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第50話 女神の口づけ
しおりを挟む「シェリナ、お前が意識を失うのとアザトース殿が意識を取り戻すのはほぼ同時だったそうだ」
「そうなんですか。結構ぎりぎりだったんですね」
「丁度その時、起き上ったアザトース殿と倒れかかったお前がこう接触する事になってな」
神父様は身ぶり手ぶりでその時の状況を伝える。
神父様が右腕を垂直に立て、左腕を九十度横に倒す。
右腕が私で、左腕がアザトースさんを表している。
神父様は右腕をゆっくりと倒す。
これは気を失って倒れていく私だ。
続けて左腕をゆっくりを立てていく。
意識を取り戻して起き上がるアザトースさんだ。
そして右腕と左腕が丁度四十五度の角度になった時、掌がぴったりとくっついた。
「あー、頭と頭がぶつかった感じですか。アザトースさんにタンコブとかできてなければいいけど」
私の天然の発言に対して、周りのシスター達がぷっと噴き出した。
「シェリナ、頭がぶつかったなら掌じゃなくて手の甲でしょう。もっとよく状況を考えてごらん」
「あ、そうか。じゃあ掌同士がぶつかったんだから、お互いの顔面が……ほえっ?」
シスター達だけではなく、神父様までが満面の笑みを浮かべてこちらを見つめる。
「えっと……それはつまり……私とアザトースさんが……」
「古来より聖女のキスはまたの名を女神の口づけと呼ばれていてな。相手の中に眠っていた力を一気に覚醒させる効果があるという。聖女となった者が王族等の上位貴族と結ばれる習わしもこれによるところが大きい」
「し、神父様! そんな事淡々と説明しないでええええええ!」
私には以前エイリーク王子という婚約者がいたが、キーラの妨害もあってそこまで進展した事は一度もない。
無意識の内にアザトースさんにファーストキスをプレゼントしてしまった。
どうしよう。
恥ずかしくて今後アザトースさんにどう接すればいいのか分からない。
「ヒュー、ヒュー」
私はシスター達に弄られながらそんな事を考えていた。
ファフニルが覚醒したアザトースさんに一瞬で倒された後、エミリアの祝福の歌の力で負傷兵達は全員生還を果たす事ができたらしい。
この活躍によって私が任期を終えた後の次期聖女はエミリアで決まりだろうといわれている。
戦闘の最中、敵前逃亡をしたエイリーク王子はそれに激怒した国王アルガノン陛下によって王太子としての立場を剥奪され、代わりに破壊神が相手でも勇敢に戦い抜いた王位継承権第二位のビバリー王子が王太子の座につく事になった。
それと同時にエイリーク王子の婚約者となっていたティファニス嬢はビバリー王子に鞍替えを計画しているという。
実家を失ったばかりだと言うのに強かなものである。
今回の一件で王国内の情勢が大きく動く中、私を取り巻く環境についても問題が勃発した。
聖女がイザベリア聖王国の守護を放棄して魔界で魔王と暮していた事は既に世間に明るみになっている。
問題にならないはずがない。
クロネの教会でたっぷりと休息を取り、そろそろ魔王城へ戻ろうかと思っていた私の前に、物々しい雰囲気をしたイザベリア聖王国の兵士がやってきた。
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