が急接近──という事もなく代わり映えのない日々が続く。
アザトースさんが私に優しいのは受けた恩を返す為だと知ってしまったからだ。
先日のエイリーク王子の暴走から私を守ってくれたアザトースさんはまるで白馬の王子様のようにも見えたけど、決して勘違いをしてはいけないと自戒する。
今日はデパートの休業日だ。
魔王城の自室でのんびりと寛いでいるとディーネさんがやってきた。
「シェリナ様、オルトシャンが魔王城に来ておりますぞ」
「え? 何の用かしら」
私はディーネさんに案内されて玉座の間に向かうと、お互い睨み合っているアザトースさんとオルトシャンさんの姿があった。
「何ですかこの空気は?」
「来たかシェリナ。オルトシャン、先程の話をシェリナの前でもう一度言ってみろ」
「ああ。シェリナよ、私は陛下より王国に聖女を連れ戻すよう命を受けてここに来た。素直に私の言う事に従って貰いたい」
「え?」
王国が聖女である私を連れ戻す為に動く事は予想できていたが、オルトシャンさんがその役を担うとは思わなかった。
オルトシャンさんは私が魔王城で暮らす事を見て見ぬ振りをしていたが、それは私を見つける事ができなかったからだという事になっている。
しかし王国に私の所在が明らかになった今、これ以上誤魔化す事はできないという事だろう。
「シェリナ、どうする。お前が決めろ」
このまま魔王城に残るか、イザベリア聖王国に帰るか、アザトースさんは私に決断を迫る。
もしこのまま魔王城に残ると言ったらどうなるのだろう。
オルトシャンさんも立場上手ぶらで帰る訳にはいかないはず。
そうするとアザトースさんと一戦を交えてでも私を連れ帰そうとするだろう。
これ以上アザトースさんやオルトシャンさんに迷惑をかける訳にはいかない。
私の心は決まった。
王国に帰ろう。
しかし、私の返事を聞く前にアザトースさんが続ける。
「俺としてはこのままここに残って欲しいんだがな」
「え? 今なんて?」
「ここに残って欲しいと言っている」
「それはどういう……」
我ながら愚かしい質問をしてしまった。
アザトースさんは以前から私には帰りたい時に帰っていいと言っていた。
受けた恩を返す事が目的だから、極力私の気持ちを尊重しようとしていたからだ。
それなのに今回初めて私の意見を聞かずに自分の希望を口にした。
つまり今のアザトースさんの発言は恩返しとは一切関係がない自分の思いをぶつけた事になる。
「……残ってもいいんですか?」
「何度も言わせるな。俺はお前にずっと傍にいて欲しい」
「! ……アザトースさん、女性にそんな事を言うとプロポーズされていると勘違いさせちゃいますよ? 実際今の私もそのように受け取っています」
「いや、そのつもりで言っているのだがな。迷惑だったか?」
迷惑だなんてとんでもない。
嬉しいに決まっている。
でもアザトースさん今まで全然そんな素振りを見せなかったじゃん。
一体どういう心境の変化?
