上 下
32 / 56

第32話 ゲルダ侯爵領へ

しおりを挟む
「いやはや助かりました。あの魔獣どもをあんなに簡単に蹴散らすとは本当にお強いですね。おっと申し遅れました、私はこの一団のリーダーのポメラーニと申します」

「こちらこそ申し遅れました。彼はカルボナーラ、私は妹のペペロンチーノと申します」

 私達は助けた行商人にお礼としてゲルダ侯爵領まで荷馬車に乗せていって貰う事になった。
 正体を悟られないように適当に考えた偽名を名乗る。

「このご時世に旅をされるとは大変でしょう。それにしてもお二人ともイザベリア聖王国語がお上手ですね」

 イザベリア聖王国では珍しい漆黒の髪のせいか、彼らは私達を外国人だと思っている。
 もっともアザトースさんは人間ですらないんだけど。

 ボロが出るのが怖いので、アザトースさんには無口な人間というキャラ付けをさせて貰い、受け答えは全て私が行うようにしている。

「ゲルダ侯爵領に昔お世話になった人が住んでいると聞きまして、久々に顔を見に行くところなんです」

「なるほど。あそこもゾーランド公爵領と同様に魔界と接していますが、領主が領内の防衛に力を入れているのでほとんど被害が出ていないそうですからね」

「そうなんですか」

 私は荷馬車に揺られながらポメラーニさんに王国内の現況を伺った。

 ゲルダ侯爵とは対照的にゾーランド公爵は領内への魔獣の侵入に対して全く関心がなく、満足に国境に警備兵を配置していないらしい。
 行商人達が魔獣に襲われていたのもそれが原因だ。

 ゾーランド公爵領ではあまりにも魔獣の被害が大きいので、他の土地へ逃げ出す領民が後を絶たないという。

 既に領内はボロボロなのだが、ゾーランド公爵が対策をしないのは娘であるキーラの事で手がいっぱいだからだという。

 キーラは聖女である私が不在中に聖女の代理として聖女の卵達を統率しているそうだが、あのお粗末な破邪の結界を見ても分かる通り私の代わりは勤まっていないらしい。

 その為に魔獣達は我が物顔で王国内に侵入し、被害を受けた王国の民衆達は皆聖女代理であるキーラの責任であるとして彼女を糾弾している。

 ゾーランド公爵はそんな娘への風当たりを逸らす為に工作部隊を編成。
 キーラではなく失踪した聖女である私に責任を押し付けるよう世論を操作しようと奮闘しているらしい。

 しかしすでに王国にいない私に責任を擦り付ける工作は上手くいくはずもなく、難航しているという話だ。

 キーラは自業自得だからいいけど、彼女に付き合わされている聖女の卵達は可哀そうだと思った。


「カルボナーラさん、ペペロンチーノさん、ご覧下さい。あそこがゲルダ侯爵領です」

 私達の前方に巨大な城壁が見えてきた。

 魔界と接していたこの土地は遥か昔から度々魔物の侵略を受けており、それを重く見た領主は何代にも渡り長い年月をかけて領地全体を囲む巨大な城壁を築き上げた。

 おかげでこの土地では破邪の結界が効力を失ってからも魔獣の被害はほとんどないという。

 ゾーランド公爵領とゲルダ侯爵領、同じセリベリア聖王国内でもえらい違いである。

「そういえば知っていますか? ゲルダ侯爵の一人娘であるエミリア嬢も聖女としての修行をしていたそうで、王宮でキーラ嬢のお手伝いをしていたそうですよ。もっとも、あまり役に立たなかったとかで今はお屋敷に戻ってきているそうですが」

「そうなんですか」

 どれだけ聖女としての修行を積んだ者でも、女神様の加護を受けた聖女の力には及ばない。
 彼女を責めるのは酷だろう。

 でもあのキーラの下から離れられたのなら彼女にとっても幸せかもしれない。

 そんな私の思いを余所に、荷馬車はゲルド侯爵領の入り口の門の前に到着した

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

会うたびに、貴方が嫌いになる

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。 アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。

木山楽斗
恋愛
聖女であるシャルリナ・ラーファンは、その激務に嫌気が差していた。 朝早く起きて、日中必死に働いして、夜遅くに眠る。そんな大変な生活に、彼女は耐えられくなっていたのだ。 そんな彼女の元に、フェルムーナ・エルキアードという令嬢が訪ねて来た。彼女は、聖女になりたくて仕方ないらしい。 「そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげると言っているんです」 「なっ……正気ですか?」 「正気ですよ」 最初は懐疑的だったフェルムーナを何とか説得して、シャルリナは無事に聖女をやめることができた。 こうして、自由の身になったシャルリナは、穏やかな生活を謳歌するのだった。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

家族と移住した先で隠しキャラ拾いました

狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」  ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。  「「「やっぱりかー」」」  すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。  日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。  しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。  ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。  前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。 「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」  前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。  そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。  まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...