上 下
25 / 56

第25話 雨降って地固まる

しおりを挟む

「こら、やめなさいバルカスくん!」

「うわああああああああああああ!」

 アンリマンユ先生が止めるのも間に合わず、怒りに我を忘れたバルガスくんが放った炎の球は校庭の中央で爆発した。

 辺りに炸裂音が轟き、生徒達の悲鳴と鳴き声が響き渡る。

 私は咄嗟に校舎から飛び出して生徒達に駆け寄った。

「みんな大丈夫? 怪我はない?」

「シェリナ様、バルガスくんとシュウくんが……」

 幸い他の生徒達は離れていたので無事だったが、当事者であるバルガスくんとシュウくんが至近距離で炎の球の爆発に巻き込まれて負傷をしていた。

「痛い、痛い……」
「血が止まらないよお」

「大変!」

 私は二人に駆け寄ると、祝福の歌を口ずさんだ。

「ラー、ラー……」

 周囲が淡い光に包まれ、傷だらけだった二人の身体はあっという間に完治した。

 二人が回復したのを確認した私はまずバルガスくんの頭にげんこつを振り下ろした。

「いたっ」

「ちゃんと先生のいう事を聞かないからこうなるんです」

 続いてシュウくんの頭にもげんこつを振り下ろす。

「いてっ、どうして僕まで……」

「バルガスくんが怒ったのはシュウくんがからかった事が原因です」

「……」

 最初は不満そうにしていたシュウくんも、私の言葉にハッとする。

「はい、お互い自分が悪かった部分を反省したら仲直りをしなさい」

「……怪我をさせてごめんなさい」
「……からかったりしてごめんなさい」

 お互いに謝り、ぎこちなく握手をして仲直りをする。

 これにて一件落着……かな?

「それじゃあアンリマンユ先生、授業を続けて下さい」

「はい。いつ見てもシェリナ様の治癒の力は素晴らしいですね」

「私もアンリマンユ先生の魔法の数々には驚かされています」


 その後の魔法の授業は滞りなく進み、昼食を挟んで午後には道徳の授業が行われる。

 私は今日こそ生徒達の心を動かしてみせると意気込んで教室の扉を開き、教卓へと足を進めた。

「起立!」

 その瞬間、シュウくんの号令が教室内に響いた。

「礼!」

「「「お願いします!」」」

「着席!」

 いつもと違う雰囲気に私は戸惑いながら授業を始めた。

 今日はお互いに対立していた二つの家に生まれた男女が恋に落ち、運命いに翻弄された末に共に命を落としてしまうという悲劇の話だ。

「──こうして、ロミーとジュリエールという二人の尊い命を奪ってしまった両家は、自らの愚かしい行為に大いに後悔の念を抱き、和解をして共に手を携えて生きていく事を選んだのです」

 昔観た演劇をモチーフにして、私なりにアレンジをしたお話だ。
 この話を聞いて争う事の不毛さを理解して貰いたい。

「どうかな、みんな私が言いたい事分かった?」

 私は生徒達を見回し反応を伺う。

「……なんか今日のシュウくんとバルガスくんみたいだったね」

「う、うるせー!」

「やっぱり喧嘩はダメなんだよ」

「あそこにシェリナ先生がいたらロミーもジュリエールも死なずに済んだかもしれないのにね」

 雨降って地固まるというべきか、どうやら生徒達は分かってくれたようだ。
 私の教育がようやく実を結んだ瞬間である。


 感慨に耽る私の前に二人の女生徒が歩み出て口を開いた。

「でもシェリナ先生、ロミーもジュリエールもどっちも男の子みたいな名前ですね……それってつまり……」

「え!? そうなの?」

 適当に付けた名前だからそんな事考えもしなかった。
 そもそも魔族の男女の名前の付け方の違いなんて知らないし。

「いいですね、インスピレーションが湧いてきました!」

「私達、人間の小説って文化に憧れてるんです。この話を元に一作書いてみます!」

「は、はぁ……頑張ってね」

 どうやら魔界で新しい文化が花開く瞬間に立ち会ってしまった気がする。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。

木山楽斗
恋愛
聖女であるシャルリナ・ラーファンは、その激務に嫌気が差していた。 朝早く起きて、日中必死に働いして、夜遅くに眠る。そんな大変な生活に、彼女は耐えられくなっていたのだ。 そんな彼女の元に、フェルムーナ・エルキアードという令嬢が訪ねて来た。彼女は、聖女になりたくて仕方ないらしい。 「そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげると言っているんです」 「なっ……正気ですか?」 「正気ですよ」 最初は懐疑的だったフェルムーナを何とか説得して、シャルリナは無事に聖女をやめることができた。 こうして、自由の身になったシャルリナは、穏やかな生活を謳歌するのだった。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

身に覚えがないのに断罪されるつもりはありません

おこめ
恋愛
シャーロット・ノックスは卒業記念パーティーで婚約者のエリオットに婚約破棄を言い渡される。 ゲームの世界に転生した悪役令嬢が婚約破棄後の断罪を回避するお話です。 さらっとハッピーエンド。 ぬるい設定なので生温かい目でお願いします。

家族と移住した先で隠しキャラ拾いました

狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」  ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。  「「「やっぱりかー」」」  すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。  日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。  しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。  ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。  前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。 「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」  前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。  そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。  まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――

聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。 聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。 やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。 女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。 素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。

処理中です...