……いや、考えたらアザトースさんはずっと私には優しくしてくれていた。
魔王が私を好きになる事なんてあるはずないと私が勝手に決め付けていただけだ。
なんて返せばいいのか分からない。
私の頭の中は既に真っ白になっている。
「あー、こほん。そろそろ私も話に参加してもいいか?」
私とアザトースさんが二人の世界に入っているところに、蚊帳の外だったオルトシャンが苦笑しながら口を挟んできた。
「シェリナは帰る気がない。魔王はシェリナを王国に返す気がない。それがお前達が出した結論だな」
「ああ、そうだ」
「オルトシャンさん、ごめんなさい。私も王国に帰る気はありません」
オルトシャンさんは目を伏せ、しばらく思慮をめぐらせた後に口を開いた。
「ならば已むを得ん。王国の未来の為、今この場で聖女には消えて貰う」
アザトースさんが私に優しいのは受けた恩を返す為だと知ってしまったからだ。
先日のエイリーク王子の暴走から私を守ってくれたアザトースさんはまるで白馬の王子様のようにも見えたけど、決して勘違いをしてはいけないと自戒する。
今日はデパートの休業日だ。
魔王城の自室でのんびりと寛いでいるとディーネさんがやってきた。
「シェリナ様、オルトシャンが魔王城に来ておりますぞ」
「え? 何の用かしら」
私はディーネさんに案内されて玉座の間に向かうと、お互い睨み合っているアザトースさんとオルトシャンさんの姿があった。
「何ですかこの空気は?」
「来たかシェリナ。オルトシャン、先程の話をシェリナの前でもう一度言ってみろ」
「ああ。シェリナよ、私は陛下より王国に聖女を連れ戻すよう命を受けてここに来た。素直に私の言う事に従って貰いたい」
「え?」
王国が聖女である私を連れ戻す為に動く事は予想できていたが、オルトシャンさんがその役を担うとは思わなかった。
オルトシャンさんは私が魔王城で暮らす事を見て見ぬ振りをしていたが、それは私を見つける事ができなかったからだという事になっている。
しかし王国に私の所在が明らかになった今、これ以上誤魔化す事はできないという事だろう。
「シェリナ、どうする。お前が決めろ」
このまま魔王城に残るか、イザベリア聖王国に帰るか、アザトースさんは私に決断を迫る。
もしこのまま魔王城に残ると言ったらどうなるのだろう。
オルトシャンさんも立場上手ぶらで帰る訳にはいかないはず。
そうするとアザトースさんと一戦を交えてでも私を連れ帰そうとするだろう。
これ以上アザトースさんやオルトシャンさんに迷惑をかける訳にはいかない。
私の心は決まった。
王国に帰ろう。
しかし、私の返事を聞く前にアザトースさんが続ける。
「俺としてはこのままここに残って欲しいんだがな」
「え? 今なんて?」
「ここに残って欲しいと言っている」
「それはどういう……」
我ながら愚かしい質問をしてしまった。
アザトースさんは以前から私には帰りたい時に帰っていいと言っていた。
受けた恩を返す事が目的だから、極力私の気持ちを尊重しようとしていたからだ。
それなのに今回初めて私の意見を聞かずに自分の希望を口にした。
つまり今のアザトースさんの発言は恩返しとは一切関係がない自分の思いをぶつけた事になる。
「……残ってもいいんですか?」
「何度も言わせるな。俺はお前にずっと傍にいて欲しい」
「! ……アザトースさん、女性にそんな事を言うとプロポーズされていると勘違いさせちゃいますよ? 実際今の私もそのように受け取っています」
「いや、そのつもりで言っているのだがな。迷惑だったか?」
迷惑だなんてとんでもない。
嬉しいに決まっている。
でもアザトースさん今まで全然そんな素振りを見せなかったじゃん。
一体どういう心境の変化?
……いや、考えたらアザトースさんはずっと私には優しくしてくれていた。
魔王が私を好きになる事なんてあるはずないと私が勝手に決め付けていただけだ。
なんて返せばいいのか分からない。
私の頭の中は既に真っ白になっている。
「あー、こほん。そろそろ私も話に参加してもいいか?」
私とアザトースさんが二人の世界に入っているところに、蚊帳の外だったオルトシャンが苦笑しながら口を挟んできた。
「シェリナは帰る気がない。魔王はシェリナを王国に返す気がない。それがお前達が出した結論だな」
「ああ、そうだ」
「オルトシャンさん、ごめんなさい。私も王国に帰る気はありません」
オルトシャンさんは目を伏せ、しばらく思慮をめぐらせた後に口を開いた。
「ならば已むを得ん。王国の未来の為、今この場で聖女には消えて貰う」
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